見出し画像

3月4日 差し入れの日 【SS】制裁への執念

【今日は何の日】- 差し入れの日

東京都新宿区新宿に事務局を置き、仕事を頑張る人たちが前向きな気持ちになることで効率を上げ、日本を明るく元気にすることを目指す日本残業協会が制定した記念日であり、働いている人に差し入れをしてモチベーションをあげてもらおうというのが主旨の日である。

日付はこの頃が多くの会社で決算前の繁忙期であることと、「さ(3)し(4)いれ」(差し入れ)と読む語呂合わせから制定された。

あなたの会社でも上司からの差し入れがあったりしていませんか?


【SS】制裁への執念

 とある田舎町に森金富夫と名乗る富豪が住んでいた。妻は楓という。大きな屋敷に二人で住んでいた。子供はいない。いやできなかったようだ。富豪にしてはおごることのない夫婦で、お手伝いさんも雇うことなく二人だけで住んでいた。ある日、妻の楓は久しぶりに同窓会に出席することになり、一人で出かけた。一泊の予定である。気持ちよく送り出してくれた夫とはこれが最後となるとは思ってもいなかった。

 同窓会が街のホテルで行われていた夜八時ごろ、楓の携帯が鳴った。警察からだった。強盗に入られて富夫は病院に搬送されたというのだ。楓は全身から血の気が引いていく思いだったが、何としても病院に行かなければとフロントにタクシーを呼んでもらい大学病院に駆けつけた。しかし、すでに富夫は死亡した状態で病院に運ばれていたらしく、死亡の宣告を医師から告げられた。

 程なくして犯人は捕まった。闇バイトで集まった強盗団だった。実行犯は三人組でその中の一人が富夫を殺害したのだった。実に雑な犯行で包丁で富夫の体を何度も刺していたようだった。テレビでも取り上げられ報道された。警察から楓に対しては犯人の説明はほとんどなかったのでニュースやネットが頼りだった。一ヶ月が経ち世の中では忘れ去られ始めようとしている時、楓は決断した。

『もう富夫さんは戻ってこない。私に残された財産なんて何の意味もない。この財産を全て使ってでも制裁を下してやりたい。優さんに相談してみよう』

 優さんとは面識のある友達ではない、ネット上のサイトで知り合った犯罪マニアのような人だった。経緯を伝え、刑務所内にいる犯人に鉄槌を下したいので方法を教えて欲しいとメッセージした。しばらくして返事が来た。楓は早速行動に移して行った。

 楓は犯人が収監されている刑務所を突き止めその同じ刑務所に収監されている無期懲役の刑を受けているものや死罪宣告を受けているものたちを調べ上げ、家族がいる受刑者を絞り込んだ。そして知人のフリをして面会に行った。何度か面会を重ねて重松敏夫という受刑者が話になびき始めた。楓が提示した依頼は家族に対して金銭線的支援をする代わり、富夫を殺害した犯人を刑務所の中で亡き者にして欲しいということだった。あとはお互いを信用することができるかどうかである。全ては口約束でしかない。最後の面接の時、楓は重松の家族の口座に五千万円を振り込んだという明細を重松に提示し、重松も覚悟を決めた。その時、楓は重松への差し入れとして文庫本を数冊持ってきていた。どれも何の変哲もない小説だった。

 依頼を受けた重松は、休憩時間の運動する時間に実行するしかないと考え、犯行を決心した日に、差し入れでもらった小説を引き裂いた。背表紙にプラスチックの薄い五センチ程度のペーパーナイフが仕込まれていたのだった。袖の中に隠して運動に出た。日の当たる反対側にターゲットはいた。重松は富夫を殺害した若い男に静かに近づいていき、手をあげ話しかけるフリをした。そばに寄った瞬間にいきなり袖口から出したペーパーナイフを首に突き刺した。若い男は反応する暇もなくその場に血飛沫を上げながら倒れ込んだ。そして重松は続けて馬乗りになり心臓目掛けてペーパーナイフを差し込んだ。その時看守が駆け寄ってきて重松は取り押さえられた。

「雑誌のニュースで知って同じ刑務所に犯人がいることを知り、カッとなって殺してしまいました。あんなことをする人間はここを出てもまた同じことをすると思い天に変わって俺が制裁してやろうと思ったんですよ。俺はどうせ死刑だしな」

 重松は取り調べでそう言った。その後この刑務所内での殺人はニュースで大きく取り上げられることになり、刑務所での管理のあり方が見直されることに発展していった。結果的には雑誌で知った内容で重松が憤りを感じ反抗に及んだということで報道されていた。犯行に使ったペーパーナイフは文庫本の背表紙を固定するために使われるうすいプラスチックの板だったとも報道された。手作りの文庫本だったということで市販されている本には入っていないらしい。

 ニュースを見ていた楓は、テレビを見ながら何度も『ありがとう』と呟いていた。楓自身も法的にはいけないことだと解ってはいても自分より大切な夫を奪われたことに対する憎悪の心の方が大きかった。法に委ねて何年か先に刑務所から出てくる可能性があるということ自体が到底許せなかった。楓は後悔はしていなかった。楓が重松に面会に行っていたということは遠からず発覚するだろう。そうすると振り込んだお金も没収されてしまうかもしれないと楓は思い、現金を準備し宅急便を利用して重松の家族のもとに送った。もちろん偽名を使って処理をした。

 そして、最後は自分の番だと思い、大好きだった夫が座っていたリクライニングチェアに深く座り、大量の睡眠薬を飲んで床に火を放った。


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
コメントも気軽に入れていただけるとうれしいです。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説


いいなと思ったら応援しよう!

松浦 照葉 (てりは) よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。

この記事が参加している募集