【SS】 思い出はガラスの中に #シロクマ文芸部
ガラスの手が僕の方に伸びてきた。向こう側まで綺麗に透ける美しいしなやかで柔らかな温かいガラスの手だ。そっと僕の頬に手を当て、君は毎朝やさしく起こしてくれる。1日の始まりだ。朝食のいい香りもしている。
恋人の火乃香は一年前に飛行機の事故でこの世を去った。それは結婚式の一ヶ月前。知らせを聞いた時は頭の中は真っ白になり、何も手につかなかった。火の様に熱い心を持った優しい女性。いつかひょっこりとドアを開け「ただいま」と言って部屋に飛び込み、僕に飛びついてくる夢ばかり見ていた。
もう一度火乃香に会いたいという気持ちがどうしても止められなくなった僕は、ある決心をした。僕の記憶の中にある火乃香を現実世界に甦らせようと。僕は美しかった透き通る様な君の肌を再現する材料を探し求めた。金属、シリコン、ゴム、木材、プラスティック、アクリル、色々考えるがもっと透き通るものがいい。そして行き着いたのが「柔らかなガラス」だった。一般的なガラスでは無く、まるで液体の様な感触のガラスだ。しかも光の反射角度を自由に調整できるので、人間の目には透明なガラスだけでできている体を作ることができそうだ。
僕は考えた。ロボットの骨格が透けて見えてしまうのは避けたい。光の反射角度を調整できれば、骨格を避けて透過させることができるはずだと。そして、予想通りに美しく透き通る「君」が誕生した。ガラスの火乃香。
最後に思い出の動画や写真を学習させ体温を与えた。全てを学習したガラスの火乃香は温かい手で僕の頬を撫で、一粒の涙をこぼしながら言った。「ただいま」
こうしてガラスの火乃香との生活が始まった。毎日変わらない生活だけれども生きている間、僕はいつまでも癒されるのだろう。今日も火乃香は、いつものようにやさしいガラスの手で僕の頬を撫でて起こしてくれる。ただ、火の様な熱い心の再現はできなかった。でも、それでもいい。
了
下記企画への応募作品です。
🌿【照葉の小説】ショートショート集 ← SSマガジンへのリンク
🔶 🔶 🔶
いつも読んでいただきありがとうございます。
軽いコメント、お待ちしています。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。