8月8日 親孝行の日 【SS】親友
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 親孝行の日
1989年(平成元年)に親孝行全国推進運動協会が制定。
「88」が「は(8)は(8)」「パ(8)パ(8)」と読める語呂合わせと、「ハチハチ」を並びかえると「ハハ(母)チチ(父)」となることから。「親孝行したい時に親はなし」というように、あとで後悔することがないように、親への感謝の気持ちを形にしたい日。
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【SS】親友
「おい。寅之助、少しはお前の友達の誠一を見習って家の手伝いでもしろ。全く、お前ときたら、毎日毎日、親不孝通りに通い詰めじゃねえか。仕事もしないで、いつまでブラブラしてるんだ」
「俺だって好きでブラブラしてるわけじゃねえや。親父がぎゃあぎゃあうるさいから、家に居たくないだけなんだよ。誠一とは家庭の環境が全然違うじゃねえか。一緒にすんなよ。まぁ、学歴も違うことは事実だけどな。じゃあ、出かけてくるからな」
アーケード商店街にある八百屋の店先での親子の会話だ。親不孝通りとは、アーケードを出て横道に入った通りのこと。スナックやら居酒屋が立ち並ぶ通りで、ここにくる客はもれなく帰りが遅くなるので、親不孝通りと名前がついたようだ。どうやら、同じ名前の飲屋街は日本全国至る所に存在するらしい。
寅之助は迷うことなく親不幸通りにある「人生」というスナックのドアを開けて入って行った。店の中はカウンター七席とグループ用のソファー席が一つあるだけの小さなスナックだった。カウンターでは、先に飲んでいる親友が待っていた。誠一だ。実は寅之助と誠一は幼馴染ということもあるのだが、喧嘩の強い寅之助と何事にも要領のいい誠一はなぜか馬があったようで、小学生の時からずっと親友と呼べる関係が続いていた。ただ、寅之助は高校を卒業したらブラブラする生活に浸かっていたのだが、誠一の方は、大学で法学を学び、父親が経営する弁護士事務所に就職していた。この二人の間には、やっかみとか自慢ということはなく、それぞれの悩みを共有するほど仲がよかった。
「お、いつも早いねぇ。俺はまたお前と比較されちゃってさ。親父から、出がけに小言をもらっちまったよ」
「いつものことじゃないか。気にするなよ。お前らしくない」
「バカ言うな。俺だってさ、お前みたいに親孝行に見られたいんだぜ。本当は」
「ははは、わかってるよ。お前は口下手だからな。上手に言えないんだろ。だってさ、お前なんてさ、八百屋継ぐ気満々で野菜の勉強ばっかりしてるじゃん。そんなことお前の親父さん知らないんだろ」
「ああ、親父は知らない。驚かせてやりたいからな」
「でも、あんまりひっぱりすぎると逆効果になるかもしれないぞ。早く親父さんに言って店の切り盛りの仕方を教えてもらった方がいいんじゃないか」
「そんな簡単な親父じゃないし、もう少し勉強してからだな」
「そんなもんかなぁ。本当の親孝行はお前の方かもしれないな」
「何を言ってんだよ。誠一の家は弁護士事務所じゃないか。俺なんか逆立ちしても入れない場所なんだぞ。そんな環境、ありがたく受け入れなくちゃいけないぞ」
「そうだな。まぁ、環境はありがたいと思ってるんだ。ただ人を救うことに夢中になりすぎて自分の人生を壊してしまった人だからなぁ、僕の父親は」
誠一の父親は仕事にのめり込みすぎて家庭のことまで気が回らなかったのだ。結局夫婦の間には亀裂が入り、誠一が小学生の時に離婚してしまった。そのあとは誠一と二人暮らしを続けていて、誠一は父親を裏切るような行動を取ることはできないまま成人してしまった。そして、それは周りから見れば、親孝行な息子に映っていたということだった。誠一は仕事での父親は尊敬していたものの、本当は弁護士ではなく公正に罪を見極める検事か裁判官になりたいと思っていたのだった。
一方、寅之助は成績がいい方ではなく口数も少ない方で誤解を受けやすい性格だった。曲がったことは大嫌いで、誠一がいじめられたりすれば必ず助けていた。ただ、その時も相手を殴ってしまうので、学校からは注意され、親は何回も呼び出されていた。寅之助はどんな時も口を閉ざしたまま、何も言わないので、いつも怒られていたのだった。寅之助は夫婦で八百屋を経営している両親が好きだったが、何をしても怒られてしまう要領の悪さに嫌気が差し、思っていることと反対の行動を取ってしまっていたのだ。それが成人してからは親不孝通りに毎日のように通う行動に繋がってしまったのだった。
毎日のように通うスナック「人生」のママは、すでに八十歳を迎える女性だった。寅之助のことも誠一のこともよく理解してくれて話を聞いてくれた。二人にとっては、まるで本当のおばあちゃんのような存在だったのだ。このママの経験を聞いたりアドバイスを聞きたいために通って来ているといってもよかった。ママはよく二人に言っていた。
「二人とも自分の親のことが大好きね。誠一はお父さんからいつもよく思ってもらいたいと思って行動しているし、寅之助はお父さんから先に怒られてしまうからついついそれに反応して、心と反対のことを言ってしまうみたいね。二人とも、自分に正直になってみたらいいのに。そう思うけれど、これまでの時間が邪魔しているのかな。ここではこんなに素直になれているのにね」
二人とも、お店のママの前では、本当の自分を出せていた。それはおそらく、自分を偽る必要な環境がないからなのだろう。そして、今日のママはこんなことも言った。
「もしかしたら、あなたたちのお父さんは、あなたたちからの本当の言葉を待っているのかもしれないわよ」
その日、いつもより早くスナックを後にした二人は、それぞれの家に帰ってから自分の思っていることを正直に話したようだ。寅之助の家族も誠一の家族も、わだかまりが消え、親子の距離は一層近づいたのかもしれない。お互いに分かりあう関係でいることこそが親孝行なのかなと思った今夜の二人だった。
了
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