4月26日 国際盲導犬の日 【SS】忍耐と絆
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 国際盲導犬の日
1989年(平成元年)4月26日に国際盲導犬学校連盟が発足したことを記念して、1992年(平成4年)に同連盟が制定。日付は国際盲導犬学校連盟の発足した日がその年の4月の最終水曜日であったことから決定されたため、毎年日付は少しズレることなる。同連盟は現在、国際盲導犬連盟(International Guide Dog Federation:IGDF)となっている。
目の不自由な人にとって大切な盲導犬の普及と、盲導犬に対する人々の理解を高めることが目的。日本では公益財団法人・日本盲導犬協会が、記念日として一般社団法人・日本記念日協会に申請し、認定・登録された。
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【SS】忍耐と絆
今では電車やバス、レストランに至るまで盲導犬と共に行動している人は普通の光景として見かけるようになった。それでも、盲導犬の数は足りていないのだそうだ。今日に至るまでにはいろんな苦労が隠されているのだろう。
40代で失明してしまった光一という一人暮らしの男性がいた。光一はもともと犬好きだったので盲導犬申請をしていた。自宅での生活には慣れたが外出となるとやはり厳しい。歩道や建物内はバリアフリーで考慮されているものの全てではない。どうしても介助が必要となるので外出は極力控えていた。盲導犬がいてくれたらと切に願っていたのだ。なかなか連絡が来なかったが、やっとシェパードの盲導犬パールがやってくるという連絡が入った。しばらくの同居するための訓練期間を終了しやっと光一の自宅にやってきた。
「パール、これから一緒に生活をする光一だよ。よろしく頼むぞ」
犬好きだと言うことがパールにもわかるのか、光一の言葉にすり寄るような態度で応じ、光一との相性も最初から良かった。パールの世話は目が見えない光一が毎日実施した。家の中では盲導犬の仕事着であるハーネスを外しリラックスさせている。それでも光一が移動すると必ずそばで光一を守るように一緒に動いていた。そこには見えない種を超えた愛情すら感じられる。光一にとっても初めてできた家族のようなパールだったため懸命に世話もしたのだろう。
パールのおかげで光一の行動範囲は格段に広がった。電車やバスなどそれまで敬遠していた乗り物にも進んで乗るようになり、一日中出かけることもしばしばだった。ただ、真夏の暑い日や真冬の凍えるような日は、パールの肉球を心配してよほどのことがない限り出かけることは自粛していた。思いやりである。また、お互いの健康のため、毎朝近くの河原までの散歩は欠かさなかった。パールがやってきてから光一は幸せな日々を感じて生活できるようになっていたのである。
「パール、三年間ありがとう。次の人にも優しくしてやってくれ。本当にありがとう。お前のおかげで世界が広がったよ」
月日は流れパールと光一が生活するようになって三年が過ぎていた。そろそろパールは交代の時期である。パールにとっても幸せな時間だった。しかし契約期間は三年、その後は別の犬に交代することになっている。光一はできればパールと最後まで生活を共にしたかったが仕方がない。パールは文句も言わずに引き取られていった。そして光一は新しい盲導犬の到着を待った。
一旦引き取られたパールは、盲導犬としての働きが問題がないか確認されたあと、新しい飼い主のところに送られることになった。光一の時と同様に最初少しだけ訓練内容を見守られて渡された。新しい飼い主は、五十歳の明子という女性で、目が見えなくなってまだ五年程度しか経過していない。盲目の生活に中々慣れず外出はほとんどできていない。それに加え動物はあまり好きではなかった。古い一軒家に住んでおりパールは明子の寝室とは別の部屋に寝かされるようになった。パールはどことなく警戒している様子だった。
「パール、お前の部屋はこっちだからね。私の部屋には入ってくるんじゃないよ」
明子は、自分の食事をやっと作れるようになっていた。と言ってもほとんどはレンジでチンするものばかりだ。近くに住んでいる友達が買ってきてくれるので自分では買い物には行かない。日焼けすることも嫌いらしく日があるうちの外出はほとんどしない生活だった。なぜそんな生活をしていて盲導犬利用の申請をしたのだろうか。実は友達の百合子が外出しないことを心配してくれたからだった。明子本人としてはあまり歓迎はしていなかったのだ。友達は盲導犬がくることによって以前のように外出し明るくなってくれることを望んでいたのだが、一旦落ち込んだ暗闇からは簡単に抜け出せそうにはなかったようだ。
ある日明子が住んでいる地域で大きな地震が発生した。未明のことである。明子はまだベッドで寝ている時だった。突然グラっと揺れたかと思うと激しい横揺れに変わった。明子の部屋でベッドの足元側のほうの壁に置いている洋服ダンスが揺れ動き、ベッドの上に倒れてきそうな感じだった。その時の揺れで開きかけたドアからパールが飛び込んできて、明子のパジャマの袖を咥え、ベッドから引き摺り下ろすような仕草で、ベッドの頭の側からベッド下へと引っ張った。明子は尻餅をつくような体制でベッドから引き摺り下ろされた。一瞬、噛み殺されるのかと明子は恐怖に震えた。その瞬間、揺れに耐えられなくなった洋服ダンスがバターンとベットの上に倒れてきた。
「ひいっ、いったい何が起きてるんだい。まだ揺れている。パール、お前は噛み付いてきたんじゃないのかい」
しばらくして揺れがおさまった。もしベッドに横たわっていたままだったら完全に足の骨を折っていただろう。揺れが落ち着いた頃、明子は起き上がりベッドの上に倒れ込んできたタンスを触って確認した。
「パール、私はお前を邪険に扱っていたのに、私を助けてくれたんだね。ありがとう。動物はあんまり好きじゃなかったけどパール、お前なら安心できそうだよ」
その後救援活動が始まり明子のところにも救助隊がやってきた。明子の友達も一緒だった。
「明子、大丈夫だった。ものすごく強い揺れだったわね」
「ああ、百合子。死ぬかと思ったけど、パールがね、パールが助けてくれたのよ。私をベッドから引き摺り下ろしてくれたの」
「まぁ、パールが来てて良かったわね」
こうして明子とパールの間にも絆が結ばれた。この後は同じ部屋で寝るようになったことは言うまでもなく、洋服ダンスは隣の部屋に移動され、揺れ対策もしてもらった。明子は毎朝夜明け少し前に起きるようになり、パールと共に朝の散歩をするようにもなり表情もだんだんと以前のように明るくなってきている。パールは散歩の途中で川の近くに行くと一瞬立ち止まって匂いを嗅いで懐かしんでいるような仕草をしている。
信頼し合うということは、生きていくためには欠かせない心の結びつきであるということを盲導犬は教えてくれているようだ。一方、盲導犬の一生は人間に尽くすために犬としての楽しむ時間を我慢することを強いられているのである。そのことも決して忘れることなく接していかなければならない。
了
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