【SS】不思議な交差点の名前に隠された秘密
先日車を走らせていて信号が赤で停止した時のこと。「新屋敷」という交差点の名称なのだが、よく見るとうっすらと文字が見える。薄い文字の方を読んで見ると「たてこもり」と読める。ググッて見ても特にヒットしない。
しかし、名称を書き換えるとしてもうっすらと透けて見えるような消し方をするものだろうか? もしかしたら、雨風によって浮き出て来たのだろうか。なんとなく「新屋敷」という表示も薄いような気もする。
それにしても、下に見えているのが「たてこもり」というのはまた意味深である。まるで、この場所でたてこもり事件があったみたいな感じだ。ということで、この看板を見て思いついたことをショートショートにしてみた。
不思議な交差点の名前に隠された秘密
この地域では昭和の時代に郵便局立て籠り事件があり、不幸にも無差別殺人が行われた。郵便局職員やたまたま居合わせた郵便局に来ていた人々が多く犠牲になった。犯人は自殺してしまい真相はわからないまま犯人が死亡すると事件で決着した。かろうじて生存者となった一人の若者は当時の恐怖を赤裸々に語った。
「たまたま、入った郵便局でトイレを借りていたら銃声のような音が聞こえて来たので怖くてトイレから出ることができなかった。しばらくすると銃声が止んで静まり返ったので震える足を抑えながらトイレのドアを開けたら、そこは地獄絵みたいに血だらけの人が倒れていた。犯人も自殺していたようだった。そのまま放心状態のようにしていたら警官が入って来て助け出された」と若者は声を振るわせながら話したようだ。
この事件が起こったことを忘れないためにも市当局は交差点の名称を「たてこもり」にしたのだった。漢字にしなかったのは、少しでも柔らかい表現にしたかったからのようだ。それから年月は流れ、平成も終わりかけの頃、郵便局の跡地を安く購入する人が現れ、新しく家を建てることになった。その際に土地の購入者が市に陳情したようだ。「たてこもり」という交差点名称を変えてほしいと。これから住むことになる場所が立て籠り事件を想像させる名称では気持ちのいい生活ができないと訴え、ならば新しい家が建つのだから「新屋敷」にしましょうと快く交差点名称の変更が承諾された。
しかし、その後、それまでの使っていた交差点名称を書いたプレートを白く塗って上から新しく「新屋敷」と書いたものが年月の経過と共に、しだいに色が落ちてしまい下地が透けて見えるようになったらかった。
周りの住民は、まだ怨念が抜けていないのではないかと噂をたて、以前にもまして事件のイメージが強い交差点となってしまった。新しい家の主人はこのことでも悩まされることになった。新しい家には夜な夜な黒い影が出てくるらしいのだ。そしてその影の数は当時の事件で犠牲になった人の数と同じ数だったという。新しい家の主人は次第に精神状態がおかしくなり、ついにはロープで首を吊って自殺してしまった。一人暮らしだった。
そして月日は流れ、令和になり新しい事実が判明した。自殺した新しい家の主人は、実は昭和立て籠り事件の犯人だったという事実が公になった。郵便局にいた人たちを全員殺害して自分は被害者の生き残りであると自作自演していたのだった。
この男は金銭が目的ではなく、殺人が目的で郵便局に入ったらしい。そして、全員を殺害した後何食わぬ顔で、郵便局の土地が値下がりするのを待っていた。平成に入り根が下がりきったと判断した犯人は土地を購入した。値上がり益を狙っていたようだ。しかし、怨霊という思わぬ敵に敗北することになってしまったのだった。
この犯人は小説を書くことが好きで、自分が起こした事件のことを細かくノートに小説として書き、机の引き出しにしまっていたが男の自殺と共にそのノートが発見され、犯人しか知り得ないことまで記述されており、事件の真相解明につながったようだった。関係者が全員死亡となった事件はこうして幕を閉じた。
たった一つの不思議な看板でも、物語は浮かんでくるのだなと思った瞬間でした。もちろん全てがフィクションであり妄想の創作作品です。
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