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【SS】首都高でのオーバーヒート

 最近の車はいろんなところにセンサーが付いているのでよっぽどのことがない限り、出かけた時に修理を依頼するということはないでしょう。ところが半世紀ほど前の車は、バリバリのアナログ時代だったので、ワイヤーが緩くなったりベルトが摩耗したりというちょっとした異常には気付きにくいものでした。裏を返せば五感をフルに使って運転を楽しむのにはとても適していたのかもしれませんね。

 今は電子制御の燃料噴射も昔はワイヤーで弁の開閉を制御していたり、エンジンを始動する時には、チョークと呼ばれたレバーを引いて、空気の流入を一時的に遮断してエンジンの中でガソリンに点火していたりしたものです。懐かしいと思う人もまだまだ多いのではないでしょうか。えっ、ミッションですか。当たり前のようにマニュアルでクラッチ付きでしたよ。エンジンの回転数とギアの関係を覚えて、クラッチを使わずにギアを変更するような遊びもしたことがあります。車にとっては良くないのでちょっと自慢したい時にだけやっていました(笑

 そんな車を運転していた頃は、寒くなるとトラブルに見舞われたことも多くありましたよ。寒すぎてチョークを引いてもエンジンがかからなかったり、突然パンクしてぺったんこのタイヤのままゆっくりとガソリンスタンドまで運転したり、いきなりのオーバーヒートに襲われ、エンジンを切ってもエンジンが動きっぱなしということもありました。まぁ、中古で買った車だったということもさることながら、いろいろと面白い経験をしたものだと思います。

 これらのエピソードの中で、首都高を走っていた時に起きたアクシデントを取り上げて話を進めたいと思います。皆さんは、オーバーヒートを認識したらどうしますか?そもそも、オーバーヒートを経験した人が少ないかもしれませんね。

 私が経験したオーバーヒートは、アクセルを踏んでいるのに、スピードがだんたん落ちていき、水温計の表示が高温の方に張り付き、エンジンルームからは金属音の高い音がしていました。これはおかしいと思い、高速道路に設けられている避難場所に車を寄せて止めました。

 そしてエンジンキーを回してエンジンを切りました。しかし、エンジンが止まりません。キンキンキンという金属音がしていました。膨張して径が小さくなったシリンダーの中を苦しそうに上下しているピストンのせいかもしれません。よく見ると、ラジエーターの下の方に小さい傷があり穴が空いているようです。そう、水漏れです。エンジンを冷やす役割の水がほぼ無くなっていたのです。季節は雪の舞う冬で深夜二時です。外はめちゃくちゃ寒いのですがエンジンは冷えません。高速道路の方を見ると快適に運転している車が私の横をすごいスピードで通り過ぎていきます。

 避難場所には大抵緊急用の電話ボックスが設置されていますが、当時貧乏だった私は、修理に来てもらうなんていくら取られるんだろうということが頭の中をよぎり、しばし思案しました。水さえ補給できれば少しずつ漏れているとしてもなんとか自宅まで戻れるんじゃないか、それがダメでも首都高を降りてガソリンスタンドに駆け込めるんじゃないかと考えたのです。では、どうやって水を手に入れるか。まさか、チラチラと舞っている雪を集めていては日が昇っても無理でしょう。

 そこで考えました。非常階段で降りればまだ灯のついている家があるかもしれない。そこから水をもらえればなんとかなるかもと考えたのです。初めての高速の非常階段の利用です。外から入れないように柵の中の螺旋階段のようになっていました。トントンと高速を降りて一般道の横まで降りましたが、すぐに出る前にちょっと確認しました。出られるけど入ってこれなくなったらやばいなと思い、ドアノブを確認しました。ドアを開け閉める前に外側のノブを回してみました。案の定、動きません。このまま閉めてしまうと車のところに戻れなくなります。

 しばらく考えました。ドアのロックが出てくる場所に名刺のようなものを挟んでおけばノブが回らなくてもドアは開けられるはずだと思いました。それでも怖いので、まだ内側にいて実験です。そっとドアを開けカードを挟んでそっと閉める。そして、ドアをそっと押してみる。おお、ノブを回すことなくドアが開きました。これで戻ってこれます。

 なんとか戻る手段を確保して街に出ました。しかし既に午前二時過ぎです。なかなか明かりが灯っている家がありません。そんな中で一軒だけ見つけました。恐る恐る、ピンポンしました。すると、中から怒鳴り声が聞こえてきました。

「一体何時だと思ってるの、○×△□(多分旦那さんの名前) いい加減にしなさいよ。今日という今日はゆるさないからね」

 鍵が開いたままの玄関をそーっと開け、発した私の言葉。

「夜分にすみません。やかんに水をいただきたいのですが」

 お互いに罰が悪かったのですが、私も早く戻りたかったので最初の怒っていた言葉にはあえて反応せず、淡々と、車がオーバーヒートしてしまったので水が欲しいんですということだけを伝え、やかんに水を汲んでもらいました。

 私は、やかんに入った水を持って高速に戻りました。ボンネットが開いたままの愛車はまだ、キンキンキンと苦しそうに唸っています。結構まずい状況だなと覚悟しながら、ラジエーターのキャップを開けにかかりました。水が入っていれば思いっきり熱湯が吹き出すのですが、既に入っていません。しかし、水蒸気には要注意です。タオルでぐるぐる巻きにしながら横からキャップを開けました。プシュッという音ともに開きました。思った通りそれほど蒸気も出ません。急いでやかんの水をいっぱいになるまで注ぎ入れ。急ぎやかんを返しにいきました。

 もう一度先ほどの家を訪ねましたが、今回は家の主は玄関まで出てきません。もしかする私が水を入れている間にご主人が戻ってきたのかもしれません。私は玄関をそっと開け、やかんと感謝の言葉だけ置き去りにしてそそくさと戻りました。

「お借りしたやかんは玄関に置いておきます。ありがとうございました。助かりました」

 特に返事はありませんでしたが、九死に一生を得た気持ちで車のところに戻ると無事エンジンは止まっていました。しかし、ここで慌ててはいけません。少し寒いのを我慢してからエンジンを始動しました。今度は金属音はしていません。なんとか持ちこえられそうです。次の出口で高速を出て自宅の方に向かい、無事到着。翌日知り合いの工場に持っていきラジエーターに開いた穴を塞いでもらいました。もちろんタダで。

 こうして、思い出に残る首都高でのオーバーヒートのエピソードになりました。

おわり


経験したことに創作を加えショートショートにしました。

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#創作 #ショートショート #首都高 #オーバーヒート  

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