5月23日 ラブレターの日 【SS】幼馴染
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】-ラブレターの日
松竹株式会社が映画『ラブ・レター』のPRのために制定。
日付は「こ(5)いぶ(2)み(3)」(恋文)と読む語呂合わせと、浅田次郎の短編小説が原作の映画『ラブ・レター』が、1998年(平成10年)のこの日に公開されたことから。恋人や家族など大切な人に想いを届ける日。
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【SS】幼馴染
私には恋してやまない愛しい人がいる。随分と長い間想いを寄せているな。今では結婚して幸せに暮らしている。
僕の名前は、西綾也。僕には幼馴染の女性がいる。小さな頃から僕は彼女にずっと恋をしている。彼女は小学生の時に僕の家の近くに引っ越してきた同級生。名前は、斉藤紗綾で紗里という高校生のお姉さんがいた。僕と彼女の名前に「綾」と言う字が入っているということから仲良くなったと記憶している。紗綾の両親は、ともに教師だったので厳しい家庭で育てられていたが、なぜか僕のことは気にいってもらえていたようだった。もしかしたら、僕のお父さんが弁護士だったからかもしれない。
僕と紗綾は、小学生の時にはほとんど毎日一緒に登校していた。といっても、セキュリティに配慮した集団登校だったので、上級生や他のお友達も一緒だったのだが。それでも僕たちは、いつも仲良く並んで通学していた。クラスは違っていたので好きなタレントの話とか、学校の先生で誰が好きだとか、休みの日に家族で旅行に行ったことなんかを登校の時間でよく話をしていた。もちろん、話しきれないので、学校が終わったら、どちらかの家に遊びに行って話の続きをしたりしていた。そして、紗綾は「大きくなったら綾也のお嫁さんになってあげる」と、ことある毎に言ってくれていたかな。
中学生になっても同じ学校だったので、一緒に通っていたら、同級生から良く揶揄われたりもした。「お前ら、いつも仲がいいなぁ。まるで夫婦みたいだなぁ」と言われたりすると、紗綾は「だって将来はそうなるんだからいいでしょ」と逆に言いこめていた。あっさり認められると揶揄った方は面白くないばかりか、自分の方が恥ずかしくなり、しばらくは揶揄わなくなっていたものだ。でも、紗綾がそう言うたびに、僕は心の中で喜んでいたな。どちらかといえば、僕たちの関係は紗綾が積極的で周りを仕切ってしまうタイプ、僕はどちらかといえばおとなしい方だった。なので、紗綾がなぜ僕を好きでいてくれたのかは不思議でならない。
高校生に進学する時は、二人で同じ進学校を目指し一緒に受験勉強をして、二人とも合格した。高校に入ったら二人で吹奏楽部に入部して紗綾はトランペット、僕はクラリネットを担当するようになった。実は二人とも小さい頃から習っていた楽器だったのだ。入部と共に僕たちはすぐにレギュラーとなり、一年生の時から一目置かれるような存在になってしまった。僕としてはあまり目立ちたくなかったんだが、紗綾は喜んでいた。そんな高校生の時、初めて僕は紗綾にラブレターを書いた。手紙はそれまでにもたくさん書いていたけれどラブレターみたいな内容を書いたことはなく、どちらかといえば交換日記みたいな手紙を書いていた。
高校生なので、そんなに上手な愛を語る文章を書けるわけではなかったが、僕は想いの丈を込めて便箋五枚に心を込めて文字を綴った。紗綾はすぐに返事をくれた。「私も同じ気持ちだよ。絶対結婚しようね」という簡単な文章が書かれたポストイットが返事だった。僕は何時間もかけて書いた手紙に対する返事がこれかと一瞬思ったけれど、内容は嬉しかったので、もらったポストイットを大切に箱の中にしまった。そういえば、これまでも手紙はもらっていたけど、いつも短い返事だったことを思い出したりもしていた。
大学受験の時になり、初めて進路が食い違った。僕は文学を専攻したかった。でも紗綾は数学を極めたいと決めていたようだった。結局同じ大学に進学はできたものの、学部は別々となりお互いの大学生活が始まった。それから、僕と紗綾が大学に入ったことで、会う時間が極端に少なくなり寂しかった。大学に入ってからはサークルに入ることもなく、紗綾は数学に没頭していた。僕は訳のわからない連中と文学について議論をすることが多くなっていたかな。ふと我に帰った時、無性に紗綾が恋しくなるのだけれど、一生懸命に勉強している紗綾を見ていると邪魔することもできず一人で過ごす時間が多くなっていった大学時代だった。
大学を卒業し気づいた時には、二人とも全く別の会社に就職していた。まぁ、当たり前といえば当たり前。紗綾は保険会社の年金数理部という部署に入り、新しい保険商品の開発などを手掛けて生き生きしていた。一方、僕は小さな出版社に就職してあまり売れていない作家の担当となり、締切前に原稿を回収する仕事に追われ続けた。本当は、自分で執筆したかったのにといつも思っていたものだ。
そして社会人となって五年経った頃、僕は紗綾にプロポーズをする。薔薇の花を携えて、紗綾が勤務する会社の前で紗綾が出てくるのを待った。そして定時になり紗綾が現れた時、僕は紗綾の前にひざまづき薔薇の花と指輪をを差し出し、僕は勇気を振り絞って言葉を絞り出した。「僕と結婚してください」と。紗綾は、何も言わずに花と指輪を受け取りそっとキスをしてくれた。周りにいた人たちから大きな拍手が沸き起こったことはいうまでもない。
というような小説を書き続けて、二十年が過ぎてしまった。まるで売れない。理由は解っている。順調に育っていく愛の物語なんて誰も期待していないのだ。途中で試練や予期せぬことがあって面白くなるから小説は読まれるのだと。でも、僕は、幸せな時間だけを綴りたい。だって、これまでに一度もそんな時間を持ったことがないから。小説の中だけでもラブレターを書きたいんだ。
了
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