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【SS 1月8日】勝負事の日

【今日は何の日ショートショート】- 勝負事の日

 日付は「イチ(1)かバチ(8)か」と読む語呂合わせから設定されているが、その目的や設定した団体などは定かではないようだ。「一か八か」は博打用語で、語源は「丁か半か」。「丁」と「半」の各漢字の上の部分の形が数字の「一」と「八」であることに由来している。


【SS】一か八か

 人生には全てを賭けて信じる道を進むことを選択しなければならない時がある。躊躇している間に時間は過ぎ去っていき、希望や夢からは遥かに遠いところに行かざるを得なくなるかもしれない。そんな選択を迫られている一人の青年がいた。

 青年のスマホのラインに着信があることを知らせる音がした。青年が想う彼女からだ。青年は慌ててポケットからスマホを取り出し、ライン・アプリを開いた。

『ごめんなさい。父を説得できなかったわ。危うく監禁されそうになったから窓から逃げ出してきたの。このラインも父に見られているかもしれない。とりあえず私はDHに期待するわ。大好きなアストンマーチンに乗って沈む夕日を見に行きたかった。そしてアサヒも一緒に見たかった。ごめんね』

 青年は内容を見て焦った。彼女は父親に青年と交際していることを話して青年と会ってくれるようにお願いしに静岡の実家に帰っていたのだった。ラインを見る限り、彼女の父は激怒したようだ。彼女の実家は地元では有名で裕福な家らしく、ボディーガードまで雇っているくらいの名士だと聞いていた。おそらく青年の実家とは格が違うのだろう。それで決裂してしまったのだろうと思った。

 それにしてもラインの後半の文章は意味が理解できなかった。DHに期待とはどういうことだ。なぜ代打が必要なんだ。それにアストンマーチンなんて持ってないしそんな話したこともないと頭を捻っていた。アサヒは、、、あ、彼女のアバターにつけられた名前だ。

 青年は必死で考えた。

「DH、、、まさかダイヤモンド・ヘッドのことか。じゃあ、アストンマーチンはなんだ」

 青年はハワイのダイヤモンドヘッド近辺の宿泊場所を検索していた。

「ん、これか。アストン・ワイキキ・サンセット・リゾートというホテルがある。アストンの夕日だ。多分このホテルにアサヒという名前でチェックインする気なのか。アサヒは彼女が使っているアバターの名前だから間違いないだろう」

 青年は、判断が早かった。必死に考えてラインを送ってくれた彼女に会いに行かなければと思い、成田に向かった。向かう途中でハワイ行きのチケットを予約していた。

 青年はとりあえず手ぶらでハワイに飛んだ。冬の日本から行ったのでダウンを着たままだった。ワイキキに着いた時は暑くてたまらず、シャツとパンツとサンダルを買ってホテルへと向かった。彼女は静岡からだから青年のほうが先に到着するだろうと考えていた。

 青年はアストン・ワイキキ・サンセット・リゾートについて、フロントで尋ねた。
「アサヒという女性と待ち合わせているのですが、チェックインしてますか」
「いいえ、ご予約は賜っておりますが、まだご到着にはなられていません」

 フロントでは、流暢な日本語で答えてくれた。青年はロビーで待つことにした。だが、その日はアサヒは現れる気配がない。青年は仕方なく、別の部屋をとり明日に備えることにした。そして、翌日もアサヒは来なかった。一週間が過ぎた。青年の滞在もほぼ限界になってきていた。費用もさることながら有給休暇が残り少ないのだ。青年は仕方なくフロントにメッセージを残して帰りのフライトの予約をした。

 その頃、彼女の実家では何やら親子の会話がなされているようだ。

「ねぇ、パパ。あいつハワイに行ったかな」
「ああ、到着してホテルに着いたそうだぞ。現地の人間から連絡が入った」
「あぁ、やっぱり行っちゃったのね。そうだと思ったわ。超しつこい性格だったのよね。ちゃんと別れられるかしら。だって、私から別れ話したら殺すって言ってたのよ」
「お前を殺させるものか。なんなら、うちの若いのに鉄砲玉させて海の中で眠ってもらってもいいぞ」
「だめよ、そんなこと。とりあえず私はロスに行くから、日本のことはお願いします。親分」
「ばかやろう。父親のことを親分と呼ぶんじゃねぇ」

 こうして彼女はロスに旅立った。どうやら青年は彼女追い回している存在だったようだ。

 青年は帰りのフライト予定の前日、ホテルを出て通りを歩いている時、後ろからアストンマーチンが勢いよく近づいてきて、青年を跳ねてしまった。日暮れどきで前方が確認しずらい時間だったとはいえ、かなりのスピードを出していたので、青年はボンネットの上で一回転して車の後ろまで飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。救急車が来て病院に運び込まれたが既に重体であり、その日が峠のようだった。残念ながら翌日に青年は息を引き取ってしまった。地元の警察はスピード出しすぎの交通事故で片付けられ、保険会社の方で青年の実家との交渉が済んだ。保険金が日本円にして五千万円が支払われ全ては終了した。

 女性の方は無事にロスに到着し、快適な生活を始めたようだった。アストンマーチンを手配したのが父親だということは知る由もなかった。どうやら青年は一か八かの選択を誤ってしまったようだ。選ぶ相手を間違えてしまったのだ。いや、一か八かの選択をしたのは女性の方だったのかもしれない。だとすれば、まんまと成功したと言えるだろう。


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