転居プロジェクト背水の陣 #やってみた大賞
2020年になり、世の中はコロナ禍で大変な時期に突入していました。当時私たち夫婦は広島に住んでいましたが、私の定年退職が2021年3月末で決定していました。もともと、定年後は可能な限り九州に戻りたいねと二人とも九州出身の夫婦で話し合っていたのですが当てがあるわけでもありませんでした。広島では分譲マンションに住んでいて、すでに13年ほど経過していたのです。
計画としては、マンションの買い替えを考えていました。普通に考えるならば新しいマンションを決定したあと、販売している不動産業者と新規契約を締結する際に、現在住んでいるマンションを売却することを前提で購入契約を成立させるということになります。万が一、住んでいるマンションが売れなかった場合は、契約を白紙に戻せるというリスク対策を考えた契約方法です。たぶん、一般的な買い替えの方法の一つだと思います。私たちもそう思っていました。
そのためには、次に住むためのマンションなり戸建なりを決定する必要がありましたが、なにぶん広島に住んでいるということと、コロナ禍で移動がままならない時だったため福岡に行くことがなかなかできません。仕方なく、しばらくはネットを利用していろんな物件を探し回ったのですが、やはり現地で確認しないと判断できないと解りました。2020年秋になる頃に、なんとか時間を見つけて福岡に出向き何件か物件を見学した後、たまたま訪問した新築マンションの部屋が気に入ってしまい、販売担当者といろいろ話をしたのです。我々は買い替えなのでその条件で契約したいということを告げると、予期せぬ提案が返ってきました。
「売りと買いを別々で処理されてはいかがですか。売却を条件とすると期間設定したり最低買取額を設定することになるので、今お住まいのマンションがいい物件であればあるほどお客さまにとって不利になる可能性もあります。この新築の物件を契約しておいて、現在のお住まいが最も高く売却できるようにして手元に残る売却代金を、ローンの繰上げ返済に充てるという方法もありますよ」
マンションの買い替えには、条件付きの契約以外に住んでいるところを先に処理する売り先行と新しい住まいを先に入手する買い先行があるようです。後者の場合は、現在の住まいが人気物件で資金に余裕がある場合に検討する方法であり、どちらかと言えば売り先行が多いのが実体みたいです。私たちに資金の余裕はありませんでしたが、ローンが組めるようならば買い先行の可能性も残されていると思いました。もちろん、二重ローンとなるわけですから、その期間を可能な限り短縮する努力も必要になります。
販売担当者から言われたこの提案は、考えてもいない方法でした。しかし、よくよく考えるとかなりリスクも高い内容です。もし売れなかったら二重ローンだけが残るのですから。とりあえず、部屋を抑えるために仮契約だけして購入の意思があることを提示してすぐに広島に戻りました。その後、今度は広島の不動産業者に来てもらい価格査定と売れそうかどうかを確認しました。そう、人気物件に該当するのかどうかを知りたかったのです。
何社か確認したところ、我々が住んでいた場所は売り物件が少なくマンション指定で空き物件が出るのを待っている方が何組かいらっしゃいますという情報を持ってきた不動産業者がいて、人気物件であるという手応えを感じました。しかも、我々が住んでいた部屋は最上階でもあり眺めも良く室内の傷も気にならない程度だったので、不動産業者も必ず売れますと太鼓判を押してくれました。そして、結果的には何社か問い合わせをした中でその太鼓判を押してくれた不動産業者との間で販売委託契約を締結することにしました。もちろん、担当者の人柄もよく話しやすいということも選択した理由の一つでした。
売却の委託契約をする際に、物件としてはまだオープンにしないでほしいと依頼しました。そうです、その時点で新しいマンションの本契約は済んでいなかったので、万が一契約締結にまで至らず、住んでいるところが売れてしまったら行き先がなくなってしまいます。なんとも綱渡りのプロセスでした。全てはタイミングをぴったりと合わせることしか成功への道はありません。
広島のマンションの売却はなんとかなりそうだという感触を受け、再度福岡に行き、新しいマンションの購入契約を実施して、地元の銀行とローン契約を結ぶことにしたのです。広島のマンションもまだローン残高があったため、いろいろと審査もありましたが、なんとかローンに応じてくれる銀行が見つかり一歩前に進めました。これで後戻りはできなくなりました。まさに背水の陣です。
それから本格的に広島のマンションの販売活動を開始しました。広島の不動産業者は、事前に待ってくれているお客さまに対し「こんな物件がでてきます」みたいな情報を繋いでいたようで、すぐに内覧希望の申し込みがきました。そして、幸運なことに数回の見学で購入を決定してくれる家族が現れたのです。まだSUUMOなどに物件を公表する前でした。おかげで、価格交渉もないまま契約へと進むことができました。こんなに早く売却が成立するなんてびっくりしたくらいです。売り出してから決定まで2週間程度でした。
その頃になると勤務していた会社もリモート対応が主流になっていて、私も自宅での仕事が主流となっていました。そのことは我々夫婦にとっては追い風になりました。福岡に引っ越ししてもリモートで仕事ができるわけです。ということは定年の日を待つことなく引っ越しも可能だということです。最初は、もしかすると3ヶ月程度はホテル暮らしをしなければならないかなという覚悟をしていましたが、福岡からでも仕事ができるということで金銭的にも節約ができて助かりました。
新しいマンションの契約も無事終了し、新居の鍵をもらいに行ったのが12月の半ばでした。それまで住んでいた広島のマンションが思ったより高値で売却できたのも12月。引っ越しはとても寒いクリスマスの前でしたが、おかげで新年を新居で迎えることができたわけです。我々が引っ越した後、広島のマンションは清掃が入り、新しい持ち主が1月末に入居され、契約金額の残金が私の口座に振り込まれてきました。これでひとまず安心です。二重ローンの期間はわずか1ヶ月間だけで済ませることができ、全てを最短のタイミングで進めることができたのです。すかさず、福岡の銀行で組んだローンに対しかなりの額を繰上げ返済処理して、当初の計画通り、いや計画以上の結果を得ることができました。また税金対応としては、退職後は収入がなくなるので、年末調整による住宅控除を使うのではなく、買い替えのための3000万円特別控除の制度を利用しました。そうすることで、通常は売却で得られた利益に対してかかる税金を免除してもらえたのです。
広島にいる時は、住んでいる場所の売買価格の相場などを確認はしていましたが、コロナになり逆に需要が上がり中古の販売価格を押し上げてくれたようです。同様に福岡も中古の物件の価格は上昇し始めていたのですが、購入した物件はすでに出来上がってから一年以上経過しているということもあり、割安感がありました。そう、完成時の価格のままでの販売が継続されていたわけです。
マンションの買い替えというのは近場で実施する分には、すぐに確認に行けるのでいいのですが、離れている場所への住み替えは大変だと感じました。最初は売りも買いも大手の同じ不動産業者にすればシームレスに行くのではないかと考えましたが、マンションの場所によって、その地域を得意としている不動産業者があるものだということを知り、今回は全くバラバラでお願いして処理しました。その分、我々が動くことが多くなりますが、その価値は大いにあったと思っています。売り買いした金額は記述できませんが、広島で13年前に購入し住んでいたマンションの購入時金額を100とした場合、売却した時の仲介手数料を差し引いた額で115くらいにはなっていました、当初は、95〜100くらいの間だろうと考えていたので素晴らしい成果でした。その分で、引っ越し費用に加え電化製品やカーテンなどが調達できたのも嬉しい結果でした。なお、広島のマンションは現在でも、さらに値上がりしているようです。
最初は、中古物件を探していたものが、新築に引っ越すことができたのも、買いと売りのタイミングが良かったのだと感じています。しかし、もう一度同じことができるかと自分に問いかけると、答えは「できないだろう」と言うと思います。普通に考えればあまりにもリスキーな対応でしたから。切羽詰まった状態に置かれ、なんとかもがきながらいい人たちに巡り合ったことが成功要因だったように思います。全てのタイミングが偶然にもうまく歯車が噛み合っていい流れができたんだと思います。冷静に考えるとゾッとします。
こうしてマンションの売買処理に関しては、すごくうまくいきました。あとは、何事もなくスムーズに引っ越しをするだけでした。以前は東京から広島に引っ越しをしたこともあり、同じ広島市内での引越しも経験していましたので、それほど心配はしていませんでした。12月下旬の日程で転居プロジェクトの締めくくりとしての引っ越しを依頼したのです。搬出作業を午前中にセットしたかったのですが、引っ越し業者の都合上午後ということになりました。これが問題の始まりとは気づくことなく引っ越し作業が始まります。引っ越しのついでにいろんな粗大ゴミも廃棄したいので引っ越し業者に同時に依頼しました。また最近の引越し業者は新居での必要なものもを注文できるということも知り、エアコンや照明器具を同時注文しました。冬場なのでエアコンは数日遅れてもなんとかなりますが、照明器具はなければ夜が困ります。引越しと同時に届けてくれるのでいいサービスだと安心していました。
引越し当日。午後3時ごろに搬出作業が開始されました。かなり遅い開始です。不安は的中でした。ほとんどの荷物は事前に梱包されていたはずなのに、作業にかなり手間取りました。どうやら作業に慣れていないバイトか新人でメンバーが構成されていたようです。それでもリーダーのような人が額に汗して懸命に頑張ってくれました。本来は夕方に終了して我が家のワンコとともに福岡入りしてペットホテルに預ける予定でしたが、作業が完了したのはなんと夜10時過ぎ。それから我々は自分達の車でワンコとともに新居に向かって移動開始です。到着したのは午前2時ごろ。ぐったりでした。そして、その日の朝9時から搬入作業が始まったのです。
搬入は手際良く始まりました。福岡のスタッフです。少し安心していたら、食器をセットする担当の人がガチャンという音とともに割ってしまうハプニング。もちろん損害賠償はしてくれるのですが、食器は戻ってきません。ちょっとブルーになっていたら、今度は注文していた照明器具が手配されていないことが判明し、慌てて連絡するも、当日再配達は無理ということを言われ余計にブルーになってしまいました。夜になり、責任感の強かった広島の引越し業者の所長さんが自分の車を運転して照明器具を持ってきてくれ取り付けてくれました。ここで、少し感動したのですが、注文していた照明器具の1つに製品違いが発覚。再度送ってもらう手筈をとってもらいました。こうしてやっと、福岡の新居への引っ越しも終わり日常の生活が始まっていきました。とてもうまく行っていた転居プロジェクトでしたが、最後の引っ越しは、全くの予想外の結果となってしまいました。
なにはともあれ、マンションの買い替えという大きな転居プロジェクトを乗り越えた結果、今福岡に住むことができています。これまでの人生の中で、一番リスキーな個人プロジェクトだったように思います。しかし、どんなにリスキーな内容だったとしても、今となっては多くの経験の中の一つになってしまいました。それも二度とできない経験として私の記憶に刻まれています。
これからは、福岡で可能な限りリスキーなことから遠く離れ、穏やかな生活をしながら執筆を楽しんでいこうと考えています。
当記事は、下記のコンテストへの応募記事です。
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