7月30日 人身取引反対世界デー 【SS】コウノトリ組織
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 人身取引反対世界デー
2013年(平成25年)12月の国連総会で制定。国際デーの一つ。英語表記は「World Day Against Trafficking in Persons」。
「現代の奴隷制」とも呼ばれる人身取引(人身売買)は、深刻な犯罪であり、重大な人権侵害である。この国際デーは、そんな人身取引の問題が世界中に蔓延していることを啓発し、人身取引を防止・抑制すること、被害者の保護・支援を行うことを目的としている。
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【SS】コウノトリ組織
世の中には子供が欲しくても、どうしても授かることができない夫婦がいる。そんな夫婦に限って、ともに子供が大好きだったり、子供に関係する仕事についていたりするものだ。
とある不幸な夫婦がいた。夫の慶太郎は無精子症、妻の彩菜は子宮がんを煩い、子宮の全摘出の手術を受けてしまった。どう頑張っても二人の間に子供はできない。二人には養子を取るしか道は残されてはいなかった。とはいえ、どうすれば養子として子供を迎えられるのか方法がわからず途方に暮れている時、いつものように仕事中に、パソコンを開いてネットサーフィンをしていたら「恵まれない子供たちの里親募集」という記事が目に飛び込んできた。慶太郎は今の自分たちにとって、最も欲しかった情報だと思い、クリックしてサイトに入っていった。
ニューヨークから少し離れたダウンタウンの雑居ビルの中に「コウノトリ組織」と名乗る会社があった。生まれたばかりの赤ん坊から三歳児までの幼児を養子として斡旋する会社だ。看板はあるがもちろん誰もいない。踏み込まれても、もぬけの殻とするためのダミーの部屋となっている。別な場所に架空契約している電話だけがあり転送される。転送先は海外を経由して戻ってくるようになっている。しかも全てがインターネット電話になっており、電話料金もかからないよう工夫されていた。すべては追跡を逃れるためだ。最近は、電話よりもインターネットによる勧誘と受注に重きを置き始めている。それだけインターネットが当たり前のように普及したからだ。そのため、ネット上のダミー会社のホームページを作り、客を誘うようになっていた。ある程度の売り上げが振り込まれると、一旦ホームページを閉じて別サーバー上に開設する。そんなことを繰り返している。どうやらギャングの資金源として運営されているらしい。
コウノトリ組織の本体は日本の中にあった。そのことは誰も知らない。コウノトリ組織の数少ないメンバーでさえも存在を知るものはいなかった。誰にも知られていないところで、幼児の養護施設を経営していた、それがコウノトリ組織の本体だったのだ。借金苦の家族や子供を産んで置き去りにされた子供達を連れてきて、施設の前に放置し、あたかも発見したかのようにして擁護していた。世間的には高い評価まで得てカモフラージュしていた。しかし、裏では数千万円単位での養子縁組料金を請求していたのだ。依頼側のリクエスト通りの子供を調達していため、高額請求でも問題は暴露しなかった。その売り上げのほとんどは、ニューヨークの闇へと消えていた。
慶太郎は、里親募集のホームページに入り「要求通りの子供を養子にできます」というメッセージを見た。なぜか怒りが込み上げてきていた。自分たちには子供ができないのに、要求通りの子供を調達するということが、慶太郎の逆鱗に触れたのだ。ページ内を進んでいくと、調達料金の目安のページに行き着いた。どうやら子供一人当たり、三千万円から五千万円という費用らしい。慶太郎の怒りは頂点に達した。その時点で妻の彩菜と情報を共有し、このページを運営している裏の会社を追求する決意をしたのだ。実は、慶太郎と彩菜は警視庁のサイバー犯罪対策室のメンバーだった。今回もサイバー空間をパトロールしていて偶然に見つけたサイトだった。二人は、子供をビジネスの道具にしている人間は、特に許すことができなかった。
「彩菜、このサイトは怪しい。しかも子供を利用していること自体許せない。もしかすると幼児誘拐などが裏に隠されている可能性があるぞ」
「本当ね。私たちは子供が欲しいけどこんなビジネスは許せない。暴いて見せましょう、私たちの手で」
そういうと、彩菜は追跡ソフトウェアを流し込み、ホームページを解析し始めた。記載されている電話番号もサーバーを変えながら転送されていることも判明した。問題は、最終的な情報が繋がる先、そう、実際の子供が保護されている場所を突き止める必要があった。しかし、ホームページからは最終的な施設への連絡経路は見つからない。慶太郎は客を装って電話をかけた。こんな時のためのダミーの携帯が準備されている。騙す奴らには目には目をだ。
「もしもし、一歳未満の男の子で血液型がA型の子を養子にしたいのですが、可能ですか」
「お問い合わせありがとうございます。まずは、ご本人確認としてこちらからSMSを送らさせていただきます。そちらのURLに入っていただき、必要事項を記入していただけますか」
送られてきたサイトは彩菜が追跡していたサイトとは全く別のサイトだった。慶太郎が必要事項を入力している間に、彩菜は新たな追跡プログラムをネットに送り込んだ。その結果、日本にある擁護施設に連携していることを突き止めた。すぐさま県警と連携して捜査員を擁護施設に向かわせた。こうして、追跡を逃れ続けていた幼児売買の現場へと辿りつくことができた。その後、擁護施設の子供たちの保護経路が再捜査され始めた。なんと全ての幼児たちは、擁護施設の門前に放置されていたというのだ。それ以外で擁護された幼児は一人もいない上、小学生になるような子供も一人もいない。生まれて間もない子供が大半だったのだ。人里離れているため、近所付き合いもない擁護施設だった。そのため、発覚できていなかったのかもしれない。
ニューヨーク在住でシステムを保守している担当者、擁護施設の責任者、そして幼児を誘拐してくる実行者が次々と逮捕された。擁護施設に勤務していた社員は何も知らずに働いていたらしい。ただその社員への給料は膨大な取引の売り上げで賄われていたらしく、後味の悪さが残った。
これから動機や余罪についての追求が始まる。もしかするとこれが始まりなのかもしれない。多額のお金が移動しているにも関わらず、どこからも現金や預金が出てこない。どうやら海外の闇の世界に流されているようだった。同様な擁護施設が存在していないことだけを祈るしかないのだろうか。今後の警察の解明に期待し、撲滅してくれることを祈ろう。
了
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