3月6日 スリムの日 【SS】不思議な国と訪問者
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- スリムの日
京都府京都市南区に本社を置く女性用下着などのトップメーカーである株式会社ワコールが制定したスリムの日です。日付は春からの薄着のシーズンに入ることと、「スリ(three=3)ム(6)」と読む語呂合わせから決定したようです。
これから徐々に薄着になっていくシーズンを迎えて、ボディシルエットを整えるアウターやインナーに注目してもらい、体型の変化による健康増進を意識してもらうことが目的だそうです。
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【SS】不思議な国と訪問者
中世のヨーロッパに不思議な国が存在していた。城壁でぐるりと囲まれた小さな国である。この国の国民は誰一人として太ったものはいない。全国民が国王に至るまでスリムなのだ。まさしくスリム王国だった。それもかなりの細身だった。男性の平均体重は五十五キロ、女性の平均体重は四十キロだった。反乱を恐れた国王が一定の栄養以上摂取させないようにしたことから始まった。体を小さくしておけば自分を守れると判断した結果だ。結局、真面目な国王は自分だけ太るわけにもいかず、国王を含めた全国民がスリム体型を維持することになっていったのだ。もし、それでも太ってしまうと国外へと追放されてしまうので、国民は太らないように注意していた。そのためこの国では、毎日の体重検査が義務付けられているほどだった。
当たり前だが、この国の兵隊も体は小さい。他国に攻められるとひとたまりもないということになる。なので貿易もせず、他国に知られないようにひっそりと生活を維持している国だった。出入り口は全て細く作られており、太った人は通れないようになっている。この国には小さなロバは入れても大きな馬は入れない。そのせいか他国の人間に存在がバレることもなく侵略されることもなく長い年月を平和に過ごしてきた。結果、完全に文明の発展からは取り残されてしまった。王様も随分交代したが、外部からの知識が入ってこないため、何も変わらない平和な暮らしが続いていた。
そんなある日、遂にこの国も発見されてしまった。食に関する研究をしている歴史家でアダムスという男だった。彼は、この国の背が低く細い体の門番と毎日会話するようになるまで通い続け仲良くなった。門番と打ち解けることができたアダムスは門番に王様への手紙を託した。疑うことを知らない門番はそのまま王様に手紙を届けた。
『あなた方の生活は、他国の見本となると考えています。今は戦争もなくなりこの国の周りも平和な国で溢れています。しかし、どうしても太っている人が増えているのです。そこで提案です。あなた方の国の隣に小さな街を作り、そこであなた方と同じ食事をさせていただき、太った人の体を改善してみたいのですが、ご協力いただけませんか。報酬は甘さたっぷりのベルギーチョコをたんまりと準備しています』
王様はベルギーチョコを知らなかったが、人のためになりそうだと判断し、協力することにした。程なく城壁の隣に小さな町が建設され、この国との専用通路が設けられた。もちろん専用通路は細い人用に作られた。そしてこの街に集められたのは、甘いものが大好きで肥満になってしまった人たち三十人。脱走できないように監視までつけられた。実は、この三十人は強盗などを繰り返していた犯罪者たちばかりだ。そのことは王様には知らせてはいなかった。
三ヶ月ほど経過した頃からこの三十人の体型に変化が出始めた。初めは空腹に耐えられず暴れたりしていたのだが、その体力もなくなりすっかりおとなしくなり、小さくなった胃袋での少ない粗食に馴染んできたようだった。さらに半年が経過した頃、この三十人の犯罪者たちの体は、スリム王国の国民と同様な体型になっていた。強いて言えば身長は高いままだったので、ものすごいノッポ体型へと変貌していた。運動をさせていないので筋肉もすっかり落ちた。
アダムスは、犯罪者たちが痩せていくまでの経過を克明に記録していた。食事の量はもちろん、スリム王国独自の食事メニューとカロリーや栄養素を記録したのである。当然、甘いものは一切なかった。そしてアダムスは王様と約束した報酬のベルギーチョコを注意書きとともに王様の元に送った。
『これは体に良い貴重な食べ物ですが王様専用に作らせたものです。王様以外の方には毒になりますのでご注意ください。一食に付き一箱お食べください』
王様は疑うことなく、注意書きの通りに食べ続けた。あまりの美味しさゆえ、もっと食べたくなったが、生真面目な王様は注意書きをしっかりと守っていた。そして、日課の城壁ランニングもこなしていた。ランニングの習慣を門番から聞いて知っていたアダムスは、チョコが太る要素にならないということを王様を使って人体実験することを考えたのだった。そして、結論は出た。適度な運動を日々実施していればチョコを摂取しても肥満にはならないと。
アダムスは実験結果を元にチョコを安心して売り捌き、肥満になったらスリム王国の隣の街でダイエットをしてもらうという富裕層向けプログラムを開発し商売を確立させた。食に詳しい歴史家が起こしたビジネスということで瞬く間に噂が広まり、このプログラムへの参加を希望する肥満になった富裕層の人々、特にご婦人方が順番待ちをするほどに成長した。そして、その利益の一部はスリム王国に対し謝礼として定期的に振り込まれることになり、スリム王国も安泰の日々が続くことになった。その後、アダムスはスリム王国の国民のためのチョコレートも販売する権利を得て、王国内でもチョコレートビジネスを展開するようになり、莫大な資産を築いた。
いち早く肥満に対する食事の影響とチョコレートに対するご婦人の欲求を重ね合わせたビジネスモデルを展開することに成功したアダムスの晩年は、美味しいものを食べ続ける日々に酔いしれてしまい、その結果、肥満となり糖尿病と高血圧を発症し長生きはできなかった。亡くなった時には大好きだったベルギーチョコを片手に握りしめていたそうだ。彼の莫大な遺産を全てスリム王国へ寄贈するという遺書とともに。
了
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