2月16日 全国狩猟禁止の日 【SS】襲いかかる前に
【今日は何の日】- 全国狩猟禁止の日
人間の都合で決めた日ではあるが、この日から11月15日の一般鳥獣狩猟解禁日まで北海道以外の全国で狩猟禁止となる。猟を禁止することで繁殖の機会を創出し、種が絶えないようにする狙いもあるのではないだろうか。
ただし、北海道は2月1日~9月30日が禁止日となる。禁止日・解禁日は都道府県ごとに、また、年ごと、対象となる鳥獣ごとに異なる場合がある。
【SS】襲いかかる前に
森の中で動物たちが集まっていた。リーダーはヒグマのようだ。どうやら、毎年人間による動物たちのなわばりへの侵入が広がり、動物たちの住む場所が狭められていることへの対抗を検討しているようだ。普段なら、弱肉強食の関係にある動物たちなので一緒に行動することは考えられないのだが、なんとかしようとして一致団結し人間に抵抗しようとしているようだった。
「みんな、集まったか。これからしばらくはお前たちを襲うことはしないと約束しよう。今はそれよりももっと重大なことがあるのだ。みんなもすでに感じていると思うが、人間たちはこの森の麓からじわじわと我々の縄張りに侵入してきている。このまま黙っていると、我々はみんな殺される運命になってしまうだろう。それでいいのか」
「嫌だー、我々はもっとこの場所で生活したい」
「人間をやっつけろー」
「どうやら、みんな同じ考えのようだな。人間たちは勝手に何でも決めている。それを利用してやろうじゃないか。今日から人間たちは猟銃を使ってはいけない日になるらしいから、一番油断している今日が襲撃するには一番いい日だ。みんな、今日、日が沈んだら一斉に人間の住んでいるところを襲撃するぞー」
「おーーー、やってやるぞー」
自分勝手な人間に対し、動物たちの怒りはピークに達していた。ウサギや鹿は食用として殺され続けたし、クマも毛皮と薬用、食用として殺されていた。森に住む動物たちは我慢の限界に達していたのだった。もちろん、山に食料がなくなり麓の民家を襲ったことは何度かはあったが、それも人間が彼らの生活圏を狭くしたからだと感じていた。普段は一つになることのない動物たちが人間を共通の敵と見做して一致団結した瞬間だった。
まもなく日が山の向こう側に沈もうとしているとき、森の精霊が動物たちの前に突然現れた。動物たちは滅多に姿を現さない森の精霊が目の前に降臨し、たじろいだ。夕日を背に浴びた森の精霊はまるで後光が射しているかのように光に包まれていた。静かにゆっくりと諭すように森の精霊は言葉と心を動物たちに届けた。
「森に住むすべての生ある者たちよ。昂る感情に任せて行動する前にもう一度みんなが受け継いできた祖先からの魂を振り返ってみなさい。そして、過去の出来事を思い出してみなさい。だいぶ前、荒れ狂う悪魔に取り憑かれたヒグマが森の中で暴れまくったことがある。退治してくれたのは誰だったのか。太陽が地面に届かなくなりそうになると、樹木の高い位置の枝を落としてくれたのは誰だったのか。山の中の木の実や山菜が育つための土を作ってくれたのは誰だったのか。もちろん、みんなの中にもいるようにどうしようもない人間もいるのは事実だ。しかし、今みんなの憎しみの対象は、みんなの生活を助けてくれている人間も含まれているということをちゃんと考えなければいけない」
森の動物たちは、さっきまでの勢いを失いつつあった。後ろの方で鹿の親子が思い出したように話した。
「そう言えば、私が人間に狙われた時に、この子がいると分かったのか人間は銃をしまったことがあったわ」
鹿の発言を受けたかのように、森の精霊は話を続けた。
「うむ。人間もみんなと同じように生きているのだ。そのために食べ物を得ようとするのは自然の摂理であろう。もっとも、もう少し人間以外の動物たちに気を使ってもいいのにと思うこともあるが、それはみんなも同じではないか。今、みんなが人間を襲ったりしたら、確実に他の人間から報復を受けてしまうことになる。その場合はこの森ともども消えるかもしれない。そんなことは誰も望んではいない。人間もそんなことは望んでいないのだ。今、みんなは生きているのだ。もし人間がいなくなったとしても、次は動物同士の争いが起きるだけなのだ。ならば人間との共存生活を目指した方がいいと思わぬか。人間も動物なのだから」
森の動物たちは、何となく人間にやり込められてしまうのはいやだけど、自分たちの子供にまで被害が及ぶのはもっといやだと考え、おとなしくそれぞれの巣に戻っていった。すでに日は沈み、森の中は暗闇に包まれつつあった。森の精霊はそのまま人間の里の方に向きを変え、これまでと違った顔を見せて人間たちの里に向かって強い風を送った。
人間たちの住む里では、無益に狩猟をしないように協定を作っていたが、最近外部からの密猟者がいることに頭を悩ませていた。そこに、何とも言えない匂いを乗せた風が吹き込んできた。
「この匂いは、クマの肉を煮込んでいる匂いじゃないか。なぜ今頃、匂ってくるんだ。だれもクマを撃ってはいないはずだぞ。最近は里も荒らされていないし。よしこの匂いを辿ってみよう」
里の狩猟会のメンバーは、匂いを辿って里の外れの森の入り口付近にある道からは見えにくい小屋にたどり着いた。その小屋は普段誰も住んでいないはずだ。慌てて狩猟会のメンバーは警察に連絡を入れた。程なく自転車に乗った頼りなさそうなのっぽのお巡りさんが合流した。
「どうやら、密猟者がいるようだ。お巡りさん、わしらがとっ捕まえるから後のことを頼むぞ」
「わ、分かりました。本官はここで待機しております」
狩猟会のメンバーは、小屋に突入した。不意を突かれた上に酒をしこたま飲んでいた密猟者グループはクマ鍋を囲んだまま、なすすべもなく捉えられ縛られてしまった。こうして、最近悩まされていた密猟グループを捉えることができ、里の人たちも安堵した。次の日になり、狩猟会のリーダーが提案をした。
「今回は誰かがクマ鍋の匂いを我々に届けてくれたので密猟者を捕まえることができたと思う。わしが思うに森の精霊ではないかと思うのだ。密猟者を捕まえたこの小屋を取り壊して小さな祠を作りたいと思うのがどうだろうか」
「森とは今後も共存共栄していかなければならないしな、賛成だ」
里に住む全員が森には感謝しているし異論を唱えるものはいなかった。早速祠作りが始まり、中に置いた地蔵さまに神主さんにより心を吹き込んでもらった。
森の精霊は一部始終を見て、静かに独り言を呟いた。
「これでしばらくは大丈夫だろう。この里の人たちのような人間だけなら森にも幸せが続くのだろうが、人間の方が動物たちより遥かに悪どいことをするから、またいつかは同じようなことが起きてしまうのだろうな」
了
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