7月3日 渚の日 【SS】ビールと共に
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 渚の日
和歌山県西牟婁郡白浜町に本社を置き、白良浜の地ビールメーカーとして全国的に知られるナギサビール株式会社が制定。
日付は三代続く屋号でもある「ナ(7)ギサ(3)」(渚)と読む語呂合わせから。この日にはナギサビールで乾杯をして、これから始まる夏を楽しむとともに、南紀白浜の美しい渚の魅力をより多くの人に知ってもらうことが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】ビールと共に
太陽の光を反射して目を開けていられないほど眩しく白い綺麗な砂浜があった。いよいよ夏本番に入ろうかという季節に、夏元好也は、一人で砂浜に来ていた。左手にはよく冷えた飲みかけの瓶ビールをを持っている。近くのコンビニで買ったビールのようだ。夏元は太陽の光を跳ね返して金魚が跳ねているかのような渚を見つめて独り言を呟いていた。
「あーあ、去年の夏は、サーヤが横にいたんだよな。なんで、サーヤを止められなかったんだろう。でも、僕も今の仕事に誇りを持っているし、やめられなかったしなぁ」
サーヤとは、石蔵沙耶という好也の二つ年下の大学生だった。去年、この砂浜で別れて二人の関係は終止符を打つことになったのだ。サーヤは女だけの姉妹で長女だった。実家は老舗のお菓子屋さんで安定した商売を営んでいた。サーヤは小さい頃から「お婿さんを貰って私がお菓子屋さんの後継になる」といつも言って両親を喜ばせていた。大学生になってから付き合い始めた年上の好也も両親に紹介してはいたが、家を継ぐ話だけは両親もサーヤも好也に切り出せないで時間だけが過ぎていた。
そして、去年の夏。
「うわー、めっちゃ綺麗な砂浜と海だなぁ。まだ、シーズンに入る前だから人も少ないね、なんか冷たいものでも飲もうよ、サーヤ」
「本当に綺麗。サングラスをかけてないと目を開けていられないくらいね。私はジンジャーエールが飲みたいな」
「よし、まだ海の家はオープンしてないから、道路沿いのコンビニで買ってくるから待ってて」
「いいよ。一緒に行く」
二人で一旦道路に戻りコンビニまで手を繋いで歩き、ジンジャーエールと瓶に入っている地ビールを買い、また砂浜に戻ってきた。砂浜に戻る頃には、ビール瓶は温度差で汗をかき、握っている手も冷たくなった。すかさず、繋いでいた手を振りほどいてサーヤの反対側に回り、手を繋ぎかえた。
「ワー、冷たくて気持ちいいね」
「そうだろう。ははは」
ここまで二人は幸せの頂点にいた。熱い日差しも跳ね返してしまうほど二人は寄り添っていた。買ってきたビールとジンジャーエールを飲み、喉が潤ったころにサーヤがポツリと話し始めた。
「ねぇ、好也。今の仕事はずっと続けるの」
「ん、ビール工場での仕事のこと。当然、続けるさ。中途半端は嫌いだし、ビールは大好きだからな。それにこれからは新しい商品も開発するみたいで、一応プロジェクトメンバーにも入れてもらったんだ。これからだよ。楽しくなるのは」
「そっかー。お菓子屋さんとかやる気はない?」
「えっ、お菓子屋さんって、サーヤの実家じゃん。それは無理かなぁ。だって、何も知らないし、サーヤのお店で働くなんてこと考えたこともないよ」
「だよね。私としては、従業員として働くんじゃなくて、お店を継いでくれないかなって思ってるんだけど」
「えっ、それってマスオさんになるってこと? それは無理だろうなぁ。僕は一人っ子だし」
「あ、そうだったね。好也は一人っ子だったね。じゃあ、やっぱり無理だね。私たちの関係も」
「へっ、なんでそうなる。僕たちは僕たちだろう」
「私の家族にはお父さん以外の男性がいないのよ。だから、長女の私がお婿さんを迎えて家を継がなければならないの。それができない人とは付き合えないの」
「え、今更、そんなこというのか。もう一年も付き合ってきたのに」
「ごめんなさい。でも、やっぱり私には家族が大切だから。好也も大切だけど」
こうしてサーヤは好也の前から消えてしまった。眩しい渚の波の音だけが寂しく響き渡っているなかで、好也は残りのビールを飲み干し、しばらくは呆然とした。次第に陽は傾き、美しいオレンジ色の夕陽に照らされた海が目の前に広がったが好也にの目には映ってはいなかった。
そして、一年が過ぎた。
同じ砂浜に好也は一人でやってきて、去年と同じビールを飲んでいる。新しいビールの開発の仕事も順調に進み、もう直ぐ商品化できそうな段階にまでなってきた。前向きに仕事をする好也を会社も評価し、サブリーダーの役まで与えられていた。大きな期待を背負ったようだ。もう、去年の別れに踏ん切りをつけようと、今年は一人で海を見にやってきたのだった。去年と同じように瓶ビールをコンビニで買った。ビールを飲み干した時、ポケットに入れていたスマホが震え出した。画面を見ると会社の上司からだった。
「はい、夏元です。今日は休暇ですが何か緊急ですか」
「すまんすまん、休暇中に。少しでも早く知らせたくてな。実は老舗のお菓子屋さんからコンタクトがあって、ビールを混ぜたお菓子の開発をしたいという申し入れがあったんだ。そしたら先方から担当者として夏元くんを名指しされたんだよ。石蔵という地元のお菓子屋さんなんだ。明後日の午後、第一回目の打ち合わせで向こうの女性店長が我が社に来られるようなので夏元くんのスケジュールも調整をしておいてくれ」
「えっ、石蔵ですか。女性店長、もしかして石蔵沙耶さんという方ではないですか」
「ああ、そうだよ。まだ若い女性だよ。えっ、もしかして知り合い?」
こうしてまた、好也とサーヤは運命の再会をすることになった。諦めきれなかったサーヤの策略なのかどうかはわからない。合わなかった空白の一年できっと何かが変化したのだろう。好也は、もしチャンスがあるのなら今度は絶対にサーヤを諦めないと自分の心に誓った。
了
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