3月24日 恩師の日 【SS】今は亡き先生
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 恩師の日
京都府八幡市の山中宗一氏が制定。
日付はこの頃に卒業式が各学校などで行われることから3月24日とした。学校時代の先生はもちろん、人生の中で師と仰ぎ「恩師」と呼べる人に、唱歌『仰げば尊し』の歌詞のような感謝の気持ちを込めて、お礼の手紙を書く日。恩師への感謝の思いを忘れることなく生きて行こうとの願いが込められている。
『仰げば尊し』について
『仰げば尊し』は、1884年(明治17年)に発表された日本の唱歌である。卒業生が教師に感謝し学校生活を振り返る内容の歌で、特に明治から昭和にかけては学校の卒業式で定番の曲として広く歌われ親しまれてきた。2007年(平成19年)に「日本の歌百選」の1曲に選ばれている。
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【SS】今は亡き先生
私も歳を取った。もうすぐ定年を迎える年にまでなってしまった。それでも私が小学校一年生の時の担任のおばあちゃん先生が忘れられない。とっても優しくしてくれた先生だった。
◇ ◇ ◇
夏休みの前、病弱な僕は風邪をひきそのまま持病の小児喘息を発症した。僕はその時、子供ながらに、息ができない苦しさに懸命に耐えていた。母は、座布団を何枚も積み重ね、そこに僕をうつ伏せにさせてくれた。横になると気管が圧迫され余計に息が苦しいからだ。ゼーゼーとかヒューヒューという息遣いになると苦しくてたまらない。積み上げた座布団に突っ伏している方が幾分マシだったことを覚えている。
そんな毎日を送っている時におばあちゃん先生は、僕のお見舞いに来てくれた。
「浩介くん、具合はどお。息が苦しいと大変だよね。学校は心配しなくていいからゆっくり体を休めて病気を治してね」
「山崎先生、わざわざありがとうございます。この子は小児喘息を持っているので発作が出るとしばらくはこんな苦しい思いをさせることになるんです。ご迷惑をかけますが、よろしくお願いします」
「いいえ、とんでもないですよ。お母さん、お母さんも大変でしょう。今日は浩介くんにお土産を持ってきたんですのよ。こども世界名作全集です」
「まぁ、山崎先生。こんな立派な本を。ありがとうございます」
「いいえ、いいんです。本の中にはいろんな世界が詰まっていますから、浩介くんがその世界に入ってくれれば苦しみも少しは忘れられるかなと思ったんですよ。それに、浩介くんは学校では国語の成績がいいんです。だから、これは私からの贈り物です」
それまであんまり本を読む習慣を持っていなかった僕は、山崎先生が持ってきてくれた本を横目で見ながら「ありがとうございます」とはいったものの、おもしろいのかなと思っていたのだ。昼間は少し息をすることが楽になるので、もらった本に目を通し始めた。
ピノキオ、トムソーヤーの冒険、ドン・キホーテなど多くの有名なお話が収められていた。どうやらシリーズで出ているような本だった。僕はすっかりお話の世界に夢中になった。そしてそのまま夏休みに突入して学校をずっと休んだまま過ごしていた。ただ、それまでと違ったのは、傍に本があるということだった。ほとんど毎日お話を読む毎日だった。外に出る体力は無くなっていたから。
夏休みが終わり、やっと体調も回復し学校に行くことができるようになった。不思議なことに毎日本を読んでいたおかげで、テストの問題もすらすらと読めるし内容もすぐに理解できるようになっていたのだ。これは本を読むことで問題文を理解する力が養われていたからなのだろう。
今思えば、あの時の担任だったおばあちゃん先生のおかげなのだ。小学校一年生の時の担任だったおばあちゃん先生は、僕が二年生か三年生ぐらいの時に定年退職されたのだと思う。母親に連れられて一度だけ先生の家に行ったことがあった。その時も懐かしそうに微笑みながら迎えてくれた。今ではその記憶もぼやけていて顔を思い出すことさえもできない。
そのあと小児喘息も頻繁に出ることはなくなり、元気に遊べるようになったのだが、本を読む楽しさを知ってしまったので、図書室から本を借りる毎日を楽しむようになってしまった。もちろん友達と外で遊ぶのだが、日が暮れてしまうと家に帰り本を読む毎日が日課のようになっていった。
◇ ◇ ◇
今、私がこうして文章を綴っているということも、山崎先生が「本の世界」に私を誘ってくれたからかもしれない。もしかすると山崎先生は、当時の私が本に興味を示すことを解っていたのかもしれない。そう思うと感謝でしかない。すでに、私たちとは違う世界に旅立たれてしまったが、きっと天国から見守っていてくれてるだろう。
『浩介くん、今度はあなたが本を書くようになったのね。先生も読んでみるわね』
そんな声が聞こえてきそうである。幾つになっても先生から見れば私は小学一年生のままなのかもしれない。もう手紙を書いても届かないが先生に感謝の気持ちを贈りたい。
「山崎先生、本当にありがとうございました。私は小学校で先生に出会ったことで人生が変わったんだと思います。常に優しく接してくれて、本も何冊も買ってくれましたね。おかげで私は本が好きになり、先生が学校から居なくなっても、いつも図書館に入り浸るような子になりました。中学校に上がっても本が大好きなままでしたが、弱かった体も小学校の高学年から良くなり喘息の症状も出なくなりましたよ。そして三年生の時には生徒会の図書部長をするようになったくらい本が大好きでした。もっともその頃は推理小説みたいな本ばっかり読んでましたけどね。先生は今頃、天国では何をされていますか。私みたいな子を見つけて本を読むことを勧めていらっしゃるのでしょうか。もう会えなくなってしまいましたけど、私の心の中には先生がちゃんといらっしゃいますよ。いつの日かそちらで会いましょう。今度あったら私が先生に本を渡します。小学校一年、学校生活を始める時に、先生に出会えたことを本当に感謝しています」合掌。
了
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