【短編】心残り人の街 -4
ワインの販路
ケンの友人であるキヨシが経営する酒屋にフランスのメリーからワインが届いた。白ワインばかり五十本入っているのを確認した。キヨシは弟のヨウジとともにワインを一本とって試飲した。
「めちゃくちゃ軽くて飲みやすいワインだな。これは女性をターゲットにすればブームを起こせるかもしれないな」
「兄さん、僕もそう思うよ。さっそくネット広告も検討したいけど、その前に提携しているホテルに売り込みをしてみよう」
「そうだな、感触をまず確かめたいから、ホテルに行ってみよう」
二人は、ワインを車に積んで、取引しているホテルに向かった。少し小高い丘の上に建っている瀟洒なホテルで女性客に人気がある。旅行雑誌などにも取り上げられていて人気が上がって来ているホテルだ。ホテルの担当者と女性のお客様専用に夕食時にサービスでつけるワインとしてどうかという相談をしたのだった。結果、物は試しということでとりあえず週末限定でお試しプランを作ってみようということになった。手応えは十分である。その後、旅行サイト経由で女性専用ワイン付き宿泊プランを出したところ、大人気となりすぐに完売。その後はホテルへの問い合わせも殺到して来たほどだった。ホテルとしてはプランの拡大を実施せざるを得ない状況となり、追加でワインを注文したいと持ちかけられた。いきなり嬉しい誤算である。
試飲して気に入ったキヨシは、自らフランスのワイン工場に行ってみる気になった。作っているのが女性ということも気になっていた。もしかしたら突然製造を止めるなんて言われると困るし、取引中止も困ることになる。キヨシは自分の目で確かめておきたかった。その間、店は弟のヨウジに任せることにした。ネット環境にも強いのはヨウジの方だったので心配はない。キヨシは、善は急げということで、思い立ったら実行しないと気が済まないタイプだった。一週間後にはフランスのワイン工場についた。
「こんにちは。ケンの友達のキヨシです。あなたが送ってくれたワインはとてもいい商品だと思います。直接お会いしたいと思い、ここまで来てしまいました。日本のホテルでも人気が出ると思っています。ついては、ぜひ我々と専属契約をしていただけませんか」
「わぁ、本当ですか。とても嬉しいです。でも、私一人で作っているので数はそんなに作れないんですけど」
「年間何本くらい出荷できそうですか」
「村の人にお手伝いしてもらっても五千本が限度だと思います」
「では、まず年間五千で契約しましょう」
「ありがとうございます」
この後メリーはキヨシをワイン工場をひととおり見学して葡萄畑を見て周り、再度、ワイン工場に戻って来てケンの話をしながら、新しいワインの開発をしているのだという話になった。そして、メリーの両親が亡くなりなんとかして一人で切り盛りしているという話も聞くことができた。
「何日間か滞在させていただくことはできますか。何日か畑や仕事の内容を見せていただきたいのですが」
「いいですよ。私一人ですから。ケンの友達なので信頼してます」
「ありがとうございます。実はワイン作りにもちょっとだけ興味があるんですよ」
「わぁ、そこはケンと大きく違うところですね。彼は一晩だけ泊まってまた旅行に出ていってしまいましたよ」
「あいつは、昔っからそんなやつでした。でもすごくいいやつなんですよ」
他愛もない話で盛り上がり、メリーとキヨシの距離も少し縮まったような感じだった。数日間滞在している間は、収穫期ではなかったので、葡萄畑の手入れや樽に入ったワインのボトル詰などがメリーの仕事だった。収穫期には村の人が応援に来て葡萄を収穫し、ワイン作りをするので十人くらいが手伝ってくれるのだということも聞いた。ワイン樽はかなりの量がストックされているように感じたが、一人でボトル詰の作業、ラベル貼りなどを実施することになるから年間の出荷数が増やせないということも薄々わかって来た。
「メリー、僕を次の収穫期のワイン作りまでここに置いてくれませんか。給料は要らないので部屋と食事だけ提供してもらえれば問題ありません」
突然の申し出にメリーは驚いたが、真剣な目で見つめられたので、受け入れることにした。そして、それから約半年の共同生活が始まったのだ。キヨシが手伝うようになってから二ヶ月が経過しようとしている頃になると、さすがに離れて暮らしている村人たちにもキヨシの存在が知れ渡っていた。「メリーはいつの間にか外国人の男と一緒になっているみたいだ。物好きな外人もいるもんだな」という噂がいつの間にか広がっていた。それに伴い、メリーもキヨシもまんざらではない気持ちが芽生え始めていた。
収穫期が来ていつものように村人たちが手伝いに来てくれた。みんなで葡萄を収穫し、皮や種を除いて絞った果汁を樽に入れ発酵させるまでが大変な作業となるので村人の助けがないととてもできない作業なのだ。樽の数としては百五十樽を有に超えるくらいの量がある。ボトルにすると、五万本くらいは出荷できるはずだ。しかし、実態としては街に出荷する分とキヨシの店に出荷する分を合わせても2万本にも満たない。キヨシはここで覚悟を決めることにした。収穫期の作業が終わって、手伝ってくれた仲間との打ち上げの場でキヨシはプロポーズした。
「メリー、君のひたむきさと優しさに惹かれてしまった。これからはずっと一緒にワイン作りを君と一緒にこの場所でやっていきたい。僕と結婚してください」
ざわついていた周りにいた村人は一瞬で静寂さを醸し出し、全員の視線が一斉にキヨシとメリーに集まった。静まり返った打ち上げの場でメリーは口を開いた。
「えっ、このタイミングで。。。でも、うれしい。喜んで受けるわ」
周りから大きな拍手が沸き起こり、打ち上げの場は、いつしか結婚披露宴に変わっていた。そうなると、手伝いに来ていなかった村人たちも集まってきて、盛大なパーティに変わった。街から神父さんまでも駆けつけ、文字通り、結婚式が執り行われたのである。最高に幸せの瞬間だった。オンラインでつながっているパソコンの向こうから弟のヨウジがパーティの様子をみて拍手していた。
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