デイ・ブレイカー2話 創作大賞2024漫画原作部門
一か月で、ギルドメンバーを三人集める。
マスターに任されたギルドデイブレイカーを存続させるための条件だ。
支部長の執務室から出たナビは、さっそく行動を開始した。
時刻は夕方。ひと仕事終えた冒険者が帰ってくるころだ。
「よしっ」
これでも、四大ギルドの一角だ。……最近では外されて、三大ギルドなんて言われているみたいだけれど。
少なくとも、名前は通っている。強いギルドに所属するに越したことはないので、探せば三人くらい見つかるはずだ。
昔は、マスターは希望者のほとんどを断っていた。
曰く「俺は組織のトップなんてガラじゃないし、気の合う奴らだけでいいんだよ」とのこと。めぼしい人がいれば迎え入れることもあったが、勧誘には消極的だった。
たとえば同じ四大ギルドの【蒼穹の風鈴(クリアベル)】は大規模ギルドとして有名で、人数は百名を超える。
それはそれで、できることの幅が広がるのでメリットはある。しかし、マスターは少数精鋭を選んだ。
ナビも同意見だ。人数ばかり増やしても仕方がない。真に仲間と言えるようないい人がいい。
「まあ、今回ばかりはそんなこと言ってられないよね」
もちろん、誰でもいいわけではないけれど。
仲間は一期一会。いい人がいたらいいな、なんて思って、冒険者協会のカウンターへ向かった。
「ギルドメンバーを募集したいんですけど……」
冒険者協会では、クエスト受注以外にも様々なことができる。
ギルドがメンバーを探したり、逆に冒険者がギルドを探したりも可能だ。
メンバー集めと聞いて最初に思いついたのはそれで、執務室を出たその足でカウンターに寄ったのだ。
しかし……。
「申し訳ありません。現在デイブレイカーに紹介できる冒険者はおりません」
受付の女性から返ってきたのは、そんな言葉だった。
「え……? あの、未所属の冒険者が一人もいないってことですか?」
「いえ、ギルドの斡旋を希望されている冒険者は常に一定数おりますね」
ほとんどの冒険者はギルドに所属している。
しかし、冒険者になったばかりの者や事情があって元のギルドを抜けた者など、ソロで活動している冒険者も少なくはない。
どういうことだろう。
ナビが首を傾げていると、受付がやや気まずそうに続ける。
「……解散命令を受けたギルドには、紹介できない決まりとなっております」
「そんな」
「紹介する以上、こちらにも責任がありますから」
「……そう、ですよね」
反射的に怒りたくなった。
でも、そう言われたら納得するしかない。解散命令を受けるようなギルド、自信を持って斡旋できないだろう。
冒険者協会は厳格な組織である。受付は申し訳なさそうに眉を下げているけど、規則を破ることはできない。
「もちろん、個人で勧誘するのは自由ですので。その際は手続きにいらしてください」
「わかりました」
「お待ちしております」
受付の女性は、最大限寄り添ってくれたのだと思う。
意地悪されているわけじゃない。支部長ピーターには嫌われているみたいだけれど、冒険者協会全体が敵になったわけじゃないのだ。
お礼を言って、受付から離れる。
「別に、自分で探せばいいんだよね。絶対諦めない」
そうだ、支部の中にいる冒険者に声をかければ、すぐに三人くらい見つかるだろう。
支部には酒場が併設されていて、仕事終わりの冒険者がたくさんいる。
大手ギルドは自ら所有する建物で飲むことが多いから、酒場にいるのは小規模ギルドか、ソロの冒険者ばかりのはずだ。
「酒場で勧誘しよう!」
ナビはあまり酒場を利用しない。お酒は飲まないし、自分のギルドがあるからだ。
慣れない空気にやや緊張しながら、酒場の扉を抜ける。
「お、お邪魔しまーす」
恐る恐る、酒場に足を踏み入れた。
夕方だからか、中には大勢の冒険者がごった返していた。
酒を手に談笑する者、失った体力を取り戻すため肉にかぶりつく者、一人しっぽりと酒を飲む者。
ここになら、冒険者がたくさんいる。中にはギルドに所属していないフリーの冒険者や、移籍を検討している人もいるだろう。
「あの、すみません」
「あ?」
「ギルドメンバーの募集をしてて……」
そう言いながら、胸についたデイブレイカーの紋章を見せる。
「あ~……悪いな」
声をかけた男性は、歯切れが悪そうに断った。
最初から、一人目で勧誘が成功するとは思っていない。
ナビは胸の紋章を撫でて己を奮い立たせる。
「あの……」
「すみません! ちょっとだけ話を!」
「ギルドメンバー募集してまーす!」
次々と声を張り上げる。
だが、冒険者の反応は鈍い。
ギルドに所属している人がほとんどだろうけど、ここまで邪険にされるものだろうか。
ナビが疑問に思っていると、一人の冒険者が気まずそうに話しかけてきた。
「君、デイブレイカーのナビちゃんだよね」
「あ、はい! 今新メンバーを募集してて」
「知ってるよ。……あれ、見てみて」
「え?」
そう言って彼が指差すのは、壁に貼られた、一枚の張り紙。
近づいて見てみると、支部長の名前とともに『デイブレイカーへの加入は、冒険者協会への叛意とみなす』という記述があった。
「仮にフリーだったとしても、支部長の圧力でデイブレイカーに入れないよ」
「そんな……」
「そうでなくとも、落ち目のギルドにわざわざ移籍しようとする人なんて少ないしね……。ましてや支部長に目をつけられているなんて、リスクしかない」
聞くと、この張り紙が貼られたのは今日だが、以前から噂は出回っていたらしい。あまり他の冒険者との交流がないから、知らなかった。
噂だけでなく、支部長に直接忠告された冒険者も多いのだとか。
支部長ピーターの言葉を思い出す。
『くくく、俺の街で三人も集められると思うなよ……!』
あれは、そういう意味だったのか。
「協力してあげたいけど……ごめんね」
「いえ、親切にありがとうございます」
お礼を言って、酒場を出る。
「ギルドを守るなんて言いながら、私、なんにもできてなかったや」
帰り道を歩きながら、思わず自責の念に駆られる。
ただ、依頼を続けるだけではダメだったのだ。
仲間がいてこそのギルドなのだから。
「ううん。まだ諦めない!」
ギルドへの帰り道を歩きながら、再びそう言い聞かせる。
支部長によって冒険者たちに根回しされていようと、入ってくれる人も少しはいるはずだ。
冒険者はたくさんいるのだから。
「明日は街を回ってみようかな……もしくは他の街とか……」
「ううっ……」
ギルドの前に着いた時だった。
宿舎兼職場の前で、一人の少年が倒れている。
「だ、大丈夫ですか!?」
「腹が……」
「お腹が?」
「腹が減った……」
行き倒れだった。
