デイブレイカー3話 創作大賞2024漫画原作大賞
「うまい……! うますぎる!」
「こんなものしかなくてごめんなさい」
「いや、助かった」
ギルドに招き入れ、ナビが出したのは安いパンとくず野菜のスープ。
お世辞にも豪華と言えない料理を、彼は本当に美味しそうに貪っていた。
行き倒れていたのは、青い長髪を束ねた若い男性だった。
服装はぼろぼろ。しかし、よく見れば元は良い生地だったのがわかる。
相当腹を空かせていたのか、ナビの三食分くらいは食べている。
(しばらく節約かなぁ……)
残りの資金を思い、ナビは心の中で呟いた。
ギルドの資金はとっくに底をつくどころか、借金まである有り様だ。
メンバーが行方不明になった当初、捜索依頼のためにかなりの金額を使ってしまった。少しずつ返済しているが、まだまだ借金も残っている。
だが、行き倒れの男性を見つけた時、ナビはためらわずに助けた。
困っている人を助ける。それがデイブレイカーの理念だからだ。
「ありがとう。君がいなければ死んでいたところだ」
「そんな大げさな……」
「あいにく持ち合わせはないが……必ずこの恩は返そう」
なぜだろう。どう見ても貧乏人なのに、不思議な気品がある。
無駄に所作もカッコつけているし……。
「俺はシンバルという。君は?」
「ナビです」
「ここは冒険者ギルドか?」
「はい。デイブレイカーといいます」
「他の仲間たちは?」
「……全員、行方不明で」
「なんと……」
目を見開く彼に、事情を話し始める。
五年前、全員行方不明になったこと。
ギルドはナビ一人で守っていること。
そして……今日、解散命令を受けたこと。
全てを話し終えた時、いやなんなら序盤から、シンバルは大粒の涙を流した。
手のひらで目元を抑えながら、見たことのないくらい大きな涙だ。
……人間が流せる涙の量ではない。
「うっ、ぐっ……苦労しているのだな……」
「え、えっと、そこまで感情移入しなくても……」
「意外にも、俺は涙脆いのだ」
「見ればわかります」
なんとも、調子が狂う。
たしかに不幸といえば不幸だ。だが、冒険者にとって死は隣り合わせ。仲間が死んだり行方不明になる話は、珍しくない。
「決めた。俺が仲間になろう」
「えっ、いいんですか?」
「元より、冒険者になるためにこの街に来たのだ」
そんなつもりで助けたわけではないが、仲間になってくれるというならありがたい。
なぜなら、解散を回避するために必要な人数は、残り三人。支部長の妨害により仲間集めに苦労していたが、そのうちの一人になってくれるなら、一気に希望が見えてくる。
しかし、簡単に頷くわけにはいかない。
冒険者は危険な職業だ。ただ、増やせばいいというわけではない。
「ちなみに、なにか武器は使えますか?」
「あいにく、武器術は苦手だ」
「じゃあ、魔法を使えたり」
「魔法を……使う……?」
「あ、ダメそうですね」
戦闘が得意ではないナビも、魔法は得意な方だ。
ある程度の能力がないと、冒険者の試験も突破できない。
なにより、現場に出た時……魔物と戦う能力がなければ、死ぬだけだ。
仲間になってくれるのはありがたいが、そのせいで彼が死んだりしたら……そう思うと、断る方がいいように思えた。
「ありがたいのですが……戦えないなら冒険者には……」
「いや、戦えないわけでは──」
シンバルがなにか、言いかけた時だった。
バン、と大きな音がして、ギルドの扉が開け放たれる。
「ここだよな~? 潰れる寸前のギルド、デイブレイカーさんよぉ!」
ずかずかと入ってきたのは、盗賊のような身なりの男たちが五人。
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
「な、なんですか、あなたたち!」
「お前も可哀そうになぁ! お偉いさんに目をつけられるなんて」
ナビの問いには答えず、リーダーの男が高笑いする。
「危ないから外にいたほうがいいぜ? 俺たちは今から、全て破壊するんだから。建物ごとなぁ!」
「なっ……!?」
「俺も心が痛むけどよ~? そういう依頼だから仕方ねえよな! おっと、これは言っちゃいけないんだったかな」
男たちが、それぞれ剣や杖を構える。
ナビは彼らの顔に見覚えがあった。おそらく、冒険者だ。
冒険者が誰かの依頼で、ギルドを壊しにくる。……そんな理由、一つしか思い浮かばなかった。
「うちを潰すために、そこまで……ッ」
「まあ、どうせ解散なら、壊しても関係ねえよな?」
ナビも身構える。しかし、ナビが使える魔法は戦闘向きではない。さらには、戦闘ができないというシンバルがいる。
ギルドの建物は大切だ。ここには、たくさんの思い出がある。
でも、勝てるとは思えない。
冷汗を浮かべるナビの前に、シンバルが歩み出た。
「暴漢か。この少女には恩がある。それに、ここがナビにとってどれだけ大切な場所か、貴様らにはわからないだろう」
「おいおい、そんな貧相な身体でなにができる? お前ら、やれ!」
リーダーの男が、仲間たちに指示を出す。
仲間たちはニヤニヤしながら、シンバルに武器を向けた。
シンバルは黙ったまま、両手を横に広げる。
最初に飛来したのは、後方の男が放った矢だった。あっけなく、シンバルの腹に突き刺さる。
次に、二種類の魔法。炎と土の弾丸が、シンバルを突き飛ばした。
「や、やめて……!」
ナビが悲痛の叫び声をあげる。
建物なんかより、人の命のほうが大切だ。ちょっと食事を出しただけなのに、命をかけて守るなんて……。
しかし、攻撃を一身に受けたシンバルは、そのままバーカウンターを突き破り、壁に激突した。
「ひひっ、死んじまったか?」
激突した衝撃で、壁の一部が崩れる。瓦礫がシンバルの上に降り注ぎ、押しつぶした。
……どう見ても、助からない。
「そんな……」
「お前が悪いんだぜ? 大人しく、解散を受けれ入れていればこんなことにはならなかったのになぁ!」
あまりにも非道だ。
デイブレイカーを潰すために、ここまでやるのか。
ナビは、瓦礫の山をなんとかどかそうとする。
「シンバルさん! なんで、私のためにここまで……」
懸命に呼びかける。だが、助かる見込みは薄い。
せっかく、仲間になると言ってくれたのに。ナビはまた、仲間を失うのか。
「くくく、お前はギルドが壊れるのを黙ってみてな」
「なんでこんな酷いこと……」
ナビは膝から崩れ落ちる。
自分はただ、仲間たちと楽しく過ごせれば、それでよかったのに。
「いや、それとも無様な男の死体を拝んでおこうかな……ん? なんだ、これ」
男たちが、近づいてきた時だった。
ナビも遅れて、それに気がつく。
瓦礫の山……そこから、なにかの液体が湧き出ているのだ。流れているわけではない。一粒、一粒と隙間から宙に浮かび、空中で集まっていく。
「水魔法……? でも、誰が……」
「驚かせてすまない」
声が、聞こえた。
ナビが驚いて目を見開く。その視線の先には、集まった水。
その水が、シンバルの顔となって話しているのだ。
「おいおい、なんだよこれ!」
「まさか……シンバルさん……」
驚く面々をよそに、水は次第に大きくなり、やがて人の身体を形作った。
まさしく、死んだはずのシンバルだ。
「これ、魔法か……!? そんな魔法知らねえぞ! 身体を水にできるなんて!」
「……魔人」
驚く男と、ぼそりと呟くナビ。
「マスターと同じ……。身体そのものが魔法でできた人間!」
「左様」
水となったシンバルが、不敵な笑みを浮かべた。
「次はこちらの番だな」
「なんだか知らねえが、こっちは五人だ! 負けるはずが……ぐっ」
男は、水の肉体となったシンバルに、首を掴まれた。
仲間たちが慌てて攻撃するが、何一つ効いていない。
水面に石を投げても、少しの波紋の後、元に戻るように……シンバルは全ての攻撃を、無効化している。
シンバルは、魔法を使えないと言った。
だが、それは嘘ではない。魔人は生まれつきの体質。魔法を使うのではなく、魔法そのもの。
「終わりだ」
シンバルによって気絶させられた男たちが、ギルドの外に放り投げられた。
シンバルは水になったまま、ナビに手を差し伸べる。
「すまない、建物が少し壊れてしまった」
「……いえ、ありがとうございます」
「どうだろう。俺は仲間には不足かな?」
シンバルの問いに、ナビはにっこりと笑う。
「私からお願いします。ぜひ、仲間になってください!」
「喜んで」
