#04│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
竹を相手に、刀を袈裟掛けに振り下ろす。スコン、と軽い音が響き、竹は斜めに斬れた。
ここは、家の裏にある竹林。
オバアサンが対鬼用に作ってくれた新しい刀の試し斬りをしにきたのだ。
「よほどの業物だぞ、これ」
古武道の剣術で、真剣は何本も扱ってきた。
だからわかる。
ふつう、こんな簡単に竹は斬れない。
「当り前やがな。オバアサンは、唯一無二の刀鍛冶やでぇ。な、桃太郎はん?」
「お、おう」
刀鍛冶であることは知っていた。家に併設された鍛冶場があり、オバアサンはたまに篭るからだ。しかし、腕前までは知らなかった。
あらためて、刀を見る。
オバアサンが「久しぶりに魂を込めて作った」という一振りだ。名は『関孫六・三本杉』。
約60センチ程度と、日本刀としては少し短いがその分扱いやすい。
日本刀独特の反りが美しく、柄も鞘も朱色に染め上げられていた。
「そちらの太い竹も切れますか?」
雉彦に示されたものを見る。その太さは大人の太ももほどもある・・・・・・。
「孟宗竹か。竹の中の最大種だ」
たしかに太い。
まるで電信柱だ。
関孫六を上に構え、静止。
一気に斬り下ろす。
が、半分ほど竹に食い込んだところで止まってしまった。
「ま、まぁこれからや。ゆっくり慣れていけばえぇ」
励まされると余計落ち込む。
でも、こんな太い竹、刀で斬れるもんなのか?
「ここ、ちらに来てください!」
雉彦の大声だ。
なんじゃい、と思いながら歩んでいくと、言葉を失った。あの太い孟宗竹が、切り落とされて散らばっている。
「一体、誰が・・・・・・」
オバアサンに聞かなくては。急いで家に戻る。が、いない。隣の鍛冶場だ。
鍛冶場の中には、所狭しと道具が並んでいた。
中心にある「炉」には火がくべられており、近づくだけで熱くなる。壁際には、様々な日本刀が飾られていた。飾り台に置かれた日本刀は、どれも大小二本ずつの組になっている。
いた。
オバアサンは隅で掃き掃除をしている。
「オバアサン!竹林の奥で、孟宗竹が斬られまくってた!」
オバアサンが、手を止めて振り返った。
「なんじゃと?」
オバアサンは目を丸くした。
「だからさ、孟宗竹っていうぶっとてぇ竹が、斬られてるところがある。まさか、オバアサンが斬ったのか?」
オバアサンは、視線を外す。
「まさかアイツが・・・・・・いや、そんなことはないはず」
声が少し震えていた。
「アイツって誰だ?」
無視――オバアサンは掃き掃除を再開した。
「私にも使える小さな刀はないか?」
猿飛が、話の流れを無視して聞いた。
「お前さん、刀を使えるのか?」
「前脚は無理だが、尻尾で掴むことができそうだ。身体が小さい私でも、刀が使えれば戦力になれるかもしれない」
「だったらこれにすれば?なんか、小さい方だけ余ってる感じだし」
その飾り台には、大きい方の刀はなく、小太刀だけ置かれていた。台座には、『七星剣』と書いてある。
「触るなッ!」
壁が振動するほどの大声だ。全員の動きが止まる。
「触るな。それだけは、ダメじゃ」
もう一度、静かに言った。
「な、なんだよ、オバアサン。そんなに大切な刀なのか?」
問いかけを無視し、オバアサンは壁にかかっていた別の小太刀を猿飛に手渡す。
「これにしておけ。軽くて、扱いやすいぞ」
「あぁ、恩に着る」
なんとなく気まずくなって、家の方に戻った。
◇◇◇◇◇◇
「よし。とりあえず鬼と戦ってみるか」
猿飛が熱いお茶を飲み終えてから提案した。
「そうだな・・・・・・」
簡単には肯定できない。
たしかに関孫六の斬れ味は鋭い。が、それだけで勝てるとは思えない。
情けないが、鬼に喰われようとするときは小便をもらした。
思い出すだけで、歯がカチカチと震える。楽丸も、クゥンと弱弱しく鳴いているではないか。
「わたくしは構いませんよ。そこの臆病なワンワンとは違います。鬼の目を突いてやりましょう」
雉彦は羽でくちばしを撫でている。
「黙っとれい!おんどれは、鬼の強さがわかってへんのや!」
「私も勝てるとは思ってないよ。ただ、希火団子を食べれば復活できるんだろう?まずは敵の戦力を分析しておきたい」
猿飛の意見に、楽丸が黙る。
「それもそうだな・・・・・・。戦ってみるか」
「それでは、さっそく希火団子をいただきましょうか」
希火団子は台所の箱の中に置いてある。その箱を持ってきて、蓋をパカっと開けた。
「な、なんだこれ!くさいな!!」
猿飛が鼻を覆って壁際まで飛んでいった。希火団子は、猿のお口に合わないのか?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
鬼の姿を見た途端、雉彦はバサバサと上空に飛んでいった。
「待、待て!」
なーにが、「あいつらには借りがある」だ。ソッコー逃げやがって・・・・・・。
「放っておけ!それより、鬼をよく観察しろ!」
そうだ、今回は鬼の戦力分析が目的なんだ。
深呼吸し、名刀・関孫六を構える。
鬼どもは武器は持っておらず、全員が素手だ。
今回も上陸した砂浜で、鬼に囲まれた。しかも、九匹いやがる。前回より増えてるじゃねーか・・・・・・。
せめて一匹くらいは倒して、今後の希望を持ちたい。
正面にいる鬼との距離は、三メートルほど。不用意に近づけば、すぐにやられる。心臓はバクバクと脈打っている・・・・・・。
突然、猿飛が桃耳打ちしてきた。
「――――て、―――しろ」
(つづく)
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