#09│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
弟・・・・・・?
どうしてそんな大事なことを早く言わなかったんだ。
「ワシとしても、うしろめたかったんじゃ。桃は大きく、一つしか拾いあげることができんかった。きっと、あの桃は川を下って海に出てしまったんじゃろう・・・・・・」
誰もオバアサンを責めることはできなかった。みんな、黙っている。
「その弟が、もしかしたら仲間になってくれるかもしれんな」
猿飛の一言が、重苦しい雰囲気を変えた。
「そうだな!明日、早速探してみよう」
◇◇◇
「このにおい、桃太郎さんに似てるっ」
島を船で出発してから二時間。前方の島を前脚で指して、楽丸が叫んだ。
海岸に着くと、敵襲に備えながら舟から下りた。
楽丸を先頭にしながら進む。木は茂っていたが、歩きやすい。踏みならした道があったからだ。少なくとも、人間が住んでいる。
その道を進むと、村があった。木の陰に隠れて観察する。田を耕す人や家畜の世話をする人の姿が見えた。
「この中にいてはる」
楽丸の顔は確信めいている。
ただ、急に不安になってきた。おそらくこの集落の住人にとって自分たちは異端の存在。歓迎されるとは限らない。
人間相手なら戦っても負ける気はしないが、古武道で蹴散らしても、ここに来た意味がない。
ためらっていると、一人の男が近づいてきた。
「人間がやってくるなんて珍しいぞ」
一言で言うと、強そうな人だった。背は、現代人の成人男性の平均より高い。袖から出ている腕は、ボクサーのように引き締まっていた。
表情から察するに、警戒はされていないようである。
その男は弓を持っていた。
ただ、弓というには大きすぎた。身の丈ほどもある大弓だった。材質は恐竜の骨のようなものだった。
背負った矢筒に入っているのは、矢というより小さな槍だ。北極熊であろうと一撃で仕留めそうな弓矢だった。
「あやしいものじゃない。このあたりで、桃から生まれた人間を知らないか?」
「俺の名前は、桃騎。偶然だな、俺も桃から生まれたって言われている」
やった!間違いない!オバアサンが言っていた人物が、見つかった。
まぁ中に入れよ、という言葉に甘え、集落の中心地にある桃騎の家に入れてもらった。特に警戒されているわけでもないらしい。
参謀役の猿飛が、ここに来た経緯を手短に述べた。桃騎は、腕を組んだまま聞いている。座って話を聞くときも、弓は隣に置いたままだ。
「というわけで、一緒に戦ってくれないか?」
最後は、自分の口でお願いした。
だが、桃騎は端的に答えた。
「それはできない」
どうして――そう尋ねようとした瞬間、
カンカンカンカン!
と、外で鐘が鳴り響いた。
「間がいいのやら、悪いのやらッ」
桃騎はそう言いながら、大弓を手にして屋外へ駆けていった。
なんだよ、外で何が起こってる!?
カンカンカンカンと鳴り響く鐘の音。騒ぎ立てる人々の怒号。屋外は、何やら大変なことになっている。
「よくわからんが、行くぞ!」
家から飛び出ると、目の前の光景にびびった。
半人半鳥の化け物が暴れまわっている。顔から胸までは人間の女性だが、腕は翼になっている。下半身は、完全に鳥であった。
ゲームに出てくるハーピーってやつに似てる。
爪が異常に発達している。形は鷲(わし)の鉤(かぎ)爪(つめ)と同じだが、大きさは倍以上だ。掴まれたらひとたまりもないだろう。
応戦する村人は桃騎を含めて五人しかいない。ハーピーたちは縦横無尽に飛び回り、家屋や作物を破壊する。
「はやいッ」
視界の端で、馬が一頭応戦しているのが見えた。ハーピーが地上に降りてくるタイミングを見計らい、体当たりを試みている。だが、軽々とよけられ、家屋の壁に激突していた。だいじょうぶか?
バタンッ!!
「うわ!」
目の前に何か落ちてきた。心臓を矢で射貫かれたハーピーだ。
五人の戦士たちが、次々とハーピーたちを打ち落としていた。走り回ってハーピーたちの攻撃をやりすごしながら、確実に仕留めている。
特に圧巻なのが、桃騎だ。他の戦士の矢は当たったり外れたりなのだが、桃騎は違う。百発百中だ。
桃騎が矢をつがえ、空高くから急降下して襲ってくるハーピーに向けて構える。狙いを定める時間は一瞬。桃騎が矢を離すのに応じて、ビュンッッと弦が応じ、次の瞬間、矢が心臓の部分に突き刺さっている。ハーピーは空中で一瞬止まり、そのあと無様に落下した。
「これほどの技術があれば、大きな戦力になる」
猿飛と同感だ。だが、今はそれより・・・・・・
「お前たちは、家の中に入ってろ!」
戦いてぇ!
あんな”強さ”を見せつけられたら、血が騒ぐ。
突風のような速度で降下してくるハーピーの爪をぎりぎりでかわし、愛刀・関孫六で薙ぎ払う。胴体を真っ二つにしてやる。
「いける!」
古武道の稽古に飛行中のツバメを斬るものがある。小さいツバメに比べ、人間大の大きさのハーピーは、はるかに斬りやすい。
「ぉお―――おおぉ!」
自然と雄たけびをあげていた。鬼に勝てない憂さ晴らしをするように、ハーピーを斬りまくった。
◇◇◇
「しゃあッ」
最後の一匹を、斬る。
あたりはハーピーの残骸でいっぱいだった。
「とんでもない腕前だな!」
桃騎が走って近づいてきた。
「桃騎の方がすごいよ!一本も外してなかったじゃん?」
「桃騎さまは、村の英雄ですからね」
他の戦士も集まってきた。みんな、顔や腕から出血している。
夢中で気がつかなかったが、両腕に引っかき傷を負っていた。
◇◇◇
まずは治療を、ということで桃騎の家にもどった。村人がやってきて、俺や戦士たちの手当をしてくれる、
「わるいな」
桃騎は、腕に包帯を巻かれながら顔だけ動かしてこっちを見た。
「この村は、ときどきあの鳥人の襲撃を受けるんだ。いつ来るか、はわからん。やつらの巣がどこにあるのかも、わからん」
いてっ。桃騎が顔をしかめる。包帯が少しきつかったようだ。
「ただはっきりしているのは、俺たち弓使いが村を守らなくてはいけない、ということだ。五人の弓使いのうち、一人でも欠ければ被害が大きくなる」
包帯が、ちょうど巻き終わった。桃騎は、村人に、ありがとう、と述べ、
「だから、鬼の討伐にはいけない。本当に、すまない」
と頭を下げた。
なんて礼儀正しい男なんだ。料理だけが取り得の村娘に見せてあげたい。村人のために身体を張る姿が、すばらしくかっこいい。
「そんな。こっちが勝手に押しかけてきただけだし、それぞれ事情があるんだし。それに」
右手を差し出す。
「こうやって村人のために頑張っている人がいるってわかっただけで、励まされたよ」
桃騎とがっしり握手をした。
「そうか。直接手助けはできないが、何かあったときはいつでも来てくれよな」
力強い握手が交わされた。
もちろん、戦力が増えなかったのは残念である。しかし、力がみなぎっていた。
今まで、自分は戦いたいから戦ってきた。
単純に、喧嘩が好きだったのだ。
気に入らないやつ、目が合ったやつはとにかく殴った。
警察にお世話になったのも、一度や二度ではない。
人のために、力を使う。そういう戦い方も――いいもんだな。
この日は、桃騎の誘いで泊まらせてもらうことになった。気遣ってくれたのだろう。
「悪いね。食事まで準備してもらって」
「気にするな。食材ならたくさんある。あんまり放置しても、腐っちゃうし」
まさか・・・・・・。
「今日倒した鳥人間を食べるんじゃないよな?」
念のため、聞いた。
「食べるよ。うまいし」
「えっ」
「ふむ・・・・・・」
「ほんまかいな・・・・・・」
「やりますね・・・・・・」
みんなで微妙な反応をしてしまった。
◇◇◇
目を覚ますと、太陽は真上近くまで昇っていた。
しまった、昨晩、はしゃぎ過ぎたか。
身支度を整え、桃騎に挨拶をする。
「鬼を倒したらまた来いよ。盛大に祝おうぜ」
「お、おぅ。次は、食材を持ってくるからな」
昨晩の宴は、楽しかった。
が、食文化の違いを知った・・・・・・。
さて、気持ちを切り替えよう。
そう思ったとき――
「オイラも連れていってくれ!!」
・・・・・・なんだコイツは?
(つづく)
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