#25│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
心臓を貫くと、朱天童子はおぞましい悲鳴を浴びながら後ろに倒れた。
よし。体力は温存できているし、傷も前より少ない。あとは、
「よくやった。ようやくワシと戦える高みに到達したな」
干将を倒すだけだ。
干将に、戦った記憶はないらしい。前と同じセリフを吐いていやがる。
「それにしても、変わった武器だな」
人の身長ほどある柄の先端に刃がついている。
オバアサンに頼んで作ってもらったのは、刀ではなく槍だった。
なぜ今まで思いつかなかったのか・・・・・・。戦場では刀より槍の方が主力として使われていた。
なぜか?強いからだ。
「お前を倒すために作ってもらった武器、莫耶の宝刀だ」
中段に構え、槍の先端部分を干将の顔に向けた。本当は“宝刀”ではなく“宝槍”なのだが、説明する必要もない。
「おもしれぇ、やろうぜ、早く」
干将も中国刀を構える。刃が交錯した。
右手で槍を手元に引き寄せ、押し出すようにして突く。
干将が刀身で受け止め、軌道を逸らす。
すかさず再び槍を引き寄せ、突く。
(これでいい)
単純な攻めだが、最善策だ。その証拠に、干将は軽口を吐く間もなく、防御に徹している。
脛斬りや薙ぎ払いで一気に決めたいが、もしかわされたら干将の斬撃が襲ってくる。突きを繰り返し、干将の握力と集中力を奪う。
と、見せかけておき――突いた槍をそのまま右へ薙ぎ払う。干将は驚異的な超反応で後ろに跳んだが、槍の穂が腹をかすめ、鮮血が滴り落ちた。
「むぅっ・・・・・・」
莫耶の宝刀は、中心の穂から枝分かれした左右対称の刃が横に突き出ている。
いわゆる、十文字槍というものだ。
突けば槍、払えば薙刀、引けば鎌、という使い方ができる。
「莫耶の宝刀・・・・・・。切れ味を追及するのではなく、形状を工夫してきたか。実におもしろい」
この状況でも楽しんでいやがる。どれだけ戦闘狂なんだよ・・・・・・。
そう思った矢先、干将が背を向け走り出した。
ここに来て逃走!?
わけわかんねぇっ。
無論、追いかけるのだが槍を持ちながらでは早く走れない。
干将の目的地は床の間だった。そこから一振りの日本刀を手に取ると、ためらうことなく抜刀した。
「七星剣、味わってみるがいい」
「さっきの刀が七星剣ではないのか!?」
追いついた俺は、呼吸を整えるのも忘れて聞いた。
「何を勘違いしている?あれは小竜景光。片手で扱うおもしろい刀だが、強さは七星剣に遠く及ばん」
何ということだ。
「さぁ、楽しもうぜ」
干将は、両腕を大きく上にあげた。
上段――。
古武道や剣道において、上段は超攻撃特化の構えと言われる。
振り下ろすだけで最速の攻撃ができる反面、頭以外はガラ空きになる。
「どうした?来いよ」
槍の間合いから、一方的に突いてしまえばいい。
そうわかっていても、身体が動かない。
上段の構えのせいで、干将が大きく見える。そのうえ、振り上げられた妖刀・七星剣からの圧力が・・・・・・。
緊張のためか、恐怖のためか。顔面から粘着性の脂汗が噴出した。
汗が左目に入り、片目を閉じる。眼前を何かが通り越す。
(え?)
莫耶の宝刀の枝分かれした部分が片方、欠損していた。
刃物ですら抵抗なく斬り落とすその斬れ味。顔面だけでなく、全身から汗が噴き出した。
(正攻法では勝てん・・・・・・)
十文字槍の特長は、突くだけでなく、薙ぎ払う、引くといった攻撃ができること。しかし、槍には、もともと別の攻撃がある・・・・・・。
中段の構えから右手を押し出すようにして、槍を投げた。
干将は大きく右にかわす。
槍投げと同時に踏み込みんでいたため、互いの距離は密着している。
「なっ!?」
両手で干将の首を固定し、飛び上がる。
干将に全体重を預け、一気に転倒させた。
飛びつき腕十字固め。
現代柔道のルールでは禁止されているが、古武道では奇襲で使われる。
(鬼には使えなかった古武道、存分に味わいやがれ!!)
グギッ
容赦なく、折る。
異種格闘技戦では、相手が知らない技を使うのは常套手段なのだ。
「ッッッ~~~!」
腕を折られた干将が悶絶している。
その隙に、七星剣を奪う。
のたうちまわる干将。これが、育ての親で、かつて最強と言われた刀鍛冶・・・・・・。
いろんな感情が混ざり、吐き気をもよおしてきたが、やらなくてはいけない。
両手に力を込め、ためらうことなく、振り下ろした――。
◇◇◇◇◇◇
「あったでぇ!」
戦いのあと、俺は少し眠っていたらしい。楽丸の声で目を覚ました。猿飛が、装飾の施された小槌を持っている。
「まさか、それ!?」
「そう、打出の小槌だ」
「探したんやでぇ、ほんま」
これが打出の小槌・・・・・・。絵本で見たものそのままだ。
「それで、桃太郎さんは、どのようなことを願うんですか?」
そうだ、願いを叶えるために戦ってきた。村の人を助けたいという思いも、もちろんあったが、それだけでは戦えなかったのかもしれない。
「願いは――」
元の世界に帰る。
そう思っていた気持ちも、いつの間にかどうでもよくなっていた。
「願いは、男になることだ」
「なんやて!?」
「ふむ」
「えっ」
仲間たちに説明する前に、小槌を振った。
「男にしてください」
突然、上からの光に包まれた。下からは、白い煙が立ち込めてくる。
光と煙が消える。
気づくと、胸板が熱く、腕の筋肉もたくましくなっていた。背も少し伸びた気がする。
「桃太郎はん、どうして男になりたかったんや」
楽丸の質問に即答した。
「女のままでは、あいつと結婚できないだろ?」
―完―

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