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後で決める

「後で決める。」――それは(後で決める)が幼いころから口にしてきた口癖だった。何を尋ねられても「後で決める」と返すため、大人たちは最初「まだ子どもだからはっきり答えられないのだろう」と受け止めていた。しかし、(後で決める)が小学校から中学、高校へと進んでも、その口癖は変わることがない。普通なら呆れられてもおかしくないのに、周囲はなぜか(後で決める)を見放さなかった。いざ行動を起こすと天才的な成果を挙げるため、人々は「また『後で決める』か」と苦笑しながらも、どこか期待を隠せなくなっていたのだ。

 そんな(後で決める)が(後で決める)に進んだあとも、やはり「後で決める」を貫いている最中、(後で決める)の研究室で「(後で決める)」という総合競技が開催される話が持ち上がる。数学、物理、プログラミング、言語学など、多種多様な問題が短時間で大量に出題される難関イベントだ。個人戦と団体戦があり、優勝者には(後で決める)が約束されているという。まさに彼向きの舞台だが、案の定、(後で決める)は「出るかどうかは後で決める」と言い、エントリー締切の直前まで何も行動を起こさなかった。  

 ところが締切の前日、物理学科でトップの成績を誇る友人(後で決める)が駆け込んできた。「私たちのチーム、あと一人足りないの。お願いだから出てくれない?」 (後で決める)は(後で決める)の天才的な面を誰よりも知っている。団体戦は人数不足だと失格してしまう。(後で決める)はいつものように「後で決める」と言いかけたが、締切が翌日正午に迫っていることを思い出し、「まあ、じゃあ出てもいいかな」と渋々承諾した。もっとも「しっかりやるかどうかは当日決めるよ」と、(後で決める)らしい台詞も忘れなかったが。

 大会当日。スポンサー企業やテレビクルーまで駆けつけた華やかな会場は熱気に包まれ、大がかりなセットが組まれている。個人戦は午前中から始まっているが、(後で決める)はエントリーしていない。遠巻きに見つめながら「やっぱりああいうのは事前準備が必要だよなあ」と他人事のように呟いていたが、(後で決める)は「本気を出せばあんなものすぐに解けるのに」と歯がゆい思いを抱えつつ、団体戦での(後で決める)の活躍を期待していた。

 夕方から始まる団体戦。数学の未解決問題をベースにした数式解析、複雑なシミュレーション、言語処理のアルゴリズム、ロボット工学やAIを絡めた大規模プロジェクト――どれも一筋縄ではいかない難問ぞろいだ。本来なら事前に役割を細かく分担し、入念に準備するのが普通だが、(後で決める)は「後で決める」と言うだけで作戦を立てようとしない。チームメイトも当初は不安を抱いたものの、「(後で決める)なら何とかしてくれる」という漠然とした期待を捨てきれず、そのまま本番を迎えてしまった。

 やはり問題は想定以上に難航し、あちこちでバグが発生。残り時間が10分を切っても全体の解答が見えてこない。苛立ちの募るチームメイトをよそに、(後で決める)はどこかのんびりしていた。ところが、ついに締切が迫ってきたその瞬間、彼がスッとパソコンの前に座り、複数の画面を一通り見渡すと「ここをこう直そうか」と矢継ぎ早に指示を出し始めたのだ。みるみるコードや数式が修正され、モデルが再構築されていく。チームメイトは息をのむが、同時に各々の得意分野を活かして一心不乱に手を動かす。あと数分という段階で、ようやく解答が形になってきた。

 残り2分。しかし最後の詰めで微妙な誤差が消えず、答えが安定しない。「あと1分です。最終回答を送信してください」というアナウンスが響き、チーム全員が焦りを募らせる。すると(後で決める)は迷いなく新たなプログラムを打ち込み、演算に補正を施した。かなりの賭けだが、(後で決める)の表情には迷いがない。エンターキーを押す直前、(後で決める)は小さく笑って言う。

「後で決める……なんて、もう言わない。今決めてやる!」

 送信と同時に時間切れ。ディスプレイに映し出された解答を見た審査員が「正解!」と叫ぶと、会場に大歓声が沸き起こった。圧倒的な得点で優勝が告げられ、チームはスポットライトを浴びる。(後で決める)はいつものように淡々とした面持ちだったが、(後で決める)は「やっぱりあなたってすごい……!」と目を輝かせていた。

 そして表彰式が終わった直後、人々の歓声がまだ会場に響く中、(後で決める)は意を決したように(後で決める)の前に立つ。 「ねえ、実は私……あなたのことがずっと好きだったの。こんな場面で言うのも変かもしれないけど、本気だから。」

 ここぞというタイミングで伝えられた(後で決める)の想いに、周囲のチームメイトも息をのむ。すると(後で決める)は、しばし沈黙してから、おもむろに答えた。 「……(後で決める)。」

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