ライ・クーダー『Ry Cooder』(ファーストアルバム)について
アルバム概要
1970年12月にリリースされたライ・クーダーのソロデビュー作『Ry Cooder』は、名セッションギタリストとして名を馳せていた彼が、ヴァン・ダイク・パークスとレニー・ワロンカーという希代のプロデューサー陣とタッグを組んで作り上げたアメリカン・ルーツ・ミュージックの名盤である。(ライ自身はヴァン・ダイク・パークスのアレンジをあまり気に入っていなかったようだが…)
このファーストアルバムを含めた3作目までは、アメリカのフォークやブルースの古典をライ・クーダーの再解釈によって現代に蘇らせた作品群であり、「初期三部作」などと呼ばれている。本作も例に漏れず、収録曲の半分以上が戦前フォークやカントリー・ブルースの古典を取り上げている。大恐慌時代の楽曲も多いためか、歌詞には悲壮感が漂うものも少なくない。
もう一つ押さえておきたいのが、豪華な参加ミュージシャン陣だ。ピアノのヴァン・ダイク・パークスをはじめ、ベースのロイ・エストラダとドラムスのリッチー・ヘイワードというリトル・フィートのリズム隊、さらにはクリス・エスリッジやジョニー・バーバタなど、実力派が名を連ねている。
【Side A】
1.Alimony
原曲: Tommy Tucker (1965)
R&B歌手トミー・タッカーの1965年の楽曲。スタッカートの効いたライらしいエレキギターのバッキングが光るオープニングトラックで、かなり手数の多いフレーズや、彼ならではのシンコペーションは実に聴き応えがある。
内容は、離婚した男が6人の子供の養育費に苦しむというもので、「慰謝料(Alimony)に殺される」と嘆く大恐慌時代の歌だ。悲惨なテーマでありながらユーモラスかつエネルギッシュに仕上がっており、この感覚はライの作品全体に通底する魅力だと感じる。
2.France Chance
原曲:Joe Callicott
原曲はジョー・キャリコットの弾き語りだが、本作ではそれとはかなり雰囲気が異なる。アコギ、エレキ、そしてマンドリンを重ねてリズムを強化するアレンジは実にライ・クーダーらしく、個人的にも非常に好みのスタイルだ。要所で決まる「キメ」のポイントも多く、とても歯切れの良い楽曲に仕上がっている。
3.One Meet Ball
原曲:Josh White
カントリー・ブルースのミュージシャン、ジョシュ・ホワイトの楽曲。ヴァン・ダイク・パークスがアレンジを担当しており、ライのギターに複雑で豪華なストリングスが重なっていく。
歌詞は「貧しい男がレストランに入るも、手持ちの金で注文できるのはミートボール1個だけ」という切ない物語で、それを考えるとストリングスのアレンジがやや大袈裟に聴こえる人もいるかもしれない。おそらくライ本人もそう感じたのではないだろうか。
この曲は多くのアーティストにカバーされているが、ライが参照したのはジョシュ・ホワイトのバージョンだ。ライとしてはもっと泥臭いニュアンスに仕上げたかったのかもしれない。とはいえ、楽曲としての完成度は高く、アルバムにおいても重要なアクセントとなる名トラックだ。
4.Do RE Mi
原曲:Woody Guthrie
言わずと知れたフォーク・シンガー、ウッディ・ガスリー曲。カリフォルニアへ向かう移住労働者たちに対し、理想郷ではないのでお金がないなら故郷に帰ろうという歌詞。また、元々はフォークソングなので原曲は弾き語りだが、ライ・クーダーの編曲の腕とリズム・ギターの独特のサウンドが光る一曲。
5.My Old Kentucky Home
原曲: Randy Newman
ライと同世代のシンガーソングライター、ランディ・ニューマンの楽曲。唯一の現代曲。この曲のコーラスは、スティーブン・フォスターの歌「My Old Kentucky Home」の「Oh, the sun shines bright on / My old Kentucky home」という歌詞を引用している。
6.How Can A Poor Man Stand Such Time And Live?
原曲:Blind Alfred Reed
1929年12月4日、ニューヨークで録音されたアルフレッド・リードのフォークソング。ウォール街の株式大暴落からわずか2か月後に吹き込まれたもので、大恐慌時代の苦難を捉えた初期プロテストソングの代表格だ。
ライのバージョンはリードのオリジナルと比べて歌詞の構成(順番)が大きく入れ替えられているが、テキスト自体はすべてオリジナルから引用されている。ライはおそらく、ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズ(New Lost City Ramblers)からの影響でこの曲を知ったと思われる。
彼のカバーによってこの曲は後のロック世代にも広く知られることとなり、ブルース・スプリングスティーンもライのサウンドにインスパイアされたアプローチで2006年にカバーを発表している。
【Side B】
7.Available Space
原曲:Ry cooder
Side Bの頭を飾るライ自作のインスト曲。エレキとアコースティック双方でスライド・ギターを重ね合わせる形でアコギとエレキの掛け合いが魅力的な曲。味があって泥臭い匂いがするスライドでありながら歯切れが良く、ライのギタリストとしての腕が光る一曲。
8.Pig Meet
原曲:Lead Belly
ニューオーリンズ風のブラスバンド、ピアノでアレンジされた楽曲。この曲はライのギターが聞こえてこない曲。原曲は、ライの敬愛するレッド・ベリー。
9.Police Dog Blues
原曲:Blind Blake
原曲同様、アコースティック・ギター1本でカバーしている。ライは原曲を自分なりに解釈しライ味にするのが非常に得意だが、この曲に関してはかなり原曲に忠実な演奏で、得意のスライドもない。ラグタイム・ブルース・ギターの王様、ブラインド・ブレイクに対する敬意なのかもしれない。
10.Goin' to Brownsville
原曲:Sleepy John Estes
エステスの相棒ヤンク・レイチェルから学んだマンドリンをライ自身が弾き、アンサンブルの中心に据えています。マンドリンとスライド・ギターの絡みが極めて味わい深いトラックです。
11.Dark Is The Night
原曲:Blind Willie Johnson
アルバムのラストを飾るのは、ライ自身が「全アメリカ音楽の中で最も超越した作品」と称賛するブラインド・ウィリー・ジョンソンの1927年の名曲(原題「Dark Was The Night, Cold Was The Ground」)。ギター1本によるインスト曲。感情の乗った大胆なスライドギターでライの演奏の魅力が詰まった曲です。数年後に映画『パリ、テキサス』OSTのバックボーンとなるサウンドが垣間見えます。
