アドマイヤベガを巡るふたつのドラマ―ウマ娘プリティーダービーとじゃじゃ馬グルーミン★UP!
さて。私は頂いた御縁あって『ウマフリ』さまという外部サイトで、競馬に関するコラムを掲載させて頂いている。
ガンダムおじさん兼競馬おじさんという訳である厄介すぎる。最近はジークアクスに関するプレリリースも特にないので、競馬に関するコラムをnoteにもしたためようかと思いついた次第である。競馬やウマ娘に興味のある方は、ご照覧頂きたく候。

今回語る名馬は、アドマイヤベガ。武豊騎手のダービー連覇を手助けたサンデーサイレンス産駒のダービー馬で、名牝ベガの初仔である。その出生にまつわる悲劇も、競馬ファンにはつとに知られている。不妊に悩むベガが苦労の末に受胎したのは、双子であった。馬の双子は流産の危険性が高く、無事生まれたとしても虚弱であるとされる。そのためにやむを得ず双子の片方は取り除かれ、残された片方がアドマイヤベガとして生を保ったのだ。
その生まれに、何も感じない者は居ないであろう。私も競走馬アドマイヤベガ(略称アドベ)の背景を知った時、息が詰まる思いがした。
けれど、彼は悲劇だけで終わる馬ではなかった。母親から受け継いだその末脚で第66回東京優駿を勝利し、ダービー馬として世代最強の座を勝ち得たのだ。あの大外からの鮮烈な末脚は、今も競馬ファンの記憶に焼き付いている。
そんな彼の印象的な蹄跡は、二つの作品でも描かれた。アニメ『ウマ娘プリティーダービー ROAD TO THE TOP』(略称RTTT)と漫画『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』(略称じゃじゃ馬)である。
ちょっと捻って、この二作を通じてアドマイヤベガをご紹介しようという次第だ。こうして触れる事で、生まれることの出来なかった名も無き『ベガの1996』への供養になるだろうかとも思いつつ。
注意! この文章は以下そんなにネタバレしないように書いてます。けれどもどうしても多少はまろび出ているネタバレがあるかもしれませんので、先にお断りしておきます!
アヤベさん ああアヤベさん アヤベさん 史実はアドベ ウマではアヤベ

まずはこちら。ウマ娘に説明は要らないような気がするが一応。ウマ娘とは、往年の名馬をモチーフにした擬人化キャラが、レースで競うメディアミックス作品である。日本でも人気があり、今は海外でもバズっている。その中の一作品『RTTT』は、youtubeで無料配信された全四話のアニメだ。この作品で取り扱った題材は1999年クラシックで、主人公はナリタトップロード(ポスター中央の子)。アドマイヤベガ(ポスター左の子)はトプロのライバルとしてこのアニメに登場する。
擬人化。馬であれば出生にまつわる悲劇など知り得ない事だろうが、ウマ娘としてのアドマイヤベガは、自らが生まれ持つ悲劇ーー流産を防ぐため犠牲になった名無しの妹の存在を知ってしまっている。(作中ではぼかされているが、史実と同じ背景故であろう)それゆえか彼女はどこか影を背負い、ダウナーな性格のウマ娘として描かれる。
そりゃそうだよ暗くなっちゃうよ。私がこの設定(アドベが自身の悲劇を分かっている)を知った時、あまりの設定の重さに息が止まりそうになった。そのショックでアヤベさん最推しになったようなもんである。史実アドベは最たる推しというわけではなかった。
劇中で彼女はひどく思い悩むこととなる。ナリタトップロードたちとレースを通じて切磋琢磨する喜びと、流産を防ぐために犠牲となった妹への責任。その葛藤は痛ましいものでありながら、視聴者の心を深く掴む。
ウマ娘でアドマイヤベガが辿り着いた未来。それは、みなさま自身に確かめてもらいたい。ダイレクトマーケティングである。ちなみに私は初見で、アヤベさんに関わる終盤シーンで号泣した。そして、この文章を書くために見返して、また号泣した。
CygamesPicturesの手がけたRTTTと次回作映画『新時代の扉』は、音楽もアニメ演出も綺麗で泣ける。……次の次のウマ娘映画作品もこっそり期待している。
RTTTはアドマイヤベガの運命を受容しながらも、精神的な救済を目指した作品であると言える。
たぶん連載時期からして、マキバオーへのカウンターだったのだろうな。じゃじゃ馬。
対して、運命の軛を取り払って『ふたり』の肉体的な救出を試みたのが、漫画じゃじゃ馬である。こちらの作品は90年代の連載漫画で知る人は多くないかもしれない。けど私は知っている。作者ゆうきまさみ先生のファンなので。
今年帰省した時に本棚の埃を払い、また一気読みした。今はサンデーのウェブサイトでも配信されているようだ。
作品の簡単な解説はというと。偶然、競走馬の生産牧場で働くことになった都会っ子な久世駿平君が、ボーイッシュな道産子ヒロイン度会ひびきちゃんと織りなすラブコメディーだ。基本的には『究極超人あ~る』や『機動警察パトレイバー』のように、濃いキャラクターどもが色んな目標に向かってドッタンバッタンと右往左往するコメディーな群像劇である。だが、この作品には時折、シビアなエピソードがスパイスとして散りばめられている。ゆうきまさみ先生のライトなタッチで、騎手候補生の挫折や、飛び交う昭和イズムな暴力愛の鞭、親と子のすれ違いなどなどが描かれてゆく。今の令和育ちなティーンエイジャーには、どう映るんだろかと邪な興味がわく。
その中で最もヘヴィなスパイスエピソードが、双子の競走馬を巡る作品終盤のトラブルだ。駿平くんがとっても大事に世話している繁殖牝馬のヒルダが、苦労の甲斐あってやっと受胎する。だが、なんと授かったのは双子だった! 流産を防ぐために片方の仔を取り出す事へ消極的に賛成なひびきちゃんと、ヒルダの仔を殺すなんて嫌だと猛反対な駿平君は、このすれ違いから壮絶な喧嘩を引き起こしてしまうのだ……

はて。このエピソード、明らかにアドマイヤベガをモチーフにしたであろうと思われる。思われるとボカシて書いたのは明確な言及が見つからなかったからだが、連載時期(90年代後半)からしてどうしても勘ぐってしまう。
ここでゆうきまさみ先生は、史実とは異なるアドマイヤベガの世界線を示されているように見える。
ここだけネタバレとなってしまうが、アドマイヤベガの運命は駿平君の選択により切り替わる。つまりヒルダの仔はそのまま双子として、流産も回避して生まれるのだ。けれど双子の兄……現実世界ではアドマイヤベガと名付けられる馬は、生来病弱で貧相な体つきのまま成長して、重賞勝ちは望めなさそうな二勝馬アダタラヨイチとなる。(いや中央二勝できる時点ですごいけど)
この選択は果たして良かったのか?誰にとって?その明確な答えは見つからないだろう。G1ダービー馬アドマイヤベガか、二勝馬アダタラヨイチか。経済動物にまつわる葛藤、愛着と経済利益のどちらを取るべきなのかという事を、じゃじゃ馬はテーマとして描き出しているのだ。
余談であるが、じゃじゃ馬の各種設定(架空競走馬の血統や人物相関)は本当によく作り込まれている。初見のガキの頃は、登場人物の恋模様ばっかり追いかけていたのだが、今読むとこの世界での競馬の歴史を一から知りたくなってくる。ストライクイーグルなんて絶対種牡馬として成功する類の馬だ。作中ではなんか頼りない扱いだったが、G1四勝11連対とか大英雄である。
というか社台ファーム醍醐ファームと血縁があり、G1出走できるほど腕利きな中央騎手も家族に存在する度会牧場……とても強い。今の世なら牧場に固定ファンが付く。今後が普通に知りたいぞ。あちらの世界の私も競馬コラムを書いているんだろか?ベルエキップを題材にしそうだ。
夜空がある限り、また星は瞬く
他にも私の知らない、気づいていない『彼』を題材にした作品はこの世にあるだろう。彼の儚いエピソードと鮮烈な活躍は、人々の心に残りやすいのだ。サンデーサイレンス産駒らしい暴れっぷりもエピソードとして強烈だが
彼は結局、数少ない戦績と産駒を遺して、早々とこの世を去ってしまっている。競走馬としての現役が短くとも、種牡馬として長く活躍できていれば後継牡馬にも恵まれたろうにと、歯がゆい気持ちになる。
しかしながら、数少ない産駒の内、母系では彼の血は細々とであるが繋がっている。競馬新聞を読んでいて、母系に彼が居ないか常に探す私である。
彼の子孫で、どうしても忘れられない馬がいる。スキルヴィングだ。スキルヴィングは、母の母の父(曾祖父)が彼にあたる。デビューから期待が高く、G2青葉賞にも勝利し、第90回G1東京優駿でも二番人気でダービー馬となる事を期待されていた。けれども、スキルヴィングはこの東京優駿のレース中に急性心不全を発症し、亡くなった。私は未だにこの世代ではスキルヴィングが好きだ。忘れられない、いや、忘れてはいけないと思う。亡くなった者に対して生者が出来ることは、彼らの生前の記憶をとどめておくことだけだ。それは、彼に対しても。
彼の血を受け継ぐ優駿がもう一度だけでも見れないだろうか、と思ってしまうのはやめられそうにない。
もう八月も中旬を過ぎた。今年も夏競馬のあとに、秋のG1戦線がやってくる。やはりG1は格別だ。
そうして高まる熱を前にして、私はふと夏の夜空を見上げて、君の思い出を探す。
儚い夢のようでありながら、鮮烈な記憶をターフに刻んだ輝く一等星。
君の蹄跡は、時代を経ても色あせずに歴史に残り続ける。
青く眩い勝負服は、君の背負った星の名にふさわしい。
その星の名は、アドマイヤベガ。
私が一等星に願う望みは一つだけ。アドマイヤベガの血を受け継いだ牡馬が、G1の舞台で戴冠する日を。その時はいつか、きっと来る。

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