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カキーン

カキーン

作者 大野好克




小学生の頃。

野球をしていた。



渾身の力を込めて、

ストレートど真ん中、

全力で投げた。

11歳の生涯をかけた、一球だった。


思い通り、

ボールは一直線に、

すごいスピードで飛んでいった。


カキーン。


打った瞬間。

いや、

打たれた瞬間に、

最初の「カ」が聞こえた瞬間に、

私は、

愕然とした。


ボールは、

伸びる。

伸びる。

どんどん伸びていく。

公園の柵も越え、

さらに伸びていった。


ガチャン。


やらかした。

……。



「おいおい。」

「よりによって、あの家かよ。」

みんなが集まってきた。


「あの家、やばいぞ!」

「どうする?」

「打ったのお前だから、お前が謝りに行けよ。」

「え?」

「俺、一人?」


みんな、この世の終わりのような顔をしている。


私は言った。

「大丈夫。」

「俺に任せろ。」

「え?」

「任せるって……。」


「全員で行くぞ。」

「全員って……。」

「一年生のカズ坊も?」

外野を守っていた鼻タレカズ坊は、

わけもわからず、

真剣な目で、うなずいた。


「全員だ!」


私は、全員を引き連れて、

あの厄介なおじさんの家に向かった。

……。


おじさんは、腕を組んで、

待ち構えていた。

ものすごい形相で、

私たちをにらみつけている。

私たちは、全員で頭を深々と下げた。


「どうも、すいませんでした!」


おじさんは、しばらく黙っていた。

そして、

低い声で言った。

「大野。」

「これで全員か?」

「はい。」

「間違いなく、全員です。」


「打ったやつ、誰だ?」

「はい。」

打ったコーちゃんが、

手を挙げた。

おじさんは、コーちゃんの体を上から下まで見た。

少し間を置いて、

「いい体してるな。」

……。


「気をつけろよ。」

そして、

「もういい。」

「帰れ。」

「はい!」

私たちは、頭を下げて、

その場を離れた。


誰も、

お金を請求されなかった。

親に電話されることもなかった。

家に帰って、

怒られることもなかった。


その日は、それで終わった。


私は、

子ども心に思った。


こういう大人に、

自分もなりたいなと。


……。




数日後、



カキーン。








終わり

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