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「名前も知らないともだち」(3分)

【登場人物表】

タケシ(10) 子供のころのタケシ。
タケシ(40) 現在のタケシ。

麦わら帽の少年(10)
母  (60) 田舎の母。


〇田舎の川(30年前)

   釣りをしているタケシ(10)。
   麦わら帽の少年(10)が現れ、通せ
   んぼする。
少年 「ここから先は、立ち入り禁止だぞ!」
タケシ「……俺、釣りしてるだけだから、こ
 れ以上奥にはいかねえよ」
少年 「そうか。ならいい。(びくを覗き込ん
 で)ねえねえ、釣れた?」
タケシ「まあまあ(と中を見せる)」
   小物しかいない。
少年 「全然じゃん!」
タケシ「(竿を渡して)やる?」
少年 「(目が輝く)」
タケシ「もう一本あるし」
   竿をもう一本見せる。
   二人、釣りをして一日を過ごす。

〇現代、都会のビル街

   ケータイで話すタケシ(40)。
タケシ「ああ、母さん。今年の盆は帰れるよ。
 うん。もちろん娘たちも。……あ、なんか
 父親といるのが恥ずかしいのか、女だけで
 ショッピングモールいきたいって言ってん
 だ。うん。連れてってくれない? ……俺? 
 釣りでもして時間潰すよ。押し入れの釣り
 竿、まだあったろ」
   電話口の向こうの田舎の母(60)。
母  「あると思うけど……。そういえばい
 つも『友達に貸す』って、二本持ってって
 たね」
タケシ「ああ、いたね、あいつ。結局名前も
 知らなかったけど」
母  「アンタ名前も知らない友達と遊んで
 たの?」
タケシ「男同士なんてそんなもんでしょ。あ、
 だんだん思い出してきたぞ。あいつ、いつ
 も麦わら帽子被って、赤いランニングと赤
 いサンダルで……」
母  「……」
タケシ「どうしたの母さん」
母  「……まさかね」
タケシ「なに?」
母  「田中さんとこの息子さん、よくそう
 いう格好しててね。でもあなたが生まれる
 ずっと前の日に……」
   インサート。
   川に浮かぶ麦わら帽。
タケシ「何言ってんの? ……まさか」
母  「ねえ。そんなわけないわよねえ」
   回想、通せんぼをする少年。
少年 「ここから先は、立ち入り禁止だぞ!」
タケシ「あいつ……危険を知らせてくれてた
 のか……?」

〇田舎の川、現在

   最新の竿とウェアのいで立ちで来た、
   (大人の)タケシ。
   あの時とそっくりの少年が通せんぼす
   る。
少年 「ここから先は、立ち入り禁止だぞ!」
タケシ「……(笑って)俺、釣りしにきただ
 けだから、これ以上奥には行かないよ」
   竿を見せる。
少年 「そうか。ならいいんだ」
タケシ「……」
少年 「(びくを覗き込んで)ねえねえ、釣れ
 た?」
タケシ「まだだよ。今来たところだし」
少年 「……」
タケシ「(竿を渡して)やる? 俺、もう一本
 持ってきてるし」
少年 「(目が輝く)」

   二人、並んで釣りをする。
タケシ「あのさ。……俺のことを覚えてた?」
   少年、釣りに夢中で聞いていなかった。
少年 「え? なんて?」
タケシ「……いや、いいや。……あ、引いて
 るぞ!」
少年 「え! まじで!」
   はしゃぐ二人。
タケシ「……」

   釣り竿があれば、
   ぼくらはいつでも友達だ。

   DAIWA





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