シリーズ「人生はビールだ。」(3~5分×6)
#1 「たった一滴の乾杯」(5分)
【登場人物】
カナコ(28) 会社員。
父(55) 大の酒好きだった。
母(55)
○東京の会社内、オフィス
ケータイで電話してるカナコ(28)。
カナコ「倒れたって? お父さんが!? 病
院どこ? …手術するの!?」
○一両の電車が走るような田園風景
○田舎、病室
カナコ、土産のまんじゅうを持って病
室へ入ってくる。
ベッドには、チューブに繋がれた父(5
5)が弱々しく笑う。
父 「…やあ」
カナコ「…思ったより、元気じゃない」
母(55)が土産を受け取る。
父 「もう酒はやめるよ。…死にかけたよ」
カナコNA『大酒飲みだった父が、体を壊し
た。この日から、すっかり甘党になった』
まんじゅうをほおばる父。
父 「うまいなあ。うまいなあ」
○(時間あいて)正月、実家
団欒する父、母、カナコ。
父は色んなまんじゅうをほおばりなが
ら。
父 「お前そろそろ結婚の話とかないのか」
カナコ「それ以前の問題です。相手探しが先
です」
父 「こないだの彼氏は?」
カナコ「別れたって言ったでしょ」
父 「お前の結婚式に出るのが、父さんの
昔からの夢なんだよ。叶えさせておくれよ。
お土産のまんじゅうで糖尿になっちまう
よ」
カナコ「(母に)そんなに甘いものばっか食べ
てるの?」
母 「だいぶ太ったでしょ」
○一両電車の田園風景(時間経過)
カナコNA『十年、それから私は父をまんじ
ゅう漬けにした親不孝者で、それでも結婚
できる日がやってきた』
○結婚式場、打ち合わせ室
実家の母とケータイで。
カナコ「どういうこと?」
母 「ぜんぜん分からないのよ。近所の人
が何人も見てるの。お父さんがこっそり病
院に通ってるって。甘いものも突然辞めち
ゃうし、何かの病気を隠してるのかしら」
カナコ「…落ち着いて、考えすぎよ。式には
二人とも来れるんだよね?」
○式の前日、夜、式場
カナコ「お父さん、まんじゅう食べないの?」
テーブルの上のまんじゅうを無視する
父。
父 「実は、話がある」
かばんから、検査結果を出す。
どきりとするカナコ、母。
父 「一滴だけ、飲んでいいって、医者に
許可をとってきた」
カナコ「は?」
母 「何を?」
父 「酒だよ。すっごい濃い奴にしたいけ
ど、医者のヤロウ、ビールにして下さいだ
とよ。だから俺はビールを飲むぞ。たった
一滴のビールを飲むんだ」
カナコ「何を言ってんのよお父さん」
父 「俺の夢は、お前の結婚式で酒を飲む
ことだったんだ! 数値は大丈夫だろ!
本当は、まんじゅうなんて大ッ嫌いだった
んだ!」
テーブルの上のまんじゅうをひっくり
返す。
カナコ、母「…」
○式当日
カナコNA『こうして、父専用の小さな盃が
用意された。ていうか、父が持参した』
司会 「では皆さん、グラスを満たしましょ
う!」
カナコNA『ざわざわとした騒音の中。その
ちいさな一言を、私は聞き逃さなかった』
父 「かんぱい」
父は、ほんとうに嬉しそうに。
その姿を見て涙が出てくるカナコ。
カナコ「…乾杯」
コピー「人生はビールだ。
苦くて、うまい。」
サッポロ
※以下、「リレードラマ」となります。
主人公カナコの、別の日常。(別キャストでも出来るように「女」表記)
そしてこの中の誰かがまた別の話に出てくる、という迷路のような構造にすると面白くなると思います。
#2 「再会」(3分)
【登場人物】
女(28) 会社員。
元彼(30) 女の元彼。
○会社内、オフィス、廊下
立ち話であいさつしている面々。
相手会社チームの中に元彼(28)。
女(28)、気まずい。
女NA『元彼と、再会した。プライベートで
はなく、取引先のチームとしてだ』
○同、打ち合わせ室、夜
チームの打ち合わせは、夜まで続く。
女 「それは理解しますけど、本来のマー
ケティングとは違いますよ」
元彼 「より広い層に受けるほうがいいでし
ょう」
女NA『彼とは何度も何度も話した。仕事の
話を延々と』
○夜、居酒屋
そのまま全員で飲みに繰り出したあと。
すっかり終了モード。
おじさん1「じゃ明日もあるし、帰るわ」
おじさん2「じゃ私もこのタイミングで。会
計はもう済ましたんで」
みんな帰ってしまい、女と元彼が、二
人だけ取り残された形に。
二人 「…」
枝豆の残りでも食べながら。
女 「その後、元気でやってる?」
元彼 「…まあまあだね」
女 「…私、あなたの彼女となら親友にな
れそうな気がする。愚痴を聞けるもの」
元彼 「俺だってお前の彼氏とマブダチにな
れると思うよ。じゃ、次は4人で飲むか」
女 「…」
元彼 「?」
女 「実は、まだ一人だけどね」
元彼 「…実は、俺もだ」
女 「…」
元彼 「…」
女 「冗談として言ってみるけど、もう一
回つきあう?」
元彼 「冗談として言ってみるけど、ないね」
女 「そうだね。…決めたことだもんね」
元彼 「うん。…ないね」
枝豆が、なくなった。
元彼 「もう一杯だけ、ビール飲んで帰るか」
女 「あ。…うん」
元彼 「こんど飲むときは4人だからな。(店
員に)スイマセーン!」
女NA『その時の苦いビールの味を、私はい
つまでも覚えていた』
元彼 「じゃ最後に乾杯しよう!」
女NA『胸を張って彼に会うまで、それから
十年かかった』
コピー「人生はビールだ。
苦くて、うまい。」
サッポロ
#3「延長戦・男の場合」(3分)
【登場人物】
男(28) 芽の出ないボクサー。
トレーナー(48) 彼のトレーナー。
キャバ嬢(20)
○早朝、男の自室
4時半。目覚める男(28)。
着替えて、ランニングへ。
タイトル「延長戦・男の場合」
○早朝、河原
トレーナー(48)が自転車で待って
いる。走り出す二人。
男NA『若いうちに芽が出ないやつは引退だ、
最初にそう言われて5年がたった。芽の出
る種なんて、そもそも俺にあったのか』
○ジム内
片隅でサンドバッグを打ち続ける男。
ジムのスター選手が広い場所で練習し
ているのと対照的。
トレーナーが声をかける。
トレーナー「次の試合決まったぞ」
男 「今度こそ、楽な相手にしてください」
トレーナー「楽な試合なんてねえよ。全員必
死だから試合なんだろうが」
男 「(無言でサンドバッグを叩く)」
トレーナー「次負けたら、お前どうする?」
男の顔を覗き込む。
男、無言でサンドバッグを叩く。
○試合
ダウンする男。
トレーナー「バカヤロ! まだスタミナある
だろ! 走りこみは散々やっただろ!」
立ち上がる男。
ゴング。コーナーに帰ってくる。
男 「どうすかね判定」
トレーナー「駄目だろ!」
男 「…延長戦、ないですかね」
トレーナー「あるわけねえだろ!」
男 「…野球も、サッカーも、カラオケに
もあるのに」
○キャバクラ(残念会)
スタッフたちは騒いでいる。
顔の腫れた男は、ウーロン茶を静かに
飲んでいる。
キャバ嬢「お酒は?」
男 「(顔をさし、口癖のように)明日、腫
れちゃうから」
キャバ嬢「明日、何かあるの?」
男 「あるよ。…ある」
○早朝、河原
待っているトレーナー。
顔を腫らした男が来る。
男 「引退、しませんよ」
トレーナー「会長と賭けてた。俺の勝ちだ」
走りだす二人。
男 「勝ち組ってのは、勝つまでやった奴
のことを言うんだ」
トレーナー「ふん!(にやりと笑う)」
男NA『勝利の美酒は、最後の最後まで取っ
ておけ』
コピー「人生はビールだ。
苦くて、うまい。」
サッポロ
#4「延長戦・女の場合」(3分)
【登場人物】
女(28) 会社員。
彼氏(28) その彼氏。
上司(50)
○会社、オフィス
女(28)「まじですか! 私がやっていいん
ですね!」
上司(50)「時間なくて申し訳ないが、チャ
ンスだと思って」
女 「企画書のフォーマットでいいですか」
上司 「月曜にあると助かる」
女NA『くすぶっていた私にも、ようやく星
のめぐりが回ってきた。彼氏との晩御飯の
約束を思い出したのは、日が沈んでからだ』
窓の外はすっかり夕方に。
タイトル「延長戦・女の場合」
○夜、オフィス内と週末の町をカットバック
ケータイで彼氏に連絡を取る。
女 「ということで、遅メシでなんとかな
らないでしょうか」
週末の街を歩く彼氏。
彼氏 「えー? もう店予約しちゃったよ」
女 「すいませんそこはキャンセルで」
彼氏 「どうやって時間つぶすかな」
女 「映画でも見てて」
女、仕事に戻る。
しかし、企画書はぐちゃぐちゃで、煮
詰まっている。
× × ×
ケータイに出る彼女。
時間は夜11時を回っている。
女 「すいません。全然まとまりません」
彼氏は自室で料理をしている。
彼氏 「だろうと思ってさ。飯、俺がつくる
ことにしたわ。今夜は泊りにおいでよ」
女 「ありがとう。もうちょっとだけ、延
長戦の時間をください。ずっと前からやり
たかった仕事なの」
パソコンのモニタに戻る彼女。
しかし、やはり進まない。
○深夜のオフィス
もう誰も残っていない。女の席だけ電
気がついている。
メールする彼女。
メール「全然、終わりません。もう寝てくだ
さい。ほんとにごめんなさい」
何もかも終わっていない。
彼氏から電話。
女 「もう寝て。ごめんなさい」
彼氏 「きみの分のご飯は残しておいたよ」
女 「…明日何時に起きる?」
彼氏 「いつもと同じぐらい」
女 「じゃ、その時間にベッドにもぐりこ
むから」
彼氏 「そんなにかかるのかよ」
女 「…」
彼氏 「…?」
女 「…あと、ビールは、残ってるよね?」
彼氏 「朝から飲むのかよ」
女 「あなたとビールを飲むのが、今日の
終わりなの」
仕事に戻る彼女。
女NA『勝利の美酒は、最後の最後まで取っ
ておけ』
コピー「人生はビールだ。
苦くて、うまい。」
サッポロ
#5「師匠」(3分)
【登場人物】
男(28) 会社員。
上司(67) 男の引退した元上司。
○会社内、オフィス
ケータイで話す男。
男 「…分かりました。お世話になったん
ですよ。当然いきますよ。…ぶっちゃけて
ください。…もう、長くないんですか?」
○回想、新橋みたいな飲み屋街
何軒も上司のはしごに連れてかれる男。
男NA『新入社員時代、ほんとに朝まで何度
も飲まされた。吐いても吐いても飲まされ
た。クソ上司と当時は思ってた。でもその
ときに、大事なことを伝えようとしてたん
だと、何年もしてから分かった』
○病室
ベッドから起き上がった上司。
上司 「おう。懐かしいじゃないか。来てく
れるとは思わなかったよ」
男 「…ども」
すっかり毒気の抜けた上司。
会社の仲間たちの、合同見舞いである。
男NA『みんな気を使ってか、野球の話とか、
うまいものの話とか、天気の話とか、来年
の話をしていた』
おじさん1「じゃ、長居しても体に触ります
から」
おじさん2「また来ますよ」
上司 「今日は、ありがとう」
男は最後に部屋を出る。
が、一人だけ戻ってくる。
上司 「?」
男 「アンタは、そんな風に穏やかに笑う
人じゃなかった」
カバンから缶ビール二本を出す。
家族 「お医者さんからお酒は禁止されてて
…」
上司 「持ち込みも禁止だよ」
男 「相談したいことが、あるんです」
と、会社から仕事の書類を出す。(設計
図のような大きなものがよい)
上司「(目つきが変わる)…どこが問題だ?」
その変化に、家族がびっくりする。
男 「師匠に聞きたいことが、まだ山ほど
あるんです。一杯だけ付き合って下さい」
上司 「…今更、師匠呼ばわりか」
上司、立ち上がり、家族に、
上司 「看護婦に見つからないところへ行っ
てくる。うまくごまかしてくれ」
家族 「(男に)父は、会社ではいつもこん
な?」
男 「僕の師匠は、こっちの人です」
上司 「ふん(ほほえんで)。行こう。朝まで
は付き合えんぞ」
男 「そこはかいつまんで下さいよ」
上司 「うるせえ(笑)」
コピー「人生はビールだ。
苦くて、うまい。」
サッポロ
#6「ライバル」(3分)
【登場人物】
男1(40) 腹の出た、元甲子園球児。
男2(40) かつてのライバル。
○小さな野球用具店
タイトル「ライバル」
雑貨屋のスペースに、無理矢理野球用
具を置いてるような、庶民的な商店。
少年野球チームが群がって、店長の男
1(40)に今日の試合を報告してい
る。
少年1「コイツが練習通りにやらなかったん
だよ!」
少年2「練習通りにやらなかったのはコイツ
だよ!」
男1 「まあまあまあ。あれ? またメンバ
ー減ってねえか?」
少年1「…みんなゲームばっかしてんだよ」
男1 「野球はもう流行んないのかね。…ゲ
ームがライバルになるとは」
そこへ、酒屋のおっさんが。
酒屋 「おう。試合の場所、決まったぞ。向
こうから遠征してくれるってさ。はい、オ
ーダー表」
メンバー表を見た男1は驚く。
酒屋 「どうした?」
男1 「甲子園のときのライバルが、いる」
酒屋 「ライバル?」
男1 「予選の打率がたまたま同じでさ、ラ
イバル扱いされたんだ」
× × ×
回想、甲子園。
サードを守る男1(17)。ランナーの
男2(17)。牽制球で戻る。
アウトかセーフでもめる。
× × ×
男1 「あの三塁ベース以来だな」
○河原の草野球グランド
試合前の整列、礼。
相手チームに男2(40)。
男1と目を合わせるが、言葉は交わさ
ない。
× × ×
試合の展開中、男1の守る三塁に、ラ
ンナーとして男2が。
男1 「覚えてるか」
男2 「…メンバー表見て、びっくりしたよ」
男1 「オッサンになったなあ」
男2 「…(腹をさすりながら)お互いな」
男1 「甲子園のメンバーと、まだ会う?」
男2 「だいぶ会ってない」
男1 「人間には、二種類いるんだよ。すっ
ぱり足を洗う奴と、俺みたいにまだ野球に
関わってる奴」
男2 「…」
男1 「俺さ、野球用具店やってんだ。親父
の店改造してさ。子供たちにも教えてる。
お前は?」
男2 「ゲーム会社」
男1 「(嫌な顔に)んだよ、ライバルかよ」
男2 「ライバル、かね」
男1 「?」
男2 「つくってるのは、野球ゲームなんだ」
男1 「…」
男2 「ふふふ」
男1 「ははは」
そこへ牽制球が飛んでくる。
セーフかアウトかでまたもめる。
今度は笑いながら。
コピー「人生はビールだ。
苦くて、うまい。」
サッポロ
本格的な映画シナリオは、この何倍もの深さを連れてきますよ:
