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健やかでいようとする姿から、たくさんの智恵を教わる日々だった

別れはいつも突然です。母が利用している訪問看護の看護師さんが引退されました。

その看護師さんから学んだ智恵と、母の暮らしに根付いたことを紹介したいと思います。以降はNさんと書かせていただきます。




1.5本指靴下を履く


いつも5本指靴下を履いていたNさん。それを見ていて母も履きたいと言い出しました。普通の靴下も大変なのに履けるのだろうかと、はじめは複雑な気持ちで見ていました。

難しそうなのですが頑張っています。


手術後パンパンになった脚は
少しずつ良くなっています。

ゆっくり時間をかけて足の指を靴下を履く。何がそうさせるのかは分かりませんが、その一連もリハビリのひとつだと思うのです。




2.自主練ノートを書く


年を重ねると日々の努力が物を言うようになります。自主練がなかなか続かない…と呟いたときにNさんからのアドバイス。

運動したことを書いてみたら?と。

これが母に合っていたんです。
いそいそとSeriaにノートを買いに行きました。

形から入るのが大好きな人で。そして、いったん書くようになると、自主練をしないと寝られないようです。

母の自慢。意外とマメで、昔からメモ魔でした。

Nさんに見てもらうために書いているところもあるようです。たいしたことは出来ていませんが、毎日続いているとNさんはとても喜んでくれるので。

私がデイサービスで働いていた頃、いろんな方に見てもらっていました。利用者さんにも家で自主練してほしかったのですが、なかなかやってもらえません。ですが、このノートを見ると、少しやってみようという気になるようでした。

利用者さんやスタッフさんに「すごいね〜!」と言ってもらえるたびに母に伝えると、まんざらでもなさそうでした。



そんな自主練ノートは3冊めに突入。まだまだ書き続けたいようで、4冊めも用意してあります。



3.お豆とひき肉のカレーを食べる


好き嫌いが非常に多い母。実はNさんも肉が苦手だと打ち明けてくれました。

料理上手で、何でも自分で作ってしまうNさん。まさか嫌いなものがあるなんて。

そんな彼女が試してみたらと教えてくれたのが「お豆とひき肉のカレー」。

実は私も作ってみたかったのですが、保守的な母を前に踏み出せずにいました。肉が入ってたり味付けが気に入らないと食べないことも多いんです。

けれどNさんが言ってくれたのでチャンス!

気が変わらないうちに作ってみると、何の文句も言わず食べてくれました。


4.家族以外の存在がありがたかった


突然の転倒→骨折→手術→入院&リハビリ。入院中に要介護認定を受け、介護生活が始まりました。

退院したばかりの頃は全ての介護サービスを拒否。まだ60代で突然デイサービス行けなんて受け入れられるはずもありません。

ケアマネさんはこのままでは良くない…と訪問看護を提案。ケアマネさんとの面談時、母は何でも私に聞くという状況で。それを良くないと言ってくれる人がいなければ、自分では気づけなかった。

訪問看護ステーションの施設長と副施設長が挨拶に来てくれ、家族全員で面談となりました。その空気に飲まれたのか、最終的に母が折れました。

そして初日に来てくれた看護師さんがNさんでした。母より少し年下で母と同じく「人工股関節」でした。その点が非常に大きかった。

Nさんが帰ったあと

「あのひと正座してたよ😳」

当時は不安だらけの毎日で。リハビリが上手くいかないまま浦島太郎状態で退院していたんです。

母の顔が少し緩んだのを見て私も安心しました。お願いだから真似しないでと思いながら、希望の光が見えた気がしました。

やがて母はデイサービスに行くようになります。

理学療法士の〇さん、看護師の〇さん、送り迎えしてくれる〇さん。メモして、ひとりひとり名前を覚えていきました。

頼れる存在が増えてきました。もう私が全部背負わなくてもいい。私はひとつ、またひとつと肩の荷を下ろすことができていった。

あの頃を思い出すと今でも辛くなって泣きそうになる。誰にも頼ろうとしなかった母を、ひとりで背負うのは重すぎました。



5.もがきながら気づいた健やかさの秘訣


それから何人か担当看護師さんが変わりました。Nさんが担当に戻ってくれた時は嬉しかったし、引退すると聞いた時は寂しかった。

彼女を一言で形容するならば、健やかな人だった、という印象。

生まれ持った身体は健康ではなかったと聞いています。それが日々の努力によって、知識や健康習慣が血となり肉となった。よく動き、働き、工夫して、良く食べて、ケアして。

Nさんの習慣のうちのいくつかは母に根付き、母の頑張る姿がまた誰かに影響を与えて。地道に積み重ねた智恵の力強さを教わりました。

よくなる方へ導いてくれ、ときに伴走してくれました。

訪問看護だけでもデイサービスだけでもダメだったと、今は思っています。母自身にも家族にとっても、どちらも必要だったと。

かたくなだった母を変えたのが何だったのかは分かりません。新たな習慣を取り入れたことにも驚いています。頑固さや取り繕いに頭を悩ませることは多いですが、やわらかく受け入れる面もあるのだという気づき。

どんなに私が言っても聞かないけど、家族以外の言葉なら納得することもあります。頼る場所をたくさん持っておくことで、介護者の負担が本当に本当に減る。

だから、少しでも、ゆるい繋がりでもいい。
そういう人を、そういう場所を増やしていきたい。



お花好きだったNさん。
庭の花壇を楽しみにしてくれました。



「がんばってね。私もがんばるから」

そう言ってNさんは去りました。

健やかさの秘訣は天職に巡り会えたことだと思っていたけれど。

きっと引退しても変わらない。彼女に備わったいくつもの智恵は自分だけでなく周りの人をも健やかにしてくれる。

長く続けることも、新しいことを始める姿も素晴らしいと思うのです。何かに挑戦し続ける間、人は未来を見ていられるから。




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