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小説「観音子」二世の盃

◎二世の盃

夕刻前

傾城楼の外れの角に

落ちつきの無い所作の男がいる。

・・

しばらくすると、

楼の裏扉から、一人の女が現れた

女は、男の元へ向かう、、

男は口を開く

「おいおい、待ちわびたぜ観音子~
元気にしてたんかよ」

観音子はため息をつきながら、

「八十さん、、今日は何の用だい?」

「そりゃ~ねえぜ、観音子よ~
それよりお前、すげぇじゃねぇか
もはや看板張っちまうなんてよ、
御利益あるって、えらい噂になってるぞ」

「それより早く用を言いなさいよ八十さん、
こっちは忙しいんだからさ」

「まぁまぁ、急かせんなよ~」

八十吉は一度唾を呑み込む

「それでな、耳に挟んだんだが、
あの誠一朗のよ、
誠一朗の弟の連次朗のところに
ややこが産まれたんだってな」

「ややこが、、」

「それも男の子らしいぜ、
さぞかし寺のほうも喜んでるだろうよ
まぁ、、あんなことが、あったからな」

「八十さん、ちょいと待っててな!」

そう言うと、

観音子は楼へと引き返して行った

・・・

やや暫くの後、

観音子は小さな布包みを大事そうに抱え、
八十吉の元に戻ってきた。

「これな、八十さん。
連次朗さんのところに届けてもらいたいんよ」

包みを開くと、
そこに一対の盃と、文が添えてある。

「なんだ、盃じゃねぇか、、」

観音子は盃を愛おしく見つめながら、

「これな、誠一朗さんと初めてのときにね・・、あの時は、まだ酒も飲めなかったんだけど、空のまんまで・・
二人して・・・交わした盃なんよ」

「そ、それは良いことだよな
きっと、誠一朗も安心するだろうよ」

包みを八十吉に手渡すと、

観音子は

懐から、銭の入った袋をとり出した。

「くれぐれも、頼み申しましたよ、八十さん」

八十吉は嬉々として、

それを受けとると

「あたりめえだ!
間違いなく、届けるからよ、安心しな!
忙しいところ、済まんかったな
じゃあな!観音子、」

そう言うと八十吉は

足早に

去っていった。

・・・

しばらく歩いた後

先ほどの文が気になり、

包みから文をとり出して

中を見る

そこにはこう

記されていた。

‘’若君の無病息災
めでたく祈り参らせ候

誠一朗‘’

それを、

見た

八十吉は、

その文と

包みを手荒く懐に押し込め

悔み逃るるままに、、

酒屋の暖簾に

分け入ったのだった。

・・・


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