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「内緒だからな」 #せりふ三題噺

 真由子がおかしい。どこが、というと確信はもてないのだけど、今朝からなんとなくいつもと違う。

 卒業式まであと数日、ついに告白ができないまま約一年を過ごしてきた真由子のテンションは、昨日までは〝明らかに冷静ではなかったけれど精一杯に平静をよそおっていた〟のだ。
 でもその細かな、視線や、態度や、まとう何かが、違う。
「真由子。何かあった?」
私はとりあえずこう聞くしかなかった。
「ん? 何も?」
もしかして、計画を実行して、吹っ切れたとか……そんな感じでもないけどな。でも。
「ねえ、早朝に駐輪場で待ち伏せて第二ボタンもらうっていってたやつ、決行したとか?」
「第二ボタン……ああ」
どうしてかそっけない返事だ。昨日までの真由子なら、第二ボタンという言葉にひどく反応してキャーキャーするはずなのに。まさか、彼にひどいことをされて絶望のあまり感情が動かなくなったとか? そんなことあってほしくないけど。
「本当に、何かひどいことされたりとかしてない?」
「してないよ?」
「……私に言わなくてもいいから、誰かに相談して。ひとりで抱え込んじゃだめだよ」
「うん、なんか言ってることわかんないけど、ありがとう。何かあったら相談するから大丈夫だよ」
真由子がそう返事を返してくれたすぐ後に、その彼が教室に入ってきた。しかし真由子はまったく無関心を装っている。いや、まったく無関心である。
 もしや真由子は、彼のことを考えすぎて、おかしくなってしまったのか……なんて、変なことを考えてしまう。

 その日の帰り、私は真由子と一緒に学校を出た。私の真由子に対する違和感は拭えないままだったけど、だいたいにおいて真由子は真由子だった。一緒に過ごした記憶もあっていた。
「たい焼き食べよっか」
帰り道でよくたい焼きを買って食べていた私たちは、その日もいつものようにたい焼きを買った。真由子はあんバターをいつものように注文した。そしていつものように、背びれをかじって食べ始めた。真由子はやっぱり、真由子だ。
「理香子、珍しいね。だいたいチーズクリームなのに、今日は粒あん」
「えっ、うん、たまにはいいかなって」
「なんか理香子らしくないよね?」
「そ、そうかな……」
真由子は私をまじまじと見た。
「今朝からおかしなこと言ってるし。なんかさ、例えるならだけど、並行世界の理香子と入れ替わったみたい」
 私は粒あんのたい焼きをじっくり味わった。せっかく入れ替わってここの理香子として新しい人生を送れると思ったのに、自分の好物を食べたくらいでバレるなんて。このままでいることはできなさそうだ。こんな考えをめぐらせている私を、真由子は不審がって見つめている。しかたない、諦めるか。

 私は理香子の身体から抜け出すと、理香子の背中にしょぼしょぼとくっついていた本物の理香子を身体に戻してやった。理香子は自分が粒あんのたい焼きをかじっていることに驚き、プチパニックを起こしている。真由子は慌てながらも、今目の前にいるのが昨日までの理香子だと気づいて安堵している様子だ。

 私は並行世界の理香子である。真由子の推理は正解なのだ。そして私は元の世界が嫌になって、こちらで暮らそうと思ったのだ。だけど、この世界でも元の世界でも、そう簡単に、気づかれずに入れ替わることはできなさそうだ。
 私は入れ替わるために、この世界での理香子の友人である真由子を観察してきたつもりだったけど、間違って別の世界の真由子を見ていたのかもしれない。

 そのとき、真由子が私を見ていることに気づいて、ゾクッとした。私が見えているのか? すると、真由子の口が、私に向けて、こう言った。

「内緒だからな」


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