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「教えたのにできない」や「教育しても購入までたどり着かない」の前に、必要なこと


同じ言葉を、何度聞いてきただろう

「教えたのにできない。あいつはセンスがない」 「いい商品なのに買ってくれない。お客さんは見る目がない」

研修の現場でも、マーケティングの現場でも、私はこの種のセリフを何度も耳にしてきました。

立場も業界も違う人たちが、まったく同じ構造で、同じように相手のせいにしている。最初は偶然かと思っていたのですが、よく観察してみると、これはどうやら根っこでつながっている話なんです。

今日はその「根っこ」について、私が普段大切にしている考え方を、ゆっくり書いてみたいと思います。仕事を教える立場の方にも、何かを発信している立場の方にも、たぶん何かしら持ち帰ってもらえる話だと思います。

教えるということの基本

最近、パソコン研修の資料を作っています。受講者は初心者から中級者まで幅広く、AIツールも活用しながら、正直に言えば頭をひねって格闘しているところです。

「どこまで説明すればいいのか」「逆に説明しすぎても、相手は受け取りきれないんじゃないか」——そんなことを考えながら、ふと立ち止まりました。

そもそも、私は「教える」ということを、ちゃんとわかっているのだろうか、と。

そんなとき、いつも私の背中を支えてくれているのが、TWI-JI(Training Within Industry – Job Instruction、仕事の教え方)という考え方です。

70年以上前に生まれた、教え方の型

TWI-JIは、もともと第二次世界大戦中のアメリカで、未経験者を短期間で戦力化するために開発された研修プログラムです。戦後、日本の製造業にも導入され、いまも多くの現場で受け継がれています。

私が研修講師として現場に入るとき、まず立ち戻るのが、このTWI-JIの「四段階」です。

それは、習う準備をさせる、作業を説明する、やらせてみる、教えたあとをみる、というシンプルな流れ。

ただ、私が現場で何度も痛感してきたのは、この四段階のうち、もっとも軽視されているのが第一段階だということです。そして、これは仕事を教える話だけではなく、実はマーケティングの世界でもまったく同じ問題が起きている気がしています。——という話を、後半でしようと思います。

第一段階:習う準備をさせる ― ここを飛ばす人が、本当に多い

私は、教えるという行為は、キャッチボールにとても似ていると思っています。

キャッチボールをするとき、相手がこちらを見ていない状態でボールを投げても、当然ですが受け取ってもらえません。まず受け取れません。

だからこそ、最初にやるべきことは、「投げるよ」と声をかけて、相手が振り向いて、こちらを見て、構えてくれた——それを確認してから、ようやくボールを投げるんです。

TWI-JIの第一段階「習う準備をさせる」は、まさにこのことを言っています。

ところが、この一見簡単に見える行為を、軽視している人があまりにも多い。十分な説明も納得もないまま進めて、「教えたのにできない。あいつはセンスがない」と切り捨てる人を、私は何人も見てきました。

そういう人たちには、ある共通点があるように感じます。それは、「仕事を教える=罰を与えること」「自分が楽になるために押し付けること」——そんな発想がどこかにあるということ。無意識にそう思っているから、相手の準備を整えるという過程を、すっ飛ばしてしまうんですね。

仕事を教えるという行為は、相手の実力をプロデュースする仕事です。一人ひとりの力を引き出して、結果として組織全体の総合出力を大きくしていく——それが、教えるという行為の本当の意味だと、私は思っています。

「教えたら自分が楽になる」という発想で第一段階を飛ばしてしまう人は、たぶん視座が低いんです。教えることは、自分の負担を相手に押し付ける行為ではなく、相手の可能性を開いて、組織全体を一段引き上げる行為。この視点を持てるかどうかで、教え方の質はまったく変わってきます。

そして、考えてみてください。受け取る準備のできていない人にボールを投げ続けて、相手が取れなかったときに「お前はセンスがない」と言うのは、果たしてフェアでしょうか。

第一段階で拒否されたら、見直すべきは三つ

私はこの第一段階を丁寧に説明したときに、もし相手が拒否したとしたら、そこには三つの可能性があると思っています。

一つ目は、教える相手を選ぶ時点で間違えていた可能性。

二つ目は、タイミングが間違えていた可能性。

三つ目は、その相手の立場にふさわしくない業務だった可能性。

このどれにも該当していないのに、それでも拒否された——というケースは、実はそう多くありません。だから、もし第一段階でつまずいたら、相手を責める前に、自分の選択や判断を見直すほうが先なんだと思います。

そして、もしどれにも該当していないのに無理やり教えたとしても、それは長続きしません。本人の中に「これを学びたい」という納得がないまま進む学びは、根を張らないからです。

第一段階は、決して儀式ではありません。これから渡すものを、相手がちゃんと受け取れる土壌をつくる、もっとも大切な作業です。

第二段階:作業を説明する

第一段階で土台ができてはじめて、二番目の「作業を説明する」ステップに進めます。

ここでも気をつけたいのは、自分が伝えたい量を一気に流し込まないということ。相手のレベルに合わせた言葉づかい、相手が想像しやすい例え、相手の表情を見ながらの調整が必要になります。

TWI-JIでは、このステップで「主要なステップ」「急所」「急所の理由」をはっきり分けて伝えることが推奨されています。何をするか、どこに気をつけるか、なぜそこに気をつけるのか。この三つがそろって、はじめて納得して動けるようになるんですね。

私はよく、「相手の器を超えた量は注がない」と自分に言い聞かせています。教えたい気持ちが強いほど、つい盛りだくさんにしてしまうのですが、それは相手のためというより、自分の安心のためだったりします。

第三段階:やらせてみる ― 待つ覚悟を、自分に課す

三番目は、「やらせてみる」です。

これが、本当に難しいんです。失敗してほしくない気持ちが先に立って、つい先回りして手を出したくなります。本人が考え込んでいる数秒間が、教える側にとっては果てしなく長く感じられて、つい「こうやるんだよ」と答えを言ってしまいたくなる。

でも、その数秒の沈黙こそが、相手が自分の頭で考えている、いちばん大事な時間なんですよね。私はその時間を奪わないために、自分の中で「三呼吸待つ」というルールをつくっています。三呼吸のあいだ、口を挟まずに見守る。それだけで、相手がたどり着く答えの深さがまったく変わってきます。

ただし、ケガにつながる「ここだけは押さえておいてほしい急所」だけは、しっかり伝えておく。そのうえで、本人がうまくいかない部分も含めて、見守る覚悟を持つ。

TWI-JIでは、この段階で本人にやらせながら、「なぜそうするのか」を本人の口から説明してもらうことを大事にしています。手で覚えるだけではなく、頭でも理解しているかを確認するためです。

すべてを事前に教えきることは、たぶん不可能です。やってみて初めてわかることのほうが、圧倒的に多い。だから、やらせてみる勇気と、待つ覚悟の両方が必要なんだと思っています。

第四段階:教えたあとをみる ― 自己流の「良いズレ」と「悪いズレ」

そして最後、「教えたあとをみる」ことです。

人は慣れる生き物で、だんだん自己流が入ってきます。それは良い方向にも、よくない方向にも進みます。

私が現場で観察してきた限り、この自己流には二つのパターンがあります。

ひとつは、背景や目的が腹落ちしている人の自己流。この人たちの工夫は、基本の精神を保ったまま、状況に合わせて応用が効いていきます。むしろ、教えた側が「なるほど、その手があったか」と学ばせてもらえることもある。これは「良いズレ」です。

もうひとつは、表面の手順だけ覚えて、なぜそうするのかが理解できていない人の自己流。この人たちの工夫は、一見スマートに見えて、実は急所を外していることが多いんです。本人は良かれと思ってやっている。だからこそ、本人だけでは気づけない。これが「悪いズレ」です。

この二つを見分けるために、私は教えたあとも定期的に「なぜそうしているのか」を本人に語ってもらうようにしています。手の動きではなく、頭の中を確認するんです。

最初のうちは、大きなズレにつながらないポイントだけでも見続ける。目的の理解が深まってきたら、徐々に手を離していく。そうやって守破離の「守」を一緒に積み上げていく——これが、教える側の最終段階、とても大切な仕事だと思っています。

実は、これはマーケティングの話でもあります

ここまで読んでくださって、もし「うちの上司、第一段階を飛ばしてくるな……」と心当たりのある方がいたら、すこし視点を変えて、こんなことも考えてみてください。

冒頭でも触れたように、私は研修講師と同時にマーケティングに触れる機会が大変多いです。そして、この「第一段階を飛ばす問題」は、マーケティングの世界でもまったく同じ構造で起きているんです。

マーケティングには、よく「認知 → 教育 → 訴求」という流れがあると言われます。多くの失敗パターンは、真ん中の「教育」を飛ばして、認知からいきなり訴求してしまうことです。

知らない人にいきなり「買って!」と言っても、警戒されるだけ。これって、準備ができていない相手にいきなりボールを投げて、「なんで取れないの?」と言っているのと、本質的にはまったく同じなんですよね。

成功している発信者やブランドほど、この「教育」のフェーズを丁寧にやっています。情報を提供して、価値観を共有して、信頼を積み重ねて——「この人から買いたい」と思ってもらえる土壌をつくってから、はじめて訴求する。

そして仕事を教えるときの「習う準備をさせる」と、マーケティングの「教育」。呼び方は違えど、やっていることは同じです。相手が受け取れる準備を、こちらが先につくるということ。認知の次にやることはこれです。

「できない」「買ってくれない」のは、本当に相手のせいでしょうか

冒頭で挙げた、二つの言葉に戻ります。

「教えたのにできない。あいつはセンスがない」 「いい商品なのに買ってくれない。お客さんは見る目がない」

この二つの言葉、似ていませんか。

どちらも、第一段階——準備を整える、教育するというフェーズ——を飛ばしておきながら、結果が出ないことを相手のせいにしている構造です。

教えるという行為も、売るという行為も、相手を変える行為ではなく、相手が自然と変わっていける環境をつくる行為なんだと思います。だからこそ、まずは自分の準備、自分の姿勢から問い直していきたい——そんなふうに、私は考えています。

最後に、自分への小さな宣言

習う準備をさせる。作業を説明する。やらせてみる。教えたあとをみる。

たった四つのステップなのに、これがなかなか難しい。とくに最初の一つ目は、研修でも、マーケティングでも、ずっと磨き続けていける場所だと思っています。

もし今、誰かに何かを教える立場にいる方、何かを発信している立場にいる方がいたら、ぜひ「最初の準備」だけでも意識してみてください。それだけで、相手の受け取り方が、ふっと変わる瞬間があるはずです。


#TWI #仕事の教え方 #マーケティング #顧客教育

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