事故物件×心霊YouTuber×存在しない606号室──ホラー『505号室』第1話

あらすじ
心霊YouTubeチャンネル「A・Bチャンネル」を運営する亮と翼は、曰く付きの505号室で一夜の検証を開始する。
記録を重ねる中で、彼らは住人・秋山美咲の悲しい真実と、存在しない606号室に隠された恐るべき封印を知る。
恐怖の正体は霊ではなく、人の弱さに付け込む“何か”だった。
二人は記録を武器に封印を守り、忘れられた命の記憶を未来へ伝える決断を下す。
あらすじ3話まで(全18話)
第1話 事故物件
心霊YouTuber「A・Bチャンネル」の亮と翼は、管理人から紹介された事故物件505号室で一夜の検証を開始する。
最新機材を設置し配信を始めるが、部屋には説明できない冷気と違和感が漂い、視聴者も異変を感じ始める。
第2話 最初のノック
深夜、誰もいないはずの廊下から三度のノックが響く。
録音機材には不気味な声が残り、EMFメーターも異常な反応を示す。
視聴者のコメントには「廊下に誰かいる」と書き込まれ、恐怖が現実味を帯びていく。
第3話 最初の異変
505号室は一見普通の部屋だったが、不可解な物音やEMFの急上昇が続発する。配信コメントには「窓を見て」と警告が流れ、360度カメラには白いブラウス姿の女性が一瞬映り込むが、誰もその存在に気づかない。
· 「ここから先は本編で。全18章です」
登場人物
亮(りょう)
心霊YouTubeチャンネル「A・Bチャンネル」のメインレポーター。恐怖よりも真実を伝えることを信条とする。冷静さと行動力を兼ね備えた主人公。
翼(つばさ)
撮影・音響・機材分析を担当する相棒。科学的視点から心霊現象を検証する理論派であり、亮のブレーキ役でもある。
秋山美咲
505号室に暮らしていた若い女性。事故物件となった部屋に残された日記が、すべての事件の始まりとなる。
第一章 バズらせろ!
――ザザッ。
暗転した画面に、ノイズが走る。
イヤホン越しに聞こえるのは、誰かの浅い呼吸だけ。
やがて低く不気味なピアノの音が流れ始め、画面中央へ白い文字がゆっくり浮かび上がった。
『東京都内某所』
続いて、
『事故物件 505号室』
文字が消えた瞬間、ドローン映像へ切り替わる。
夕暮れに沈む五階建ての古い雑居ビル。
外壁は無数の亀裂に覆われ、割れた排水管がむき出しになっている。
周囲には営業を終えた店舗が並び、人影はほとんどない。
画面の端には撮影日時が表示される。
18:42
カメラはゆっくり五階へ寄っていく。
曇った窓ガラス。
その奥は真っ暗だった。
一瞬だけ。
窓の奥で何かが動いたように見えた。
ブラックアウト。
映画の予告編のような重低音が響く。
そして――。
「……はい、カット!」
スタッフの声で、一気に空気が変わった。
「亮、その表情やりすぎ!」
「え? 怖かった?」
「怖いというよりゾンビ(笑)」
現場に笑いが起こる。
相沢亮は頭をかきながら照れ笑いを浮かべた。
「サムネイルで目立とうと思ってさ」
「十分目立つって」
そのやり取りを、もう一台のカメラが撮影している。
これはメイン映像ではない。
撮影の裏側を記録するサブカメラだった。
YouTubeチャンネル『A・Bチャンネル』
登録者数六十二万人。
事故物件や廃墟、心霊スポットを専門に取材する人気チャンネルだ。
派手に怖がる亮と、冷静に分析する山口翼。
正反対の二人の掛け合いが、多くの視聴者に支持されていた。
しかし最近、その数字が伸び悩んでいた。
「よし。本番前に機材チェック」
翼がケースを開く。
中には整然と並んだ機材。
暗所撮影専用の高感度カメラ。
赤外線カメラ。
三百六十度カメラ。
ショットガンマイク。
ピンマイク。
ボイスレコーダー。
EMFメーター。
赤外線温度計。
予備バッテリーが八本。
「全部正常」
「今日はフル装備だな」
亮が苦笑する。
「コメント欄で『検証が甘い』って言われたから」
「だったら全部やる」
翼はEMFメーターの電源を入れる。
電子音が一度だけ鳴った。
「入室前に基準値を測る」
「温度」
「二十八・六度」
「電磁波」
「異常なし」
スタッフがメモを取っていく。
「救急セット」
「あります」
「ヘッドライト」
「全員装着」
「立入禁止区域」
「管理人さんから確認済み」
「避難経路」
「エレベーターと非常階段、両方確認」
亮は満足そうに頷いた。
「こういうところを映さないと、
『危険な真似をしている』って思われるからね」
「俺たちは心霊を撮りに来たのであって、事故を起こしに来たわけじゃない」
スタッフ全員が頷く。
そこへスマートフォンを見ていた翼が口を開いた。
「例のコメント、また増えてる」
亮が画面をのぞき込む。
《505号室だけは行くな》
《午前二時を越えるな》
《あそこだけは違う》
《帰ってこられなくなる》
亮は苦笑した。
「毎回こういうコメントあるよな」
「でも今回は異常に多い」
「バズるかな」
「そういう考え方が危ない」
翼は真顔だった。
「怖がらせる動画じゃなくて、本当に何かある場所かもしれない」
亮は少しだけ表情を引き締める。
「だからこそ、ちゃんと撮る」
その言葉にスタッフ全員が静かに頷いた。
その時だった。
翼がふとビルを見上げる。
五階。
505号室。
曇った窓。
誰もいないはずのそこに。
黒髪の女が立っていた。
「……亮」
「ん?」
「今、窓……」
亮も見上げる。
しかし、そこには夕焼けを映すガラスしかなかった。
「見間違いじゃない?」
「……そう、かな」
翼は答えなかった。
ただ無意識に、三百六十度カメラの録画ボタンを押していた。
その瞬間。
誰にも聞こえないほど小さな声が、
ショットガンマイクだけに記録されていた。
――「やっと……来てくれた」
その音声に、まだ誰も気付いていない。
第2話 最初のノック へ続く
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