「勝利の先にある評価―結果ではなく在り方がありがとうを生む―」
優勝したとき、一番心に残ったのはどんな出来事だったのか。かつてヨハン・クライフはそう問われ、「おめでとう」ではなく「ありがとう」と言われたことだと答えています。勝利とは、本来「おめでとう」と祝福されるものです。結果を出した者に向けられる、わかりやすい称賛の言葉です。しかしクライフの記憶に残ったのは、その言葉ではありませんでした。人の心を動かしたのは、勝ったという事実よりも、そこに至るまでの姿勢や貢献、そして誰かのために戦ったという在り方だったのでしょう。
「おめでとう」は結果に紐づく言葉です。勝てば与えられ、負ければ消えてしまう。ある意味で条件付きの評価だと言えます。極端な話、本心でなくても口にすることができる言葉でもあります。一方で「ありがとう」は、結果そのものよりも、関係性や過程、存在に向けて自然に生まれる言葉です。勝敗を超えて残ることもありますし、無理に引き出そうとして出てくるものでもありません。
目標は優勝で構いません。しかし、その目的が「自分が称賛されるため」にとどまっているか、「誰かへの恩返し」まで広がっているかで、逆境に直面したときの力の質は大きく変わります。苦しい局面で人を支えるのは、結果への執着よりも、「この努力は誰かのためになっている」という意味づけです。このことを私が資格を持つメンタルトレーニングSBT(スーパーブレイントレーニング)では「他喜力」と呼びます。他人を喜ばせたい、支えてくれる人に報いたいという思いは、精神論ではありません。心理学的に見ても、人は自分一人の成功より、誰かとのつながりや意味を感じられる目標を持ったとき、粘り強さと回復力を発揮します。逆境を越える本物のエネルギーは、自己中心的な欲求よりも、関係性の中から生まれます。
本物のチームやアスリートは、目標を成し遂げたとき、自然と周囲から「ありがとう」と言われます。それは狙って得られるものではありません。日々の準備、仲間への配慮、応援される立場としての自覚。その積み重ねの結果として、あとからついてくる言葉です。
「おめでとう」を目指すと、勝たなければ価値がない世界に入り込みます。「ありがとう」を目指すと、勝敗を超えて問われる在り方の世界に立つことになります。
どちらを目標に据えるかで、努力の質も、苦しさの意味も変わっていきます。結果を追いながらも、その先に誰の笑顔があるのかを忘れないこと。それが、長く戦い続ける人に共通する静かな強さなのだと思います。
目標を達成したとき、「おめでとう」と言われる自分である以上に、
「ありがとう」と言われる自分でありたい。その願いが、人を最後まで立たせ続ける力になるのだと思います。
