やわらかな光の中で、何も考えない時間を過ごした日
がん検診の日は、少しだけ特別だ。
いつも電車に乗って、少し遠くのクリニックまで向かう。
「痛くない」と評判のその場所へ、毎年なんとなく緊張しながら向かう時間も、もう慣れたものになってきた。
最近、そのクリニックの近くに新しいカフェができたらしい。
口コミを見ると、モーニングは、セットがとても人気でかなり混むとのこと。
しかもワンオペ営業らしく、待つことも多いみたいだった。
でも、ランチの時間は比較的ゆっくり過ごせるらしい。
せっかくだし、と思って立ち寄ってみた。
外観は、まるで小さなギャラリーみたいだった。
少しレトロで、でも洗練されていて、静かな存在感がある。
扉を開けると、店の中にはグランドピアノとオルガン。
やさしく揺れるハーブ。
壁際には、置き物として飾られたバイオリンやチェロ。
クラッシック音楽が流れているわけではないのに、
空間全体から静かでクラシカルな音を感じるような不思議な雰囲気だった。
吹き抜けの高い天井には、大きなファン。
窓から入るやわらかな日差しが、店の空気をゆっくり明るくしていた。
テーブルには、子どもが描いたようなドラえもんの落書き。
その無造作さが、妙にかわいかった。
本棚には古い外国の古書や小説がぎっしり並んでいて、
誰かが長い時間をかけて集めてきたものたちが、静かにそこに置かれている。
オーナーさんと少しお話をすると、
ご家族が建築や音楽に関わる仕事をされていたそうで、
この空間も、その想いを引き継いでいるのだと教えてくれた。
「好き」がちゃんと積み重なってできた場所なんだな、と思った。
忙しく過ぎる毎日の中で、
何かを“しなきゃ”ではなく、
ただぼんやり光を眺める時間って、案外少ない。
でも、その日は久しぶりに、何も考えずに過ごせた気がする。
少し遠いけれど、また行きたい。
今度は、もう少しゆっくり本棚を眺めながら。
