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【連載】第22話:ギリギリの綱渡り ~黒焦げの焼肉と、見えない壁~

ジャカルタから韓国へ。

久しぶりに吸い込む母国の空気は、なんだかとても重く感じられた。

夜遅くに到着したため疲労はピークに達しており、明日までは各自しっかりと休息を取り、その翌日に練習室で全員集合することにした。

泥のように眠り、久しぶりに立ち寄った練習室。

しかし、そこで待っていた男性アイドルメンバーたちの空気は、明らかに沈んでいた。

私がジャカルタに出張している間、残されて苦労したプロデューサーを労う意味も込め、少しでもこの重い雰囲気を変えようと、私は全員で食事に行くための焼肉屋を予約した。

彼らの気持ちは痛いほどわかっていた。

当面の目標であった「テレビ局の音楽番組」のステージに立てないという悔しさ。そして何より、先が見えない「未来への不透明感」が、彼らの足枷となっているのだ。

会食には、既存のデビュー組メンバーに加え、ずっと苦楽を共にしてきた3人の練習生も合流した。

重苦しい空気をまとうデビュー組とは対照的に、練習生の3人は無邪気で明るかった。実はつい最近、資金力のある私の知人から「この練習生3人だけで、一枚アルバムを作ってあげたい」というオファーがあった。しかし、何の脈絡もなく彼らだけを先にデビューさせれば、焦りを抱える既存メンバーとの関係が完全に崩壊してしまう。チーム全体のバランスと絆を守るため、私はそのありがたい提案を泣く泣く断っていた。

そんな裏事情を知る由もない無邪気な練習生たちを横目に、テーブルを包むのは重苦しい沈黙だけだった。網の上では、上質な肉が誰の箸も伸びないまま、黒焦げになって煙を上げていた。

その重い沈黙を破ったのは、グループのリーダーだった。

「代表……僕、もう辞めます」

「……そうか。つらかったよな。わかった、そうしよう」

私の口から出た言葉は、自分でも驚くほど淡々としていた。

実はジャカルタにいる時から、プロデューサーを通じて彼の精神的な限界については報告を受けており、ずっと心の準備をしていたのだ。だからこそ、私に大きな驚きはなかったし、引き留める大義名分もなかった。ただただ、冷静でなければならなかった。いや、冷酷に徹するしかなかったのかもしれない。

韓国のアイドル育成システムは、日本とは根本的に異なる。

練習生は会社から給料をもらうことはないが、逆にレッスン代を払うこともない。デビューに至るまでの莫大な育成費用、生活費、制作費の『100%』を、まずは会社側が全額負担する。

そしていざデビューが決まり正式な専属契約を結ぶ際、会社はそれまでの投資を回収するために「会社8:アーティスト2」といった、会社側に有利な条件で契約を結ぶのが一般的だ。しかし、これほど会社に有利な比率であっても、莫大な初期投資(損益分岐点)を回収して利益を出せる新人グループなど、ほんの一握りしか存在しない。

アイドルたちも年齢を重ねる。いつまでも夢だけを食べて生きていくことはできない。このまま続けても売れるのかという「未来への不確実性」が、彼の心を限界まで追い詰めていたのだろう。

結局、リーダーはこうしてグループを去ることになった。私は、残されたメンバーたちに向かって静かに口を開いた。

「俺には、お前たちを引き留める大義名分がない。だから、もし辞めたいと思うメンバーがいるなら、これからも正直に言ってくれ。お前たちの不安は理解しているつもりだ……その代わり、嘘だけはつかないでほしい」

少しの間の後、私はわざと明るい声を出した。

「さあ、食おう! 肉が全部焦げちまうぞ」

「今後の海外スケジュール、リーダー抜きでもお前たちでやれるか?」

「「「はい」」」

残されたメンバーたちは、真っ直ぐに私を見て頷いた。

「OK。じゃあ、今日は俺の顔色なんか気にせず、お腹いっぱい食べてくれ。……ダンビも、今回のジャカルタは本当にご苦労だった。ありがとう」

こうして、ほろ苦い会食は幕を閉じた。

翌日。悲しみに浸る暇もなく、私は中国ツアーのエージェント(室長)とのミーティングに向かった。

公演でのステージ時間、ビザ申請、ギャランティーについての最終協議。心配していたリーダーの不参加についても、関係者の室長がこちらの事情を深く理解し、了承してくれた。

その日の午後、残されたメンバーの中から新たにリーダーとなった子から、昨日重い雰囲気にしてしまったことへの謝罪と、最後まで全員で一生懸命やり遂げるという強い決意の電話があった。不幸中の幸いとは、まさにこのことだろう。中国公演までは約1ヶ月。準備をする時間は十分にある。

そうして男性グループの中国ツアーの準備が順調に進み始めた矢先、今度はインドネシアから「もう一度ダンビを招待して、番組で放送したい」という新たなオファーが舞い込んだ。

ありがたい話だが、今回は大きな問題があった。日程の都合上、私が中国へ出張に出た『3日後』に、ダンビが一人でインドネシアへ向かわなければならないスケジュールになってしまったのだ。

「行くかどうかの最終決定は、ダンビに任せる。私が中国へ出発する前までに確答をちょうだい」

そう伝えて、判断を彼女自身に委ねた。

もし彼女が行く決断をした場合、プロデューサーが空港まで同行して出国のアドバイスをし、スタイリストが現地で一人でも着回せるように全ての衣装をコーディネートして持たせる手はずは整えておいた。

息つく暇もない、怒涛の連続。そうして時間は無情にも過ぎていく。

本来であれば、私はちょうどこの時期から日本語学校に登録し、本格的に会話の勉強を始める予定だった。

ビジネスのためではない。

日本のフミコや娘と、もどかしい「言葉の壁」を取り払いたかったのだ。自分が日本語を上手に話すことよりも、彼女たちが話している言葉のニュアンスをそのまま「理解」し、日常の些細な感情を共有したかった。上手く意思疎通ができないことで、いつも心の中に申し訳なさと、見えない壁に対するフラストレーションが澱のように溜まっていたからだ。

しかし現実は残酷で、私は受講料を払って登録だけを済ませ、ただの一度も教室に足を踏み入れることはできなかった。

すれ違う時間、見えない壁、そして猛スピードで回り続けるK-POP業界の歯車。

私の人生は、いったいどこへ向かっているのだろうか。

(第23話へ続く…)

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