「アナログレコードって本当に音が良いの?」 〜 『関ジャム 完全燃 SHOW』 (テレビ朝日) の解説は本当か? (20)
●『関ジャム 完全燃 SHOW【視聴者からの音楽ギモンに答えます!教えて!
関ジャム先生!】』「アナログレコードって本当に音が良いの?」
(2019 年11月10日 放送)について感じたこと
※ このテーマについては『関ジャム 完全燃 SHOW【弾き語り・実はスゴ
イ楽器・音楽ギモン…特別編】』(2021 年 5月23日 放送)でも取り
上げられています
※ テレビ朝日系音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃 SHOW』は
2024 年 4月から番組名を『EIGHT-JAM』(エイトジャム)と改めて
放送を継続しています
<疑問> 20 kHz 以上の高音域が記録・再生できれば高品位(高忠実度)に
なるのでしょうか? [19]
コンパクトディスク(CD)初期に低品位なデジタル録音として槍玉に挙げられたのが、全盛期のジョージ・セル / クリーブランド管弦楽団 / モーツァルト:交響曲第 40 番(1967 年録音、アナログ・マスター)の弦楽器演奏であり、高品位なデジタル録音として評価されたのが、グレン・グールド/バッハ:ゴールトベルク(ゴルトベルク)変奏曲(1981 年録音、デジタル・マスター) のピアノ(打弦楽器。広義では打楽器)演奏であったのは、当時の技術水準を端的に示しています。
このグールド最晩年の名演には、バックアップ用のアナログ録音があり、アナログ・マスター編集版のコンパクトディスク(CD)も発売されています。デジタル録音、アナログ録音の音質比較をするのに好都合なタイトルの一つですから、機会があれば試聴してみることをお薦めします。
信号レベルが低下すると歪率が上昇するデジタル録音とは異なり、アナログ録音の歪率は信号レベルの強度に左右されず一定です。しかも、ノイズフロアよりも下のローレベルの音声信号も耳で判別することができます。これに対して、デジタル録音では、ノイズフロア以下の音声信号は原理的にデータが消失するため、音として判別することはできません。
デジタル録音はフルビット(16 bit = 65536 段階)では、十分な音量解像度を確保できますが、ビットレートが低下するにつれて(=音量が小さくなるにしたがって)音量解像度が不足するため、ローレベルの再現性(実効レベルの分解能)は低下します。デジタル録音は信号レベルが高くなるほど高品質になり、低くなるほど低品質になるのです。
コンパクトディスク(CD)でも Pre-Emphasis(プリエンファシス)がオプションとして用意されていることは、前述した通りですが、アナログ・マスターでプレスされることが多かった初期のコンパクトディスク(CD)では、アナログ音源の残留ノイズと AD コンバーターのノイズを減らすために利用されていました。Pre-Emphasis(プリエンファシス)すると信号レベルが小さい高音域の S/N 比は高くなり、全ての周波数帯域でデジタル化した音声信号の品質が向上します。
レコードの場合はアナログ・マスター(テープ)のヒスノイズに加えて、フォノグラフカートリッジのスタイラスチップ(針先)がマイクログルーヴ(微細音溝)をトレースする時に発生するスクラッチノイズ、ディスクの回転変動が原因のワウフラッタノイズ、モーターや軸受けなどで発生する低域振動に起因するノイズ、ピックアップされた微小信号を増幅する過程で発生するノイズなどが加算されます。また、アナログ・マスター(テープ)は転写が発生するため、その音声(ゴースト)が記録されたレコードも少なくありません。
これまで見てきたように、記録方式の原理的な特性の違いが、レコードとコンパクトディスク(CD)の音質を左右しているわけですが、一般にレコードのダイナミックレンジは 60 dB(最大で 75 dB 程度)、コンパクトディスク(CD) のダイナミックレンジは 98 dB あり、コンパクトディスク(CD) の方が圧倒的に広いとされています。しかし、98 dB というのは理論 Dレンジであり、額面通りの数値にはなりません。
これまで、レコードはコンパクトディスク(CD)と比較して、スペックで勝る要素はないと説明してきました。これは確かに事実ですが、真実であるとは言えません。物事を多角的な視点で見れば、異なる側面が露わになるということです。この点については、言及しておく必要があるでしょう。
オーディオ業界はコンパクトディスク(CD)を発売するに当たり、物理特性で圧倒的な優位に立てるように、ダイナミックレンジの測定方法を操作しています。レコードとコンパクトディスク(CD)のダイナミックレンジは単純に比較することができず、計算方法により結果は異なるからです。
判断基準が変われば、レコードのダイナミックレンジはコンパクトディスク(CD)よりも広くなります。実際の録音手法やノイズフロア以下の音声信号も判別可能である点などを考慮に入れて計算すると 100 dB をゆうに超えるのです。これは専門家の間では、常識的に理解されている形式知ですが、オーディオ業界では暗黙の了解になっています。
つまり、レコードはノイズは多いけれど、ダイナミックレンジは広く、コンパクトディスク(CD)はノイズは少ないけれど、相対的にダイナミックレンジは狭いということです。この真実がレコードの方が音質は優れていると感じる理由の1つになっています。コンパクトディスク(CD)の場合、ノイズフロア以下の符号化された音声信号は原理的に消滅することが、ディテールの再現性に悪影響を与えています。どれくらい丁寧に微小信号のディテールを拾えるかで音の印象は大きく変化します。それこそがハイエンドオーディオの存在価値が試される指標となっているのです。
フランス革命(1789 年 - 1795 年)前の旧制度(アンシャン・レジーム:身分制度社会)では、歴史は特権階級(王、貴族、聖職者)の支配を正当化する役割を担っており、平民が歴史を学ぶ機会はありませんでした。フランス革命(1789 年 - 1795 年)後、封建制度の廃止により法的な身分制度が解体されても、元貴族は平民が歴史を学ぶことを快く思いませんでした。第二次世界大戦(1939 年 - 1945 年)後、日本製の TV アニメ『ベルサイユのばら』(1979 年)がフランスで放送された当時でさえ、庶民がフランスの本当の歴史を知ってしまうと懸念するエスタブリッシュメントがいたのです。
フランス革命(1789年〜1795年)後のヨーロッパ社会では、支配階級(貴族)は平民が歴史を学ぶことに抵抗感や警戒心を抱いていました。歴史は、貴族の功績や支配の正当性を示す「教養」として支配階級に独占されてきたからです。平民が歴史(特に自国の政治の変遷や過去の革命)を学ぶことは、貴族による支配が不変ではないことを知る機会となり、自らの特権や優位性を脅かす要因になると見做されました。封建的な特権がなくなった後も、教育(歴史)を通じて「貴族の教養」を平民から遠ざけ、自らの優位性を維持しようとする意識が働いていたのです。
2024 年パリオリンピックの開会式におけるマリー・アントワネットの演出は、歴史的な神話をメタルバンドの演奏と融合させたものでした。コンシェルジュリー牢獄を舞台に、自らの生首を抱えて歌う姿は、フランス革命の衝撃とアンシャン・レジーム(旧制度)の崩壊を視覚化したもので、国内外で大きな賛否両論を呼びました。
この演出は、財政赤字の中での浪費やスキャンダル(首飾り事件)で王政の権威を失墜させたオーストリア女(L'Autrichienne)というイメージ、フランス革命の主因となったアンシャン・レジーム(旧制度)の悪弊を象徴する人物という歴史認識を背景にしています。王妃の処刑はフランス革命が王政から共和政へ転換する象徴的な出来事として、現在もフランスの歴史物語において重要な役割を果たしています。フランス革命の根本的な原因はフランスの社会・財政構造にあったのに、19 世紀を通じて形成された「王の臣民」が「共和国の市民」となる、支配層(貴族や元貴族)にとって都合の良い共和主義の物語がフランスの公教育では教えられているのです。
これと同じことで、不都合な真実は知らせないのが支配層の論理です。
100 dB という数値は、ダイナミックレンジ圧縮伸長方式のノイズリダクションシステムである dbx を使用して、アナログ・レコーダーで録音・再生するのと同等です。カセットテープで録音・再生をする場合に標準化していた、民生用のノイズリダクションシステム Dolby B Type のダイナミックレンジは 62 dB、Dolby C Type は 72 dB、dbx は 100 dB 以上です。
カセットテープ(IEC Type I:ノーマルポジション)のダイナミックレンジは 52 dB くらいしかありません。レコードからダビングするとしても力不足でしたから、いわゆるウォークマン(携帯型再生プレーヤー)からカーステレオに至るまで Dolby B Type が標準装備されていました。もちろん、こうしたノイズリダクションシステムを使用するとブリージングが発生するなど、ある程度の音質劣化は避けられません。
このようにパッケージメディアのダイナミックレンジは 60〜100 dB 程度あるわけですが、ポップス録音では、音圧レベルを重視して、ダイナミックレンジを極端に圧縮しています。とりわけ旧音源のリマスタリングでは、音圧レベルを上げるためにダイナミックレンジを圧縮しているのが実状であり、リマスタリングされる度にダイナミックレンジは狭くなっていきます。レコードのカッティング時にも、音量を上げると同時に、振幅を抑えて記録時間を確保したり、カッティングを容易にする目的でダイナミックレンジを圧縮しています。
放送業界では、アナログ放送の時代からダイナミックレンジが広い音源は嫌煙されてきました。サチュレーション(過変調)の原因となり、放送事故につながるからです。現在、デジタルテレビ放送は 20.25 kHz 以上の周波数帯域をカットオフしており(本番組が放送されている「テレビ朝日」の地上デジタルテレビ放送は 18 kHz 以上の帯域をカットオフしています)、小型の受信機でも聞き取りやすいように、一律にダイナミックレンジを規正(40 dB 以下に圧縮するのが一般的)しています。
したがって、デジタルテレビ放送で音楽を聴く限り、プログラムソース(和声英語:program + source、再生音源の総称)が、(1)レコード、(2)コンパクトディスク(CD)、(3)ハイレゾ音源のいずれであっても、音質に大差はありません。最終的に放送方式の標準規格によって規正されるからです。
テレビ朝日の地上デジタルテレビ放送では、一般的なストリーミングサービスの最高音質よりも低品質な AAC-LC(48 kHz / 192 kbps / カットオフ周波数:18 kHz)で送出しており、ダイナミックレンジを 40 dB 以下に規正しているとすれば、レコード(60 dB)よりも狭くなります。
本番組では、放送を通じて視聴者にレコードとコンパクトディスク(CD)の音質を比較試聴させていますが、この条件下において、客観的で公平な評価は可能でしょうか。マスター音源の音楽情報を過不足なく、全て再生できるオーディオ・イクイップメントで比較試聴しなければ、プログラムソースの音質を相対評価することは難しいでしょう。
ユーザーサイドの現状を直視すると、20 kHz 以上の周波数特性を理由として、コンパクトディスク(CD)の音質に不満を漏らすユーザーの方は、そもそも可聴周波数帯域(20 Hz〜20,000 Hz)をフラットに再生できるオーディオ・イクイップメントで評価されているのでしょうか。
(1)伝送系のインピーダンスは適正ですか。(2)再生音の位相は正確ですか。(3)タイムアライメントは適正に調整されていますか。(4)ルームアコースティックは定在波(とりわけ 100 Hz 付近)の悪影響を受けていませんか。(5)空間容量に対して、スピーカーシステム <=> リスナー間の高さ・距離が適切な範囲内に収まっていますか。(6)スピーカーシステムの放射パターンは球面波ですか。(7)実効レベルの分解能は担保されていますか。(8)音の強さを一定に保ったまま周波数を変化させると、ラウドネス(聴感上の音の大きさ)も大きく変化することを理解しておられますか。再生音量を定めること、それ自体が高忠実度なプレイバックを実現するためには、決定的に重要な要件となります。
デジタル・イクイップメントは販売価格が1万円以下のローエンドのモデルから 100 万円を超えるようなハイエンドのモデルまで静的なスペック(カタログスペック)は基本的に同じです。ダイソー(100 円ショップ)が 500 円で販売している「ミリウォッチ(ムーブメント:SEIKO PC21S、非防水仕様)」の時間精度が実用上はフラッグシップモデルの Grand Seiko に引けを取らないのと同じことです。
しかし、低性能なデジタル・イクイップメントで再生すると、コンパクトディスク(CD)に記録された微小な音楽信号の多くは消失して、初めから無かったことになります。静的なスペック(カタログスペック)でデジタル・イクイップメントの真価は判断できません。
その一方でレコードプレーヤーのような機構設計の道具は、組み合わせるフォノグラフカートリッジ、トーンアーム、昇圧トランス、ヘッドアンプなど信号系のイクイップメントの特性や相性により音質が左右されますし、適正なセッティング(初期設定)をすることは勿論のことですが、投入された物量や加工精度、メンテナンスの状態、設置場所の物理的条件(建物の構造設計、温度・湿度など)で再生品質が決まります。
昨今のレコードブームで濫造されている、安価なレコードプレーヤーを IKEA(イケア)やニトリで販売されている、一般的なラック、シェルフなどに設置しても、それなりの再生品質しか得られません。メカニカルアースが適切に取れない、構造体強度が低い家具の上に設置すること、それ自体が音質劣化の主要な原因になります。ハウリングに対して脆弱な構造設計の安価なレコードプレーヤーを不安定な場所に設置すると音質劣化を招くのです。
(1)高級機+構造体強度が低い設置台の組み合わせと、(2)中級機+構造体強度が高い設置台の組み合わせでは、後者の方が高音質になることが推察されます。適正なセッティング(初期設定)とメカニカルアースは音質を左右する重要な要素なのです。
アナログ・オーディオでは、レコードプレーヤーの性能でオーディオシステム全体の再生品質が決まると言っても過言ではありません。また、レコードプレーヤー本体よりも専用ラックの方が高価であることも珍しくありません。レコードプレーヤーの配置や設置方法を吟味することは、オーディオシステムの音質を決める基礎的条件です。アナログ・オーディオ全盛期には、家屋の床面をぶち抜いて、建築物の基礎から打ち上げたコンクリート製の専用台を設けてメカニカルアースを取り、本格的なハウリング対策を施すことも珍しいことではありませんでした。
極端な例ですが、同じ着物でもカジュアルウェアの「木綿の浴衣」(元々はバスローブ)とフォーマルウェアの「丹後ちりめんの京友禅」では、その成り立ちや製法、役割が全く異なるように、販売価格が1万円の入門機と 100 万円の高級機では、再生品質に大変な格差があります。レコードプレーヤーのような構造設計、機構設計の装置は投入された物量の違いが品質格差を生むため、材料を1つケチるだけで再生品質に大きな影響を及ぼすのです。
「京の着倒れ」は論外ですが、正しい着付け方を知らない人が着物を纏う(まとう)のは無理があるように、レコードで一定水準以上の再生品質を確保するためには、ある程度の投資と正しい取扱が必要になります。昔から「西の西陣、東の桐生」と伝えられていますが、1000 年以上の歴史がある「桐生織」でも高級織物から平素の服飾品まであるのですから、モノ選びには細心の注意を払わなければなりません。

TV アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 公式サイト
ヴァイオレット・エヴァーガーデン(Violet Evergarden)
CV:石川 由依(いしかわ ゆい)
… 元少年兵の少女。元孤児で「自閉症スペクトラム障害(ASD)」
の特徴を示しており、戦争の道具として利用されて、戦闘で人を殺め
たことにより「複雑性 PTSD」を発症している。戦後は C.H 郵便社で
「自動手記人形(ドール)」として代筆業(主に手紙の代筆)に携わ
る。クライアントの個人的な事情を知り、情理を尽くすことで感情の
合理性を学び、愛の価値を理解して、人間性を回復していく成長物語
の主人公である
「レコードは 20 kHz 以上の高音域が記録されているから、コンパクトディスク(CD)よりも高音質である。」といった、どこかで聞いてきたような理屈を持ち出す方は、レコードの本当の音質も知らずに、コンパクトディスク(CD)は音質が悪いと断定的な主張をされることが多いように見受けられます。きちんと再生された高品質なコンパクトディスク(CD)のサウンドは、名ばかりのハイレゾ音源よりも遥かに高音質です。そして、きちんと再生されたレコードの音質は、驚くほどコンパクトディスク(CD)の音質に近似しているというのが真実です。
レコードの再生音はソフト&メロウなレトロサウンドであると認識されている方は、マイクログルーブ(音溝)の底から音声情報を全て抉り出したかのような、鮮度の高いプレイバックを聴かれたことがないのです。もちろん、これはレコードの録音品質が高いことが前提条件になります。最近では、デジタルとは異なるサウンドを求めるユーザー層に忖度(そんたく)して、あえてレトロなサウンドになるように古いやり方でカッティングした最新プレスのレコードもありますので、注意する必要があります。
”昭和レトロ” な「音楽喫茶」に赴き、パーツの品質劣化で初期性能を発揮できないヴィンテージ・オーディオで再生された音を聴いて、レコードの音質はこんなものか?と思われているとしたら、それは大変な誤解です。
中古オーディオの販売業者は修理業者にメンテナンスさせた 50 年落ちのオーディオ機器を「銘機」として、法外な値段で販売していますが、工場出荷時の初期性能、音質を維持できているのか疑問です。製造終了品の純正パーツを入手することは困難であり、デッドストックの純正パーツを入手できたとしても、経時変化による品質劣化は避けられません。
現在、入手可能なパーツで修理をすれば、規格(仕様)の違いを克服するために、設計変更を伴う改造をして機能を回復させるより他に方法はありません。この場合、「機能の回復=音が出る」ということであり、工場出荷時の音質を取り戻せるわけではありません。
製造元で旧車を入念にフルレストアしても、車体強度やエンジン出力が工場出荷時のスペックに戻ることはないように、パーツの寿命が尽きて、経時変化でハンダ溶接にクラックが入った歴史的「銘機」を改造・修理したとしても、それはリサイクル品に過ぎないのです。ヴィンテージ・オーディオは産業遺産であり、好きな人にはお金に換算できない価値(骨董品の扱い)が認められますが、一般の工業製品として見れば、経時変化で劣化した中古品です。
通常、製造メーカーが修理を受付けるのは、補修用パーツ(製造時に使用したパーツ)が一般的なルートで入手できる場合に限られます。同一規格であっても、パーツがバージョンアップして型番が変わると修理不可になります。その理由は、設計・製造時に採用されたパーツで検査・性能保証をしているからです。アフターマーケットの修理専門業者が存在し得るのは、保証対象外のパーツ(社外品など)で修理することが可能であり、製造元と同等の性能保証をする責務がないからです。
近年の ”昭和レトロ” ブームで注目されている写真についても言及しておくべきことがあります。フィルムカメラで撮影した、アウトフォーカスが甘くて、コントラスト(明度の差)が弱い写真を ”昭和レトロ” 感があると持て囃しますが、”昭和レトロ” が昭和中期(1950 年代~1980 年代)の日本の文化、デザイン、ライフスタイルを指しているのだとしても、昭和時代は 20 世紀の大半を占める長期間です。戦前と戦後では、時代感覚も世相も異なります。
第二次世界大戦(1939 年 - 1945 年)後、東西冷戦下の「ブロック経済」で経済大国となった日本は「総中流意識」に支配された平和ボケの時代を迎えます。高度経済成長期(1955 年 - 1973 年)にいわゆる「新人類世代」が登場すると、第二次世界大戦(1939 年 - 1945 年)で日本が米国と戦火を交えたことさえ知らない大学生が現れるようになり、歴史認識は分断されて、戦前の日本人気質から大きく乖離していきます。
湾岸戦争(1990 年 8月2日 - 1991 年 3月3日)当時、国連安保理決議により編成された多国籍軍に参加する欧米各国が自粛ムードに包まれたのに対して、多額の戦費は負担しても、憲法上の制約から多国籍軍に参加しなかった日本は「バブル景気」(1986 年12月 - 1991年 2月)の最中にありました。深夜の六本木では Porsche(ポルシェ)や Ferrari(フェラーリ)の爆音が鳴り響き、路肩には BMW 3 シリーズのコンパクトセダン(E30型、通称:六本木のカローラ)が所狭しと並んでいたのです。
※ BMW 3 SERIES E30型(2 代目 E30, 1982 年 - 1994 年)は、セダンが
最も輝いていた 1980 年代〜1990 年代初頭のバブル期を象徴する名
車。放送作家で脚本家の 小山薫堂(こやま くんどう、1964 年 -)氏が
「オートモビルカウンシル 2025」に出展された BMW 320i カブリオレ
(89 年式、E30型)を気に入り購入されましたが、山下達郎『Sync of
Summer』(キリン 午後の紅茶 CM ソング、2023 年)の MV でカップ
ルを乗せて海岸線を走る4ドアセダンがまさにそれである
今日、マスコミ報道で繰り返し伝えられる、ジュリアナ扇子(通称:ジュリ扇)を片手にお立ち台でワンレングス(ワンレン)+ボディコンシャス(ボディコン)+ハイヒールのイケイケギャルが踊るディスコの風景は昭和時代の一面の真実を表しているのに過ぎません。
孤立主義的な外交政策を採る日本は「金は出しても血は流さない経済大国」と諸外国から強く非難されました。しかし、その実態は使用期限が迫る大量の武器弾薬を砂漠に撒いて、日本が負担した莫大な戦費(90 億ドル:日本円で1兆1,700 億円)で米軍が装備品を更新するものでした。このやり方は現在も変わらず、米国はウクライナに古い兵器を無償供与して、対ウクライナ支援予算で兵器を新調していますが、湾岸戦争当時は同盟国である日本がその肩代わりをしたのです。
お金で問題を解決する政治判断が下された時代背景には、日本の高度経済成長期(1955 年 - 1973 年)から生じた貿易摩擦があります。
1965 年以後日米間の貿易収支が逆転して、米国の対日貿易が恒常的に赤字になると「日米貿易摩擦」と呼ばれる軋轢(あつれき)が生じます。日本から繊維製品(1960 年代)、鉄鋼・カラーテレビ(1970 年代)、自動車(1980 年代)が米国に大量に輸出されるようになると、米国では工場の国外移転による製造業の空洞化が進み、産業基盤は弱体化、雇用も衰退して深刻な問題になりました。その一方で日本市場は農産物(米・牛肉・オレンジ)の輸入を規制、投資・金融・サービス市場も閉鎖的で米国企業は参入できないと批判され、ジャパン・バッシングが起きるようになったのです。
経済摩擦はハイテク分野にも及び、人工衛星や F-2 支援戦闘機の独自開発が阻止され、半導体・コンピュータ分野でも知的財産権を巡る紛争があり、「日米半導体摩擦」で日米半導体協定(1986 年)が締結されました。この協定により 1981 年(昭和 56 年)には半導体市場で 70 % のシェアを占めていた日本の半導体産業は 1990 年代に入ると急速に国際競争力を失いました。
その後、日系メーカーが半導体メモリーの製造技術を1から教えた韓国のサムスン電子がパソコンの普及期に安価で低品質な半導体メモリーを大量生産することで業績を伸ばし(日系メーカーは高品質で耐久性が高いメインフレーム用の半導体メモリーを製造していた)、専業ファンドリー(foundry)で技術を磨いた台湾の TSMC(台湾積体電路製造)などが台頭してきたことはご存知の通りです。
1987 年には、日本のパソコン、カラーテレビなどに 100 % の制裁関税が賦課されました。国産 OS を開発する TRON(トロン)プロジェクト(1984 年 -)に対しても圧力が加わり、日本では米国製の Windows OS が普及することになります。米国は自国の OS を採用しないのなら、日本のコンピューター製造企業(富士通など)が IBM 互換機で商売をすることは許さないとディールを迫ったのです。米国では産業保護のため国内生産を増やす経済構造の改善が進められ、日本の自動車メーカーは現地生産により雇用維持に貢献することが求められました。
TRON PROJECT https://www.tron.org/ja/tron-project/
日本に円高を強いるプラザ合意(1985 年)により、ドル安・円高に誘導することで、為替レートを調整して米国の貿易赤字削減を目指しましたが、それでも日本の貿易黒字・経常黒字は 1986 年 〜1988 年にかけて増加、急速な円高と低金利政策が「バブル景気」(1986 年12月 - 1991 年 2月)を誘発しました。
第二次世界大戦(1939 年 - 1945 年)の敗戦国である日本は、未だに国連の非常任理事国であり、中国や北朝鮮の核の脅威を抑止する核武装は許されていません。また、国連やユネスコの莫大な分担金(数十兆円)を負担しているのにも拘わらず、敵国条項は削除されず、敗戦国扱いを受けています。1990 年の湾岸危機を契機として、人的貢献の必要性が問われた結果、日本が国連平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)に参加を開始したのは 1992 年以降のことです。
※ 日本とドイツは 1995 年の国連総会で旧敵国条項を憲章から削除する決
議案を提出して、賛成多数で採択されたが、削除に必要な国連憲章改正
の手続きは取られていない。署名した条約を国家が批准するか否かは各
国の自由であり、法的拘束力はないからだ
米国連邦議会上下両院合同会議における岸田内閣総理大臣演説(2024 年 4月12日)で「皆様、日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています。米国は独りではありません。日本は米国と共にあります。」と述べるに至るまでには、長い年月をかけた変革が必要でした(時宜を得た演説か否かは別問題ですが)。
日本と米国の関係は、人質開放とハマス壊滅を目標としてパレスチナ自治区ガザ地区に軍事侵攻し、数多のパレスチナ難民を犠牲にしても領土的野心を捨てようとはしないイスラエルに対して、歴史的経緯から強く出ることができないドイツ連邦共和国と同じような構図にあることは、ご存知の通りです。第二次世界大戦(1939 年 - 1945 年)の敗戦国である日本はアメリカ合衆国の「51番目の州」と揶揄されることも少なくありません。
Donald John Trump(ドナルド・ジョン・トランプ、1946 年 -、第 45 代、第 47 代アメリカ合衆国大統領)氏が描く世界観は中華人民共和国とそれ以外の地域ブロックに分断された世界で自国の利益を優先した新重商主義経済を主軸とする政策を実施することです。唯一の超大国であった米国が強大な軍事力を背景として、自由主義経済圏を維持するグローバリズムは潮目が変わりました。米国の仮想敵国はロシアではなく、近い将来、軍事予算で米国を超える中華人民共和国であり、これに全面対抗するためウクライナ紛争の終結を急いでいるのです。
そもそも、ロシアによる軍事侵攻を誘引したのは、George Walker Bush(ジョージ・ウォーカー・ブッシュ、1946 年 -、第 43 第アメリカ合衆国大統領)政権がこの地域の歴史的背景を無視してウクライナを NATO(北大西洋条約機構)に加盟させる外交方針を定めたことです。
米国はこの方針を堅持。Barack Hussein Obama II(バラク・フセイン・オバマ2世、1961 年 -、第 44 代アメリカ合衆国大統領)政権は 2014 年にクーデターを主導して、親ロシアのウクライナ大統領を追放させました。これに対して、ロシアはウクライナ南部クリミア半島を併合したのです。
西側は 2015 年にミンスク2(ミンスク合意の実施のための処置パッケージ)を締結して、東部ウクライナ(250 年間に渡り 1,200 万人のロシア系ウクライナ人が定住する入植地。通称 ”新ロシア”)の自治権を認めることでVladimir Vladimirovich Putin(ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン、1952 年 -、第2代、第4代ロシア連邦大統領)を懐柔し、時間稼ぎをする間に英・米の武器弾薬をウクライナ国内に持ち込み、軍事訓練を施してロシアに対抗し得る軍事力を持たせようと画策しました。
ロシア帝国の復活(ベラルーシ、ウクライナはロシアの一部と考える「大ロシア主義」の復活)を目指す ”プーチニズム” の行き着く先がウクライナ全面侵攻であるのは当然の帰結です。米国の国力が弱まり、新重商主義経済へシフトする中で軍事や経済の安全保障を米国(同盟国)に依存する我が国は自立を模索する必要があります。岸田内閣総理大臣(当時)が米国連邦議会における演説で耳障りが良い話をするばかりで、台湾有事には言及できなかった現実を直視しなければなりません。
閑話休題。低コントラスト(低彩度)で柔らかい描写の写真が撮影されていたのは、昭和の前半くらいまでの時期です。ネオパン F(低感度フィルム)で撮影、月光(印画紙)に焼き付けした写真などは、粒子が細かくて見えないくらい、非常に滑らかなグラデーション(階調)を実現していました。裏を返せばコントラストが弱い写真であったわけです。
1960 年代初頭くらいの時期までは、階調が豊かな(=コントラストが弱い)写真が一般的でしたが、昭和の後半になるほど、階調が貧しい(=コントラストが強い)写真になっていきます。低コントラスト(軟調)から高コントラスト(硬調)へというトレンドは、第二次世界大戦(1939 年 - 1945 年)後、一貫して続きました。フィルムカメラで撮影された高コントラスト(硬調)な写真は、デジタルカメラで撮影された写真と比較してもグラデーション(階調)に大差がありません。
フィルムカメラで撮影しているから、低コントラスト(軟調)な描写になるわけではなく、機材・フィルム・印画紙を適切に選択して、適正露出で撮影、現像・焼き付け時間を厳密に管理しないから、低コントラスト(軟調)になるのです。フィルムカメラによる撮影でも、高コントラスト(硬調)な描写にすることは難しくありません。例えば、1980 年代〜1990 年代にフィルムカメラで撮影されたアイドルタレントのグラビア写真をご覧になれば、一目瞭然であろうかと思います。
ただし、昭和時代の物撮りは、全面にピントを合わせるのが原則で、現在のようにアウトフォーカスをぼかす撮影方法は NG でした。現在、見ることができるコントラストが高くて、全面にピントが合っている写真はマイクロフォーサーズシステム(Micro Four Thirds System)を採用したデジタルカメラで撮影されているか、古い写真であることが多いです。
また、ミニラボで現像・プリントしてもらうと高コントラスト(硬調)の写真に仕上がるのが普通です。フィルムカメラの全盛期には、写真コンクールの上位入賞者(ハイアマチュア)がフィルム現像、印画紙への焼き付けをIMAGICA(イマジカ)や写真弘社といったプロラボに外注することも、一般的に行われていました。
テレビ朝日『グッド!モーニング』(2023 年 4月20日放送)では、リサイクルショップの「BOOKOFF SUPER BAZAAR PAPA上尾店」が紹介されていました。番組のコーナーでは、当該店舗の従業員が販売中の二眼レフカメラには「ライト」が付属すると説明していましたが、どうやら「閃光器」と「定常光ライト」の区別がつかないようでした。
1970 年代にフィルムカメラにストロボが内蔵されるまで、人口光源による補助光は「閃光器」で得ることが一般的でした。使い捨てのフラッシュバルブ(Flashbulb:閃光電球)を装着して、シンクロケーブルでメカニカルシャッターと同期させる「閃光器」は、フラッシュバルブ(Flashbulb:閃光電球)に封入された発光材(金属製の線材)を瞬時に燃やすことで、フィルムの露光に必要な「瞬間光」を得る機材であり、デジタルカメラに付属するエレクトロニックフラッシュ(ストロボ)と機能的に違いはありません。
この従業員は商品知識が乏しく、現行製品のストロボと撮影用 LED ライトくらいしかご存じないのでしょう。コーナーの最後には、中古レコードの在庫数が多いことをアピールしていましたが、「閃光器」と「定常光ライト」の区別が付かないレベルの販売員が担当しているのだとすれば、レコードの正しい取り扱い方法もご存じないかも知れません。
