現時点で TV 録画サーバーを構築する意義はどこに存在するのか? (3)
4K 放送(4K テレビ)の画面が暗いのはどうしてなのか?
民放キー局系の BS 5 局(BS 日テレ、BS 朝日、BS-TBS、BS テレ東、BS フジ)が 4K 放送から撤退して、NHK BSプレミアム 4K(103ch)、ショップチャンネル 4K(211 ch)、4K QVC(212 ch)の 3 局だけになることは前述しましたが、高画質放送ビジネス(新 4K 8K 衛星放送)が成功しなかった主要因は、コンテンツ制作費や設備維持費の高コスト負担、広告収入の伸び悩み(低視聴率)で累積赤字が増大したことです。
技術面の課題もあり、(1)新 4K 放送(新 4K 8K 衛星放送)、(2)2K 衛星放送(BS・110 度 CS デジタル放送)、(3)地上デジタル放送を 「4K テレビ」で視聴すると ” 眠くて暗い画面 ”(眠い = ぼやけた、暗い = コントラストが低い)になる現象が起こります。期待したほどの高画質が得られず、ノイズが目立ち、ざらついたり、ぼやけたりするのです。4K YouTube HDR 動画や PlayStation 5(PS5)の描写は、極めて高精細でコントラストが高く、鮮明な発色なのに不可解です。その理由を考えてみます。
(1)極端なデータ圧縮
4K 放送(約 829 万画素)は、従来の 2K 放送(約 207 万画素)の 4 倍の画素数を持つため、無圧縮では膨大なデータ量となり、割り当てられた放送波の帯域幅に収まりません。そのため、高効率なデータ圧縮技術である H.265 / HEVC(High Efficiency Video Coding)方式が採用されています。これにより、地上デジタル放送で用いられる MPEG-2 の約 4 倍、2K 衛星放送で用いられる H.264 / MPEG-4 AVC と比較しても約 2 倍の高い圧縮率を実現しています。
▢ 新 4K 衛星放送(UHD:3840 × 2160 ピクセル、約 829 万画素)
▢ 2K 衛星放送(Full HD:1920 × 1080 ピクセル、約 207 万画素)
▢ 新 BS 2K(NHK BS) 放送(1440 x 1080 ピクセル、約 155 万画素)
▢ 地上デジタル放送(1440 x 1080 ピクセル、約 155 万画素)
H.265 / HEVC(High Efficiency Video Coding)方式を用いると、4K 映像を従来の半分のビットレート(15〜30 Mbps 程度)に圧縮できるため、限られた帯域幅でも高精細な映像を安定して伝送することができます。HEVC(High Efficiency Video Coding, H.265)は、新 4K 8K 衛星放送(ISDB-S3)および Ultra HD Blu-ray(UHD BD)の標準圧縮方式として採用されています。
しかし、放送帯域幅(バンド幅)の制限によりデータ圧縮が限界に達すると、スポーツ中継のような動きの激しい映像では、ブロックノイズ(モザイク状のザラザラしたノイズ)や Mosquito Noise(モスキートノイズ)などの圧縮ノイズが発生して、映像がぼやけてしまいます。フレーム間予測の計算処理が追いつかず、データ圧縮が正常に機能しなくなるのです。
※ ブロックノイズ:JPEG(画像)や MPEG(動画)などのデジタル圧縮
技術において、画像や映像のデータが圧縮・符号化される際に、モザイ
ク状の四角い格子模様として現れる画質劣化(デジタルアーティファク
ト)。低いビットレートで圧縮率を上げると情報量が不足して発生す
る。また、デジタルテレビ放送のアンテナレベル(受信強度:地上デジ
タル放送は 44 以上、BS デジタル放送は 50 以上、機種により 60 以上
が推奨レベル)不足や受信不良(分岐器、分配器による信号減衰など)
で信号強度が低下すると発生する。映像を細かいブロック(小さな正方
形)単位で処理するため、データが足りなくなるとブロックの境目がザ
ラザラと目立つようになる
※ Mosquito Noise(モスキートノイズ):JPEG(画像)や MPEG(動
画)でデータを圧縮する際に、エッジ(輪郭)や色の境界部分に発生す
る、蚊(モスキート)のようなモヤモヤ、チカチカした映像ノイズ。高
圧縮率で高周波成分が失われると発生する。文字や線画(図柄)の周
辺、色の変化が激しい部分に現れ、ノイズが変動する様子が蚊(モス
キート)の大群がエッジ(輪郭線)の周辺にまとわりついているように
見えるため、輪郭が曖昧になり、画像の鮮明さが損なわれる
(2)4K テレビは2種類ある
4K テレビには、液晶テレビ と 有機 EL テレビ(OLED)の 2 種類があります。解像度は同じ(4K)ですが、画質、価格、特性が大幅に異なります。また、仕様上の違いとしては、4K チューナー内蔵テレビ(従来のテレビ)と 4K チューナーレステレビ(スマートテレビ)の 2 種類があります。
4K チューナー内蔵テレビ(従来のテレビ)と 4K チューナーレステレビ(スマートテレビ)は、(1)地上デジタル放送、BS / CS デジタル放送の視聴可否、(2)NHK 受信料契約の義務という面で大きな仕様上の違いがあります。
※ NHKの受信料契約:放送法 第64条に基づき「NHK の放送を受信できる
設備」を設置すると課される法的義務。テレビやワンセグ機能付きス
マートフォン、PC(パソコン)等がある場合、契約・支払いの義務が
生じ、未契約の場合は 2 倍の割増金が請求される。最高裁は 2017 年12
月 6日、テレビ等の受信機を設置した者に NHK との受信契約を義務付
ける放送法 第64条1項について「合憲」と判断し契約義務を認めた。
NHK が契約を申し込めば自動的に成立するわけではないが、裁判で勝
訴が確定すれば、設置時まで遡って契約と支払義務が確定する。また、
放送法の一部改正により、2025 年10月から NHK のインターネット配
信が「必須業務」となり、放送の同時配信・見逃し配信が義務化され
た。これにより、スマートフォン、PC(パソコン)等で NHK ONE
(同時・見逃し配信)を視聴する意思を示し、利用登録・契約手続きを
した世帯は「地上契約」と同額(月額 1,100 円、沖縄県は 965 円)の
ネット専用受信契約が必要になる(受信契約は世帯単位)が、すでに
「地上契約」や「衛星契約」をしている場合、追加負担は発生しない
▢ 4K チューナー内蔵テレビ(従来のテレビ):4K 対応パネルを搭載し
た 4K チューナー内蔵のテレビ。4K 映像の表示、4K 放送の視聴ができ
る。基本モデルは OS 非搭載だが、OS(Android TV、Google TV な
ど)を搭載したモデルは YouTube や動画配信サービス(VOD)の視聴
ができる
▢ 4K チューナーレステレビ(スマートテレビ):4K 対応パネルを搭載し
たチューナーレスのテレビ。地上デジタル放送、BS / CS デジタル放送
の受信機能はないが、OS(Android TV、Google TV など)を搭載し、
YouTube や動画配信サービス(VOD)の視聴ができるディスプレイ。
4K 映像の表示はできるが、4K 放送の視聴には、外付け 4K チューナー
が必要になる
4K チューナーレステレビ(スマートテレビ)で 4K 放送を視聴したければ、I-O DATA REC-ON(HVT-4KBC)のような、新 4K 衛星放送対応チューナーを追加する必要があります(設置すると NHK 受信料の契約義務が発生します)。
4K チューナーレステレビ(スマートテレビ)に I-O DATA REC-ON(EX-BCTX2)のような 3 波(地上 / BS / 110 度 CS デジタル放送)対応録画チューナーを追加しても、チューナー自体にアップコンバート機能はなく、2K 放送、地上デジタル放送を 4K の解像度(3840 × 2160 ピクセル)で出力することはできません。
しかし、4K チューナーレステレビ(スマートテレビ)に 2K(Full HD:1920 × 1080 ピクセル)1080i(インターレース)/ 1080p(プログレッシブ)の映像信号を入力すれば、映像エンジンが 4K 相当にアップスケーリングして、引き伸ばし表示をしてくれます。
アップスケーリング(疑似 4K)は、2K(Full HD, 1080p)など低解像度の映像信号を AI やアルゴリズムを用いて補間・拡大して、4K(2160p)相当の画質で表示する技術です。ネイティブ 4K よりも描画負担が低く、PlayStation 4 Pro(PS4 Pro)の Checkerboard Rendering(チェッカーボードレンダリング)やフル HD 動画の再生において、高画質化と処理速度のバランスが重視されるケースで使用されます。しかし、元の映像は 2K(Full HD, 1080p)ですから、ネイティブ 4K と同等の画質にはならず、映像はぼやけて見えます。
ネイティブ 4K コンテンツ(Ultra HD Blu-ray:UHD BD など)以外の低解像度のコンテンツ(地上デジタル放送、YouTube 動画など)の映像信号を4K 画質に引き上げるアップスケーリング(疑似 4K)は、映像エンジンの処理能力の差が如実に現れるため、4K テレビの画質は、映像処理エンジンの能力(処理能力)に大きく依存します。
ネイティブ 4K が最も高品質ですが、最新のアップスケーリング(疑似 4K)技術は進化しており、50 インチ以下の画面サイズで視聴距離が適切(画面の高さ × 約 1.5 倍)であれば、ネイティブ 4K と大差ない鮮明な画質で表示できるはずです。
(3)基準輝度の違い(SDR と HDR)
地上デジタル放送は SDR(Standard Dynamic Range:標準ダイナミックレンジ)、2018 年 12月に開始された 新 4K 8K 衛星放送(BS / 110 度 CS 衛星放送)は HDR(High Dynamic Range:高ダイナミックレンジ)を基準輝度としています。
地上デジタル放送は 2003 年12月 1日に東京、大阪、名古屋の 3 大都市圏で開始されましたが、順次拡大され、2011 年 7月 24日には(一部地域を除き)アナログ放送が終了して、デジタル放送へ完全移行しました。
この時期に出荷されたテレビの液晶パネルは Dynamic Range(ダイナミックレンジ:再現可能な明暗の差)が狭かったこともあり、地上デジタル放送は SDR(Standard Dynamic Range)規格に基づいて制作・放送されていました。この方式は現在に至るまで変わっていません。また、BS デジタル放送は 2K SDR(Standard Dynamic Range)規格に基づいて制作・放送されたのです。
その後、HDR(High Dynamic Range)対応の液晶パネルや OLED(有機EL)ディスプレイを搭載したテレビの普及に伴い、新 4K 8K 衛星放送は HLG(Hybrid Log-Gamma)という HDR 規格 に対応しました。
4K HDR 制作のテレビ番組を 4K HDR 対応テレビで視聴する場合、画質(解像度と明暗の表現力)においては、4K YouTube 動画と同等か、それ以上に高精細かつ安定した画質で楽しめます。ところが、新 4K 8K 衛星放送の開始当初、多くの放送局は 4K SDR(Standard Dynamic Range)規格に基づいて番組を制作・放送していました。
新 4K 衛星放送のテレビ番組の大部分は、BS 2K(ハイビジョン)放送や地上デジタル放送のサイマル放送(同時放送)もしくは過去の番組の再放送(アップコンバート含む)で構成されており、2K 用・4K 用の番組制作をする必要があります。
そのため、新 4K 8K 衛星放送の開始当初は、従来の 2K カメラで収録して、放送直前または放送局のサーバーで 4K 規格に変換するアップコンバート制作が行われました。既存の制作設備を活用できるため、制作費を抑えられる現実的で合理的な選択だったのです。
▢ 4K Ready 制作:撮影・編集を 4K で行い、新 4K 衛星放送で放送する
と同時にダウンコンバートして 2K 衛星放送(BS・110 度 CS デジタル
放送)や 地上デジタル放送としても送出する手法
▢ アップコンバート制作:2K カメラで収録し、放送直前または放送局の
サーバーで 4K 規格(UHDTV)に変換する手法。解像度は 2K(HD)
だが、S-Log や Log 形式など、広いダイナミックレンジと色域の情報
を記録できる高品質なフォーマットで撮影して、後処理の「変換耐性」
を確保する。この手法では、2K(HDTV / BT.709)制作の映像素材を
4K(UHDTV / BT.2020)規格へアップコンバートする際、解像度を
1920 x 1080 から 3840 x 2160 へ引き上げる(スケーリング)だけでな
く、色域(カラーマッピング)の特性を合わせる変換(カラースペース
変換)が必須になる。BT.709 は HDTV 規格で狭い色域(SDR)である
のに対して、BT.2020 は UHDTV 規格で広色域(HDR / Wide Color
Gamut)を扱うため、色空間の再定義と輝度・彩度の再マッピングが必
要になる
▢ 真の 4K 制作(ピュア 4K 制作):撮影、編集、MA(音声制作)、送出
まで、番組制作のすべての工程を、2K(HDTV / BT.709)にダウンコン
バートせずに 4K ネイティブ(3840 × 2160 または 4096 × 2160 画素)
の解像度・HDR(高ダイナミックレンジ)で行う制作手法
※ S-Log(エスログ):SONY(ソニー)のカメラで採用されている、広
いダイナミックレンジと色域を記録できる動画用のガンマカーブ設定。
撮影後のカラーグレーディング(色編集)を前提としており、シャドウ
からハイライトまで情報量を残せるため、「白飛び」や「黒つぶれ」を
抑えた高画質な映像制作が可能になる
※ Log(ログ)撮影:ダイナミックレンジを最大限に活かし、「白飛び」
や「黒つぶれ」を抑えた低コントラストな映像を記録する手法。主に映
画や CM 制作などプロの現場で使われ、編集(カラーグレーディング)
で色や雰囲気を自在に作り込める。撮影後は LUT や色補正が必須にな
るが、ノイズを避けるため適正値より少し明るめに撮影する
※ LUT(Look Up Table:ルックアップテーブル):動画や写真の入力カ
ラー値を特定の出力値に変換する「色変換一覧表」データ。主に動画編
集で、Log(ログ)撮影された平坦な映像をシネマ風など特定の色味へ
一瞬で補正・クリエイティブに加工するプリセットとして利用される
SDR(Standard Dynamic Range)は、従来のテレビやモニターで使われてきた、一般的な映像信号の規格です。輝度の最大値が約 100 nits、階調が 8 bit(256 階調)に制限されているため、HDR(High Dynamic Range)と比較すれば、コントラストが低く「黒つぶれ」や「白飛び」が起きやすい弱点はありますが、安定した画面表示を可能にします。
これに対して、HDR(High Dynamic Range)は、高ダイナミックレンジ(広い輝度)を表現できるため、明るい部分の「白飛び」や暗い部分の「黒つぶれ」を抑えて、太陽光や照明光の階調(グラデーション)を維持したまま、実世界に近いリアルな映像を再現できます。
ところが 4K HDR(High Dynamic Range)対応テレビで SDR(Standard Dynamic Range)コンテンツ(例えば、地上デジタル放送)を表示させると、画面全体が暗くなることが多いのです。これが「4K テレビで見る地上デジタル放送の画面は暗い」という市場評価に繋がります。
※ 白飛び(Washed out):画面の明るい部分が真っ白になり詳細が見え
ない現象。主な原因は、映像設定の[明るさ][コントラスト][バッ
クライト]が高すぎるか、表示モードが[ダイナミック][ビビッド]
になっているためで、映像モードの設定でこれらの数値を下げる、もし
くは HDR 設定を変更すると改善される。HDR 対応機器で HDR と
SDR の信号設定が一致していないと「白飛び」が発生するため、機器
側の映像設定を[HDR オフ]または[SDR]に変更して改善するか確
認する必要がある
※ 黒つぶれ(Crushed Blacks):暗いシーンのディテールが真っ黒に潰れ
て見える現象。主な原因は、過度な部屋の明るさ、明るさ(黒レベル)
設定が低すぎる、あるいは液晶パネルの視野角が狭いこと。映像モード
を[シネマ][映画]に変更する、「明るさ」「輝度」「バックライ
ト」の項目を調整して光量を上げると改善される
(4)テレビのデフォルト設定とトーンマッピングの不整合
従来の 2K 放送(SDR)は画面全体を平均的な明るさで表示するのに対し、4K 放送で用いられる HLG(Hybrid Log Gamma)方式は、最大輝度を高く設定して「暗い部分はより暗く、明るい部分はより明るく」表現します。しかし、輝度範囲が狭い SDR 信号を HLG(Hybrid Log Gamma)のコンテナ(輝度・色域空間)に無理に配置(変換・アップコンバート)すると、輝度(明るさ)と色域(再現できる色の範囲)のミスマッチが起こり「意図しない表示」になります。
最大輝度が 10,000 nits(cd/m²)もある HDR モード(ハイダイナミックレンジ)では、最大輝度が 100 nits(cd/m²)しかない SDR 信号を低い輝度範囲(非常に暗い領域)と認識するため、トーンマッピング(輝度マッピング)が適切でないと、HDR 対応テレビの最大輝度(主に 1,000〜10,000 nits)に対して、相対的に非常に低い輝度(薄暗いグレーのような位置)に割り当てます。その結果、「暗い場所はより暗く、明るい場所も暗め」になり、中間輝度(肌色や風景など)は SDR(Standard Dynamic Range)よりも暗く表示されるのです。
HDR 対応テレビが HDR モードで HDR コンテンツを表示する場合は、最大輝度(10,000 nits)を活かすため、画面全体を暗めにトーンマッピングして、ピーク輝度(太陽光など)を際立たせる表示をします。これに対して、HDR モードで SDR コンテンツを表示する場合は、このトーンマッピングが逆効果となり、SDR 信号の輝度範囲(0.1~100 nits)全体が押し下げられ、薄暗い描写になります。
このような現象は SDR(Standard Dynamic Range)と HDR(High Dynamic Range)では、基準輝度が異なるため生じる「SDR-to-HDR トーンマッピングの不整合」または「相対輝度差による錯覚」と呼ばれています。
※ HLG(Hybrid Log Gamma)方式:NHK と BBC が共同開発した、テレ
ビ放送やライブ映像配信に最適化された HDR(High Dynamic Range)
規格。SDR(Standard Dynamic Range)と互換性があり、SDR 対応テ
レビでも大きく画崩れせず表示できる。放送業界で広く採用されている
SDR の輝度が 100 nits(cd/m²)なのに対して、HDR の輝度は 10,000 nits(cd/m²)あるため、SDR の約 100 倍の明るさの情報を表現できます。
実際の映像制作では、コンテンツの制作環境やモニターの性能により数百 nits(例えば 300~700 nits)まで表示できる機器も多いのですが、基本的には、低輝度(10 cd/m² 以下)〜中輝度(100〜1,000 cd/m²)を輝度上限としており、階調は 8 bit(256 段階)であるのが一般的です
HDR 対応テレビは、SDR よりも広範囲で高輝度な映像(最大 1,000〜10,000 nits)を表現できるため、SDR 信号(100 nits)の Paper White(ペーパーホワイト:平均的な白色)を表示させると、Washout(ウォッシュアウト:色が薄く霞む)したり、高すぎる輝度で飽和してハイライト(明るい部分)が「白飛び」するため、画面全体を暗めに調整してバランスを取ろうとします。そのため、画面のトーンマッピングを適切に行う必要があります。
具体的には、HDR 対応テレビが SDR 信号(100 nits)を HDR の適切な基準輝度(例えば、200〜300 nits 程度)に変換してマッピングすれば、SDR 信号(100 nits)を HDR 対応テレビの性能にマッチした、高コントラストで自然な表示にする処理が行われます。
HDR 対応テレビが SDR 信号をハイライト(高輝度)データが欠落した HDR 信号と誤認したり、HDR モード(特に PQ 方式)のカラーマッピングのまま処理すると、SDR の輝度範囲(0.1〜100 nits)を無視して、映像制作側の意図よりも輝度を低く表示するため、薄暗い描写になります。
(5)SDR と HDR では EOTF(ガンマカーブ)が異なる
HDR 映像を適正に表示するには、輝度だけではなく、視覚特性に合わせた「色」と「階調」で表示させる必要があります。入出力装置には、固有の入出力特性(ガンマ:EOTF)があり、画像の色調や階調(グラデーション)を左右します。
HDR の国際規格 BT.2100(ITU-R BT.2100)では、制作用の規格として2種類のガンマカーブが制定されています。(1)PQ 方式(Perceptual Quantization, SMPTE ST 2084ST)、(2)HLG 方式(Hybrid Log Gamma)ですが、(1)は Dolby Laboratories(ドルビーラボラトリーズ)が開発した「Web 配信、映画コンテンツ向け」の規格、(2)は NHK と BBC が共同開発した「テレビ放送番組向け」の規格です。
▢ PQ 方式(Perceptual Quantizer、知覚量子化):HDR(ハイダイナ
ミックレンジ)映像技術の規格で人間の視覚特性(暗部の輝度差に敏感
で、明部には鈍感)を基に設計されたEOTF(ガンマカーブ)
▢ HLG(Hybrid Log-Gamma)方式:NHK と BBC が共同開発した、テレ
ビ放送向けの HDR(ハイダイナミックレンジ)映像方式。高輝度・高
色域を表示できる「高画質」と SDR(標準画質)テレビでも色崩れせ
ずに表示できる「互換性」を両立しており、新 4K 8K 衛星放送やライ
ブ中継、カメラ撮影で使用されている
HLG 方式は SDR(Standard Dynamic Range)と互換性があり、従来の SDR テレビでも違和感なく表示できるように設計されています。
PQ 方式の場合、ピーク輝度は 10,000 nits(cd/m²) に固定されており、表示デバイスで再現できる輝度までは同じガンマカーブを描くため、表示デバイスの最大輝度までの階調領域では、正確な再現性が維持されます。
HLG 方式の場合、表示機器の最大輝度がピーク輝度になります。表示機器側の最大輝度によりガンマカーブが変化するため、HDR 信号を SDR テレビで表示しても大きく画崩れしません。
問題となるのは、HDR 対応テレビが PQ 方式をデフォルト設定にしている場合です。上記した通り、4K HDR 制作の映画コンテンツは適正表示になりますが、HDR モード(PQ 方式)では 10,000 nits(cd/m²)が輝度上限に設定されているため、SDR 信号の 100 nits(cd/m²)は HDR 信号の輝度範囲 0〜10,000 nits(cd/m²)の中では、非常に低い位置にマッピングされます。
映像制作側は、輝度 0.1〜100 nits(cd/m²)、ガンマ 2.4 の業界基準で輝度を設計しているため、 HDR モード(PQ 方式)がデフォルト設定のテレビでは、トーンマッピングの不整合により、中輝度領域(中間階調)が暗く沈んで見えます。
SDR と HDR(PQ 方式)では、EOTF(ガンマカーブ)が異なることから、SDR 信号を HDR(PQ 方式)で解釈すると中間輝度が落とされ、コントラストも平坦になるため、中輝度領域(中間階調)は暗く沈んで、画面全体が暗く感じられるのです。
※ Gamma 2.4:映像制作において、輝度 100 nits(cd/m²)、ガンマ 2.4
は、標準的な SDR(Standard Dynamic Range)環境、特に HD 放送や
Web 動画の基準となる Rec.709(ITU-R BT.709)における国際的なリ
ファレンス基準であり、暗い環境下(映画館のような暗室)で視聴す
る HDTV や映画のカラーグレーディングやモニター設定の標準特性に
なっている。輝度 100 nits(cd/m²)は SDR コンテンツの基準となる白
レベル(ピークホワイト)
※ Rec.709(BT.709):国際電気通信連合(ITU-R)が定めた、HDTV
(ハイビジョン)映像の標準規格。テレビ、YouTube(ユーチュー
ブ)、Web 動画など、SDR(Standard Dynamic Range)の映像制作に
おいて最も広く採用されている色空間(色域)とガンマ特性。正しい色
再現の基準として使われる
※ Perceptual Quantizer(PQ):HDR(High Dynamic Range)映像技術
における輝度特性を定義する伝達関数(EOTF:Electro-Optical
Transfer Function)の1つ。SMPTE ST 2084 として標準化されてお
り、HDR 規格(Dolby Vision, HDR 10 など)で採用されている
※ SMPTE ST 2084:Dolby Laboratories(ドルビーラボラトリーズ)が開
発し SMPTE(米国映画テレビ技術者協会)が標準化した HDR 映像の
伝達関数(EOTF)で PQ(Perceptual Quantizer)の規格。最大
10,000 nits(cd/m²)の輝度に対応し、人間の視覚特性に基づき 10〜
12 bit で滑らかな階調表現を実現する。HDR10、Dolby Vision、
HDR10+ の基礎となる技術。人間の視覚特性(Perceptual)は、暗い部
分の輝度変化には敏感だが、明るい部分には鈍い特性がある。PQ カー
ブはこの特性に基づき、少ないビット数で暗部から明部までを高精細に
表現できるように設計されている
※ Dolby Vision(ドルビービジョン):Dolby Laboratories(ドルビーラボ
ラトリーズ)が開発した高度な HDR(High Dynamic Range)技術。映
像の明るさ、コントラスト、色彩をシーンやフレームごとに動的メタ
データ(本体データ:画像、文書、音声などの付帯情報)で最適化し、
映画館レベルの鮮明でリアルな高画質 HDR 映像をテレビやスマート
フォン、ゲームで実現する
※ HDR10:Ultra HD Blu-ray(UHD BD)や動画配信で最も普及している
オープンな HDR(High Dynamic Range)の基本規格。最大 10,000
nits(cd/m²)の輝度と 10 bit(約 10億 7374万色)の色深度により、
SDR(Standard Dynamic Range)よりも詳細な明暗表現(明暗差)、
滑らかな階調表現を可能にする
※ HDR10+:従来の HDR10 技術をベースに開発された新規格で HDR10
と互換性がある。HDR10 が作品全体に1つの設定を使うのに対し、動的
メタデータを追加して、シーンやフレーム毎に輝度やコントラストを最
適化して再生する。暗いシーンと明るいシーンが混在する映像でも、そ
れぞれの輝度情報をリアルタイムに適用できるため HDR10 よりも高画
質になる。シーンに応じたトーンマッピングで最適化し、制作者の意図
に近い明暗表現を再現できる。非対応機器(HDR10 のみ対応)では、
動的メタデータ(付加情報)を無視して、基本となる HDR10 の静的メ
タデータを使用して映像を再生するため、通常の HDR 画質で表示され
る。HDR10+ はオープン規格で低輝度・安価なテレビでも効果を発揮す
るため、ライセンス契約を結んだ多くの企業が推進している
(5)輝度設定の不整合
周囲の環境に対して、モニターの輝度が高すぎたり、低すぎたりすると色の再現が不自然になります。

THE IDOLM@STER SHINYCOLORS
『illumination STARS』所属
風野 灯織(かざの ひおり) CV:近藤 玲奈(こんどう れいな)
… クール系美少女アイドル
ここまで、4K 放送(4K テレビ)の画面が暗く感じられる原因を列挙してみましたが、少しまとめてみると、
[主要因]HDR(High Dynamic Range)により、従来の放送よりも最大輝
度を低く、中間輝度を重視して豊かな階層を表現しているため
(1)HDR(HLG)の副作用:4K 放送(新 BS 4K 衛星放送)では、明暗の
差を詳細に表現できる HLG(Hybrid-Log-Gamma)方式の HDR 規格
が採用されているため、従来の SDR(Standard Dynamic Range)映
像を表示すると「明るすぎる部分」が抑えられ、全体的に落ち着いた
(暗い)画面になる
(2)制作時の基準が違う:制作時は暗い部屋で高輝度のモニターを使用し
て編集するため、一般的なリビングの環境で表示すると輝度が不足し
ているように感じられる
(3)SDR => HDR 変換の影響:過去の映像やテレビ番組は SDR
(Standard Dynamic Range)で撮影されており、SDR の映像データ
を無理やり HDR(High Dynamic Range)に変換すると不自然に暗く
なる
(4)テレビの最大輝度不足:HDR 対応テレビであっても、性能が十分では
なく、最大輝度(輝度能力)が低い場合、HDR コンテンツを表示させ
ると SDR(Standard Dynamic Range)よりも画面が暗く感じられる
(5)輝度不足によるトーンマッピングの不整合:テレビの能力を超える高
輝度映像信号が入力されると、テレビはトーンマッピングにより、明
るさを圧縮して表示するが、中間調から暗部まで、全体が引きづられ
て暗くなる
(6)Dynamic Range(ダイナミックレンジ)の誤認識:4K 放送(新 BS
4K 衛星放送)などで、制作側の意図とテレビの描画能力が乖離して
いる場合、4K テレビは Dynamic Range(ダイナミックレンジ)の解
釈を誤り、画面全体が暗くなる
[主要因]映像ソース(入力信号)の解像度が 4K に対応しておらず、テレ
ビ側でアップコンバートして、引き伸ばし表示をするため
(1)映像ソースが 4K ではない:地上デジタル放送、YouTube(ユー
チューブ)動画などはフル HD(Full HD:1080p)以下の解像度だ
が、4K テレビは 2K の 4 倍の画素数があるため、低解像の映像を画面
全体に広げると、画像がぼやけて、輪郭が荒くなり、ノイズが目立つ
映像になる
(2)アップコンバートの処理能力が低い:テレビの 4K 未満の映像信号を
4K 相当の画質にアップコンバートする機能が低性能で処理が不十分
だと、映像がざらついたり、ブロックノイズが発生して、画面全体が
荒れてしまう
(3)ノイズの拡大表示:テレビが大画面になると、映像の細部が拡大され
るため、映像信号のノイズ(ざらつき)が目立ち、画質が低下したよ
うに感じられる
その他の要因としては、
(1)放送の電波強度が低い:諸般の事情で電波の受信レベルが低下すると
ブロックノイズ(画面が四角いモザイク状になる)が発生する
(2)通信速度が遅い:YouTube(ユーチューブ)や Netflix(ネットフリッ
クス)などのストリーミングサービスで通信速度が遅くなると、自動
的に低い解像度に変更されるため、HD 以下の画質で再生される
(3)視聴距離が近すぎる:4K テレビは 2K(フル HD)テレビよりも近い
距離(画面の高さ × 約 1.5 倍)で視聴するのが適正だが、それより近
づくと画素が荒く感じられて、ノイズも目立つようになる
4K テレビで視聴するプログラム(テレビ番組)の多くは、2K(フル HD)以下の放送であると思います。4K テレビを有効に活用するためにも、具体的な解決策を考えてみる必要があります。
[改善策]テレビの画質設定を変更して「暗さ」を解消する
(1)映像ポジション(モード)の変更
・映像モードを[ダイナミック][明るい部屋][ゲーム]にする
・[環境光による自動調整]や[明るさセンサー]を「切」にする
(2)バックライトの明るさを調整する
画質設定で[バックライト]または[液晶ライト]を最大値にする
・OLED(有機 EL)テレビの明るさ調整は[パネル輝度][OLED パ
ネルの明るさ][有機 EL 輝度][有機 EL 発光]などで行う
・[ブライトネス / 明るさ]は「黒レベル」の明るさを調整する項目
(3)ガンマ設定を変更する
ガンマ設定を[2.4]=>[2.0]or[2.2]に変更する
ガンマ設定を +(プラス)方向に調整する
※ 省エネ設定(節電モード)が「最大」になっていると、輝度の個別
調整ができない場合がある
(4)ライブカラー(鮮やかさ、色の濃さ)を変更する
[ライブカラー]を[低]・[中]に変更する
(5)HDMI 信号のフォーマットを変更する
・HDR 対応機器で HDR と SDR の信号設定が一致していないと「白
飛び」が発生するため、機器側の映像設定を[HDR オフ]または
[SDR]に変更してみる
・HDMI 端子の入力信号を[通常(標準)]にすると SDR 信号を適
切に受信できる場合がある
これらの対応策は、テレビの機能や性能に依存するため、効果が見られなかったり、逆効果になる場合もあります。また、映像制作側が意図的して「暗め」の落ち着いた映像に仕上げている場合もあり、画質調整の範囲内で上手く対応できるかどうかは、やってみないと分かりません。
