【無料で利用可】積算温度も、カッパの要否も - 農業の現場でほしい天気アプリを、自分で作ってみた
この記事では、自分の農作業での経験をもとに作った天気アプリ Orch.Weather (オーク・ウェザー)を紹介します。
既存の天気アプリでは物足りなかった「農業の現場で本当に知りたいこと・必要なこと」を、ひとつのアプリとして集めたツールです。
アプリを作ろうと思ったきっかけ
「こんなものを作って」と画面に語りかけるだけで、目の前で機能が組み上がっていく。AIツールとの対話で味わったこの感覚を、技術的な面白さだけで終わらせたくはありませんでした。
この手軽さを、自分が身を置く農業の現場に持ち込めないか。始まりは、それだけの思いつきでした。
農業をやっていて、感じたこと
毎朝の「天気サイトの巡回」を効率化したい
農業に携わるようになって感じたことの一つが、毎日いくつもの天気アプリを見比べる煩わしさでした。「今日は外仕事ができるか」に始まり、農薬や肥料をまくタイミングまで、判断はすべて空のご機嫌次第。
ひとつの画面を見るだけで、今日の作業の判断ができる。そんな環境がほしいというのは、何より自分自身の切実な思いでした。
生育の予測を可視化できないか
毎年、作業ノートを前に「今年は去年より開花が早いらしい」「あの地域はもう咲いたか」と気候の変化を気にかける両親の姿がありました。例えば、ブドウは開花期を基準に、前後数カ月のスケジュールがきまります。
頭の片隅を常に占めているこの「予測の悩み」を、少しでも軽くできないか。そこで目をつけたのが、生育の指標となる「積算温度」でした。
見えない温度の積み重ねを可視化できれば、勘に頼らない予測に一歩近づけるはずです。
長年の「勘」を、数字に置き換えてみる
「今年は涼しい」「去年は雨が多かった」。長年の経験に裏打ちされた農家の勘は、日々の判断の大切な情報源です。ただ同時に、その暗黙知を数値として言語化できないか、とも考えました。
経験則というブラックボックスを開けて、数字という共通言語をつくる。そうすれば、経験の浅い人でも迷わずに作業や潅水の判断ができる。
そんな再現性が、ほしかったのです。
雹害を受けて考えたこと
今年の5月、農園を突然の雹が襲いました。作物の価値を一瞬で奪い去っていく自然を前に、予防することの難しさを痛感しました。
もし事前に兆候を察知して、少しでも対策の時間を確保できていたなら何か手を打てたかもしれない。
この経験が、悪天候を見逃さない ための仕組みをアプリに持たせる決め手になりました。自然と戦うのではなく、備えるための盾を持ちたかったのです。
アプリの紹介
Orch.Weather は、3つの画面で構成されています。まずは、それぞれが何をする画面なのかを大まかに紹介します。
空もよう ── 農業に効く天気予報。作業の可否、気象データをひと目で見ることができます。
空くらべ ── 数値をグラフで比較。去年との違い、他の地点との違いを簡単に確認できます。
空しらべ ── 過去の天気の振り返り。「あの日の天気」を、後から確認できます。
空もよう ── 農業に効く天気予報
登録した地点の天気予報を表示する画面です。日別予報・時間別予報・空のアドバイス(AI機能・準備中)の3つで構成されています。ここには、私が現場で「これが知りたかった」と思った工夫を詰め込みました。
天気の見方を切り替えられる(リスク/概況)
一般の天気アプリは、雨をリスクとして優先的に表示します。けれど農作業には、雨のリスクだけでなく「作業できたはずの時間を逃してしまうリスク」もあります。
たとえば、12〜15時台は天気がよく、16時から雷雨という予報。天気アプリの「午後」は雷雨と表示されるかもしれませんが、畑仕事の目線で見れば、12〜15時台はれっきとした作業可能時間です。
逆に、ほとんど晴れていても、少しでも雨の可能性があれば控えたい作業もあります。雨に弱い農薬の散布などが、その典型です。
リスクでみる (初期設定):その時間帯で 最も悪い天気 を代表として表示。悪天候を見逃したくないときに。
概況でみる :その時間帯で 最も多い天気 を代表として表示。全体の傾向をつかみたいときに。
さらに、選んでいない側のモードの天気も、小さなタグで併記しています。「ほとんど晴れだが、一時的に雨」「一時的に雨が降るが、ほとんどは曇り」といった日にも、ひと目で気づけます。

1日を「午前・午後・夜間」に分けて表示
1日を、午前(4〜12時)・午後(12〜20時)・夜間(20〜翌4時)の3区分で表示します。予報の区切りではなく、農作業のリアルな時間の区切りに合わせました。知りたいのは「作業する時間の天気」だからです。
雨は「カッパが要るか」で表示
農作業で知りたいのは「雨が降るか」だけではなく、「カッパを着るか、着ないか」です。通常の予報では「小雨」とひとまとめにされてしまう 3mmまでの雨を、現場の体感で3段階 に分けました。
ぽつぽつ:ぽつり程度。カッパなしで作業できる。
カッパ?:濡れ始める境目。短時間ならカッパなしでも。
カッパ!:しっかり濡れる。カッパが必要。
3mm以上は、気象庁の「雨の強さ」の区分に準拠しています。

一般の天気アプリには出てこない、農業に効く数値
普通の天気アプリでは見かけない指標も、表示するようにしました。
飽差 (g/m³):気温と湿度から計算する、乾湿の指標。
CAPE (J/kg):大気の対流不安定さの目安。雷や雹のような荒天のサインになります。
0℃層高度 (m):上空で気温が0℃になる高さ。雨と雪の境目、そして雹の目安になります。
露点温度 (℃):空気中の水蒸気が露になる温度。霜のリスクを見るときの目安に。
一般的な気象情報とこれらの指標を組み合わせることで、気象リスクを数字から判断することがてきます。
また、作業中の日焼け対策に欠かせない紫外線指数、施設の倒壊などに関わる降雪量、そのほか、海面気圧、16方位の風向なども表示します。
気象庁の注意報・警報を取り込み、荒天を見逃さない
気象庁が発表する 注意報・警報・特別警報 をアプリ内に取り込んで表示します(表示するレベルは設定で調整できます)。「リスクでみる」モードと合わせて、危険な天気に事前に気づくための盾にしています。
空くらべ ── 数値をグラフで比較
気象データを グラフ化して比較 する画面です。
「今年は去年とどう違う?」「隣の畑と、気候はどれくらい違う?」という農家の疑問に、数字で答えます。
各パラメータをグラフ化
気温・降水量・日射量・積算温度などを、折れ線グラフで表示します。数字の羅列ではなく、増減のカーブとして直感的に把握できます。
また、「空もよう」の気象データをもとに、2週間先までの予測値を表示しています。
「別の年」も「別の場所」も、自由に並べて比較
最大2つの対象を選んで、重ねて表示できます。同じ地点の異なる年(今年 vs 去年)でも、異なる地点(自分の畑 vs 別の地域)でも、組み合わせは自由です。冒頭の「今年は開花が早いらしい」を、印象ではなく積算温度のグラフで確かめられます。比較した対象が「何日ぶんの差か」も、自動で計算して表示します。
積算温度は「開始日」を自由に設定
有効積算温度は、 基準温度を2種類まで 、そして 積算を始める日を自由に 設定できます。作物や目的に合わせて、自分の基準で積み上げを計算できます。
降水量・日射量、日照時間の累計も、同じように開始日を指定できます。

空しらべ ── 過去の天気の振り返り
任意の日付を指定して、その日の気象データを振り返る画面です。「空もよう」と同じ項目(時間別・日別)を、過去の日付で確認できます。
「あの作業をした日は、どんな天気だったか」「病気が出た時期の気候はどうだったか」。作業ノートや記録と突き合わせるときに役立ちます。
また、「実際に雹が降ったあの日」「遅霜が降りたあの日」の気象データを知ることで、今後の発生の予測につなげることができます。
AIコメントのこと
用意した機能
自分の農園、ピンポイントの気象データを、農作業の観点からAIが解説する機能です。
アプリで見える気象データをそのまま渡して、AIに解説してもらう機能を用意しました。用途ごとにタブが分かれています。
空ごよみ :天気の概況をまとめる
畑しごと :外作業ができるタイミングを提案する
散布どき :農薬・液肥の散布に適した時間を提案する
施肥どき :肥料をまくタイミングを提案する
じぶん好み :プロンプトを自由に入力して、自分の知りたいことを聞く
とくに「じぶん好み」は、聞きたいことが人それぞれ違う農業と相性がいいはずだと思っています。同じ天気を見ていても、野菜と果樹では気にする点が違いますし、圃場の条件によっても変わってくるからです。

いったん、使えなくしています
開発自体はひととおり終えているのですが、公開はいったん見送りました。理由はふたつあります。
ひとつは、AIの利用にコストがかかること。使われるほど費用が積み上がる仕組みなので、無償のままでは続けられません。有料で提供するしかない、というのが率直なところです。
もうひとつは、有料にすると、気象データの取得元である Open-Meteo の利用が商用契約に切り替わること。つまり、AIのコストとは別に、運営側の費用がもう一段発生します。
AIコメントを使えるようにする=アプリ全体を有料にする 、という構図です。
いまは「無償で使えること」を選びました
そこで、AIコメント機能をいったん利用不可として、そのぶんアプリ全体を無償で使えるようにしています。
積算温度も、カッパの判断も、注意報の取り込みも、AIなしで成立する機能です。まずは「毎朝の判断がひとつの画面で終わる」という当初の目的を、誰でも使える形で届けたい。そう考えました。
このあたりの線引きをどうするかは、これからも考えていきたいと思っています。
おわりに
Orch.Weather は、机の上で設計したものではなく、 自分が畑で使いながら磨いてきた アプリです。
「今日、外に出られるか」「カッパは要るか」「去年と比べてどうか」…。
農家がいつもくり返しているこの判断を、ひとつの画面で完結させることを目指しました。
ぜひ気軽に利用していただき、同じように天気に振り回されている生産者の方の役に立てば、嬉しいです。
本アプリは、気象庁が発表する注意報・警報や、Open-Meteoが提供する気象データ(実績・予報)を、農業で使いやすい形に整理してお見せするツールです。
アプリが独自に天気を予測することはなく、気象予報業務許可を要する予報業務を行うものではありません。表示される数値やグラフは参考情報であり、データの誤差・欠損・遅延や、実際の天気との違いは提供元のデータによります。
ご承知おきのうえ、ご利用ください。
