"13年間乗降者ゼロ"の駅で降りて旅をしてみた
静まり返った冬の朝。半分も開いていない目をこすりながら、問寒別(といかんべつ)駅06:51発の始発列車に乗りこんだ。

今回は一人旅ではなく、関東から遊びに来てくれた友人と一緒だ。せっかくの休暇をこんな道北のド田舎町で過ごすために遠路遥々やってくるなんて、良い趣味してると思う。
朝の宗谷本線には私たち含めて3人しか乗っていなくて、ガタゴトと列車が揺れる音だけが響いている。私と彼女は別々の席に座り、それぞれ車窓を眺めたり船を漕いだりしていた。
40分ほど揺られて、目的地の筬島(おさしま)駅に到着した。降りたのは私たちふたりだけで、駅にも、その先にある集落にも人の気配はない。私たちが一瞬感じた心細さをあえて無視するように列車が去っていった。

北海道で一番人口が少ない村・音威子府にある筬島駅。何があるわけでもないが、なぜかずっと降りてみたかった駅だ。ちなみに、「降りてみたい」そんな軽い気持ちで下車すると、この地域では極寒の中平気で2〜3時間待たされることになる。

駅舎の上にこんもりと積もった雪を見て、ここが道内でも指折りの豪雪地帯であることを実感する。今年は雪が少なくて道北でも路面が見えている道があるほどなのに、筬島駅から見渡す世界はどこもかしこも真っ白だ。

えーWikipediaによると、筬島駅の1日あたりの利用者数は、全盛期が昭和38年で64人。それから減りに減って平成18年で1人。そんでえーっと、統計上、この年以降2020年JR調査で0.2人となるまで乗降なし……。乗降なし!!?!?!
あくまでも年間の平均で小数点第二位を四捨五入した数字だろうし、本当に1人も降りなかったわけではないんだろうけど、「13年間乗降者数ゼロ」はインパクト強すぎる。それもそのはず、筬島駅の周りには民家らしきものがあるのに人の気配を感じない。どうやらこの駅周辺の集落には10人ほどしか住んでいないらしい。

私たちが雪をぎゅむぎゅむ踏む音と、カラスが羽ばたく音だけが聞こえる、静かな静かな朝。白くて寒くて音のない世界にいると、心の中まで白くて無音になっていくような感覚を覚える。静かすぎて、無音の音が聞こえる。

雪が深くてどこが道だかわからないので、Googleマップを頼りにウロウロしてみる。民家を抜けると、雪化粧をした山林をほぼ360℃でぐるーっと見渡せる場所に出た。

「最高だね」「ね」と言葉を交わして、またふたりで山を眺める。彼女との付き合いは決して長くはないが、喋っても喋らなくてもいい空気が流れているので気楽だ。

この日もやっぱり寒くて、少しでも素肌を出そうものならそこからどんどん体温が奪われてゆく。帽子の上からフードを被り、マフラーを鼻までぐいっと上げる。木の枝も霜で白く覆われて、うっすらと毛が生えた春先の鹿の角のようだ。

隣の音威子府駅までは6.5キロ、歩いて2時間弱だという。筬島駅と音威子府駅の間には何があるのか、どんな景色が見れるのか、それを知るべく私たちは歩くことにした。

友人が「あっ」と呟いたので視線の先を見ると、遠くに親子のような鹿2頭が坂を駆け上がっていくのが見えた。道北でしばらく過ごして鹿にも見慣れたけど、こうして野生動物に偶然出くわすとやっぱり嬉しい。

遠くで警笛が鳴って、雪景色の中を特急サロベツが走ってゆく姿が小さく見える。こんなにも美しい景色があるのに、13年間乗降者数ゼロだった筬島駅。そして今でも0.2人/日と利用者は極めて少なく、いつ廃止になってもおかしくないだろう。

札幌や旭川などのメジャーな観光地もいいが、こういったマイナーな場所で旅情に浸る方が性に合っていると思う。友人が「ここひとりで来たら、世界は終わったんじゃないかって錯覚できそうだよね」と言った。たしかに。

筬島駅から音威子府駅までは国道40号を歩くのだが、車通りが多く、大きなトラックがビュンビュン走っている。この時は幸いにも雪が少なく歩道が見えていたため、そこを1列になって歩いた。

1時間半ほど歩いて、やっと音威子府の街が見えてきた。音威子府橋から凍った天塩川を見下ろすと鹿と目が合った。

朝から何も食べていなかったのでお腹がペコペコだ。そして1時間半も歩きっぱなしだったのでクタクタだ。ペコペコのクタクタ。何か温かくて柔らかくて「ハァ〜」ってなれるものが食べたい。

無事道の駅に着くも、まだ10時にもなっていなかったので、ほとんどのメニューが提供されていなかった。「鶏めしならありますよ」とのことで、ひとつずつ注文。しばらくしてほかほかの鶏めし弁当が運ばれてきた。

蓋を開けると、ふわっと鶏出汁の香りが漂う。本日一口目の鶏めしは、もうそれはそれは「ハァ〜」となってしまうほどにおいしかった。おまけでついてきたスープをすする。胃がじわ〜っと温まっていく。あぁ、幸せだ。
始発列車に乗って、無人駅で降りて、誰もいない集落を散策して、隣駅まで6.5キロ歩いて、ほかほかふわふわの鶏めしを食べる。華やかでもゴージャスでもないけど、これがこの上なく幸せなんだ。大げさに聞こえるかもしれないけど、生きててよかったとさえ思うんだ。

その後は地元の商店を物色したり、温泉に入ったり、ただ街を歩いたりして、夕方まで音威子府村で過ごした。17:02発の下り最終列車に乗るために音威子府駅へ。座席に座ると、心地よい疲労感に包まれる。
紫色の空に三日月が光っていた。いつも思うけど、三日月って爪の白いところみたいだ。そんなことを考えていたらいつの間にか眠りに落ちていた。

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