#035 経験学習の「好機」を逃すな。
Cover photo by Alev Takil
短期集中連載「経験を意味づけ、学びに変える – 経験学習」第7回(最終回)
ここまで、ジョン・デューイの教育思想から経験学習の系譜をたどり、コルブの経験学習モデルに沿ってその内容(WHAT)と具体的な進め方(HOW)を紹介してきた。
経験学習から得られる学びは多岐に渡るが、大まかに分類すると、それは、自己理解の深化(自己観の変容)、スキルや行動の更新(実践的アプローチの変容)、他者とのつながりの見直し(関係性の変容)、ものごとを認識する枠組みの変化(認知の変容)、といえるだろう。
では、これらの学びは、私たちの仕事上の、どのような経験と結びついているだろうか? 経験の振り返り、意味づけ、そして持論化は、どのような経験をしたタイミング(WHEN)でおこなうことが効果的なのだろうか?
ここでは「変化」をキーワードとして仕事上の経験を分類し、考察を進めてみたい。
ビジネスリーダーの成長にとって有意義な経験とは?
社団法人関西経済連合会の人材育成委員会は、企業経営者へのインタビューに基づき、リーダーとしての成長に有効である経験について研究成果を報告している。
その報告書「一皮むけた経験と教訓」によれば、初めての管理職、新規事業・新市場のゼロからの立ち上げ、悲惨な部門・業務の改善と再構築など、キャリアの大きな節目や転機にあたる経験が特定されている。
ただ、これらはすでに経営者となったリーダーのケースであるため、経験の総量も質も私たちとは違ったレベルにあることが推測できる。
経験学習の「好機」を捉える
そこで、これらの経験に特有の、リフレクションを促す要素やエッセンスを考慮して、私たちの目線で捉え直してみたい。それは、次のような変化を伴う経験といえるだろう。
仕事内容の変化
新たな職務領域へのアサインメント
業務領域や責任範囲の広がり
業務プロセスの標準化や効率化などの業務改善活動
未経験分野での仕事など、それまでの知識やスキルでは対応できない状況は、よい内省の機会となる。できること/できないことを棚卸しし、課題への向き合い方や仕事の進め方を試行錯誤しながら学びを獲得していく(自己観、実践的アプローチの変容)。
また、仕事のやり方の見直しは、ルーティンとして無意識でおこなっていたことの意味を問い直すことにもつながる。その仕事の本来の目的を問い、日常の行動の意味を捉え直すプロセスとなる(認知の変容)。
役割の変化
チームリーダーや後輩の育成担当への移行
部門横断的なプロジェクトでリーダー的な役割が期待される経験
他者の成長を支える役割は、自分の影響力や関わり方を見つめ直す機会となる。周囲の人間にとって「自分はどんな存在でありたいか?」を問い直すことも重要なポイントとなる(自己観の変容)。
同時に、人の働き方やコミュニケーションには多様なスタイルがあること、動機づけ要因も人それぞれであることにも気づく。他者との関わり方について新たな視座を得ることによって、自身の行動を調整することが可能になる(関係性、実践アプローチの変容)。
職場環境の変化
新たな人間関係の構築(上司の交代、異動先での新しい同僚など)
異なる文化をもつチームとの協働
組織変革(組織改編、戦略・方針の変更)
多様な働き方の可能性
慣れ親しんだ環境(ホーム)には、同質感や居心地のよさがある。これに対して、アウェイの環境では、仕事の進め方や付き合い方のルールも違えば、それまでの常識や価値観が通用しないこともしばしば起こる。「当たり前」が通じない環境下での経験は、「思い込み」への気づきや認知の枠組みを相対化する機会となり、より柔軟で開かれた思考を育むことができる(自己観、関係性、認知の変容)。
外部環境の変化が激しい時代においては、変革のアジェンダをもたない組織はない。そこでは、ハードとソフトの両面での適応が求められる。新たな組織体制や仕事のルールへの適応を図りながら、その変革の、自分にとっての意味づけをおこなっていく(実践的アプローチ、認知の変容)。
働き方の変化においては、仕事の生産性の維持・向上の視点から自己管理のルーティンを見直すことになるだろうし(実践的アプローチの変容)、ウェルビーイングの向上という視点に立てば、大切にしたい価値観を問い直す機会となる(自己観の変容)。
ここまで挙げた内容は得られるであろう学びの一例に過ぎないが、このような変化を伴う経験は、私たちの学びや成長にとって少なからず意味を持つ可能性が高い。
経験に内在する「問い」に向き合う
経験学習にとって望ましい経験は、私たちの内部にある種の「痕跡」を残す。痕跡とは、揺らぎであり、違和感であり、不協和音のこと。これまでの自分と、そこから「脱皮しかかっている」自分との不一致によって生じるものだ。
こうした揺らぎや違和感、不協和音は、次のような「問い」のきっかけとなる。
この経験を通じて、「自分」について理解が深まったことはなにか? 新たに獲得したスキルや行動基準はどのようなものか? 他者とのつながりの視点で見直したのはどのようなことか? ものごとを認識する枠組みにはどのような変化があっただろうか?
このように考えてみると、経験学習とは、経験に内在する問いに向き合い、自身を再定義することを通じて、自己を成長させる営みといえるかもしれない。
では、あなたの経験はどんな問いを発しているだろうか? そっと耳を傾けてみることにしよう。経験学習の好機を逃すことのないように。
短期集中連載「経験を意味づけ、学びに変える – 経験学習」は今回が最終回となります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
全7回の連載をマガジンにまとめましたので、こちらもご覧になってください。
