花澤薫さんというミステリー 『すべて失われる者たち』感想文
わたしが花澤薫さんの文章に初めて触れたのは一昨年のモノカキングダム2024だった。
noteの世界ではあまりお見かけしない文体だと感じた。品のある静かな語りくちのなかに小説の世界が息づいている。アート系の海外映画のような知的でクールな印象を持った。
その後、わたしは花澤さんが企画された「原稿用紙二枚分の文芸賞」に応募して期待賞をいただきサイン本をいただいた。(実は応募のまえに書籍を購入していたので二冊所持しております。サイン本じゃない方は図書館への寄贈を考えてます。)
こちらの書籍には32本の短編がおさめられている。
それぞれ独立した作品だが共通するのは「すべて失われる」というテーマ。誤解やすれ違い、打ち明けられなかった秘密、心にひっかかったトゲ、もう取り戻せない過去など、人生のどうしようもないしょっぱさが綴られる。
どの作品も小説のなかに音楽が挿入されている。洋楽に詳しい人なら曲名で人物の心情や時代の空気感が伝わるのかもしれない。音楽だけでなく地名やブランドなど固有名詞が効いていておしゃれだなあと思う。
『ブルック・キーツについて』という章で読者の頭にハテナがわき起こる。これはノンフィクションか、はたまたフィクションか。最後の章でも小さなクエスチョンが残った。
花澤薫さんとは何者なのだろう。
これこそ本書最大のミステリーのような気がしてきた。
でも、これすらフィクションとして楽しみましょう、というのもありだと思う。
それぞれの作品は5000字前後だろうか。
noteの記事としたら少々長めだが短編小説である。
花澤さんはご自身の作品について登場人物にこのように言わせている。
終着点をめざすものではない。
物語が始まるまでの物語 (『最後の祈り』から抜粋)
それらしい起承転結を目指しているわけではないのだ。とあるシーンや心情の切り取り。そこに至るまでの葛藤や関係性。言われてみれば人生そのものだってきれいな起承転結があるわけではない。
小説は最初の一文が大切だとよく言われるが、本書ではラスト一文に余韻を感じさせるものが多かった。特に人物の主観(や動作)が直接書かれていない一行に惹かれた。
ふと顔を上げると、東京駅のほうに小さな雲が二つ浮かんでいる。(『小さな雲が二つ』)
空が不気味なほど真っ赤に燃えていた。(『あしたてんきになあれ』)
鳩時計が一度だけ鳴いた。(『鳩時計』)
一羽のかもめが太陽を横切った。(『思わぬ告白』)
遠くで犬の鳴き声が重なった。(『ロンドン・コーリング』)
(〜略)ターコイズブルーのスカートがしなやかにはためくその姿がダンスのように見える。(『それがダンスになる』)
川はいつまでも流れている。(『川はいつまでも流れている』)
なんか素敵でしょう?
文脈をとっぱらって抜き出すと、ここから文章が続いていっても何ら違和感がない。ってところが面白くないですか?
創作初心者のわたしにとって、短編小説の面白さや奥深さを十分に感じられる読書体験だった。
花澤さん、ありがとうございました。(文章内に記事のリンクを貼らせていただきました。)
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