渡鳥さん『99:1』感想文
渡鳥さんの小説『99:1』を読みました。
物語が壮大で熱量も高く、わたし自身十分に咀嚼できているとは言えないのですが感想文を書かせていただきます。(ネタバレタグをつけてますが、ネタバレにはできるだけ注意しておりますので未読の方もご一読いただけたら幸いです)
渡鳥さんは物語の引き出しをたくさんお持ちです。
この作品でもそれぞれが一つの完結した物語と言っても過言ではない、テイストの異なる五つの世界が順に語られます。読み手は世界観の変化にとまどいながらも最終的にはそれらが有機的に絡み合い、ひとつの結末に向かいます。
舞台は近未来。産み分け技術によって男女の人口が99:1になってしまった世界。こう書くとSFぽいのですが、女性が極端に少ない世界ゆえに作られた「とんでもないルール」に右往左往する人々や、自分の信念との板挟みに苦しむ主人公が圧倒的な筆力で描かれていて、人間ドラマの醍醐味も存分に味わえました。
本作品の大きなテーマである人間の「性」、ジェンダー。
現実世界と同じように、暴力や支配にいとも簡単に結びついてしまう悲しい(あるいはおぞましい)エピソードも描かれています。男女の人口差は社会構造や価値観にも大きな影響を与え、制度としての暴力も生まれていました。
また、この作品には両性具有者(アンドロギュノス)が登場するのですが、彼らは希望の星として神聖視される一方、好奇な性的対象とみなされたり研究施設に閉じ込められたり特異な人生をたどらざるを得ません。(それでも研究者たちの葛藤や善意が伺えるのが救いでした)
現実の世界でも性の多様性とか人間とAIの融合とか、倫理の問題も孕むようなさまざまな変化が押し寄せていますが、暴力や支配構造の根源となってしまう「性」って一体なんなんだろうと考えさせられました。
ラスト、物語はある含みを残して終わりを迎えます。余白を残すことで「あなたならこの先どうしますか?世界はどうなると思いますか」と作者の渡鳥さんからやんわりと問われている気がしました。
読む方の興味や経験によって、さまざまな問題意識を呼び起こす作品かもしれません。他の方の感想も読んでみたいですし、渡鳥さんの執筆の背景などもあとがきとして書いていただけたらなーとひそかに期待しております。
ささ、ここからは推し語りです。
少々のネタバレがありますのでご注意を。
なんといっても4章がメロいです。
16話がめっちゃ切なくて上弦ファン爆誕!です。
ですがですが!
わたしのお気に入りは1章です。
主人公はロシアンという名の少年。
女性が神格化される少々狂った世界にあっても生き生きと成長し、サーカスの少女への淡い初恋を経て新たな世界に旅立ちます。
エグい裏切りもあるけれど、ケストナーやエンデ的な少年少女の明るく健全な未来を感じました。(エンデには「サーカス物語」という本もありますし)
ロシアンが新しい呼吸法と体の使い方を習得するシーン。ここの詩的な描写が印象的で、個人的には古き良き少女漫画(萩尾望都とか竹宮恵子とか)を彷彿とさせられました。
最後の一行はジュブナイル小説として圧巻の胸熱ものです。
さあ踊れ。愚か者のダンスだ。高く跳べ。夜明けを目指して。ヨーソロー!
渡鳥さんが船出するとき、わたしも(船の外からだけど)こうエールを伝えたい。
ヨーソロー!
#渡鳥さん
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