【創作】10年後。百町森のふたり|シロクマ文芸部
ハチミツは坊っちゃんの好物だった。
10年ぶりに帰ってみようか。あの森へ。
🍯
百町森の木の下に、はたしてクロスをかぶせたローテーブルは、まだあった。白かったクロスは薄汚れてボロボロに。テーブルやその周りには空き缶や空き瓶、紙皿やカップ容器が散乱している。
そこに、キャンプ用のリクライニングチェアでだらしなく居眠りしている男が一人。
枯れ草を踏みながらそっと近付く。
「クリストファー坊っちゃん」
ボサボサの茶色の髪の毛が顔半分を覆っている。口周りにはうっすらと光る髭。
「坊っちゃん、プーにございます」
「んあ?」
前髪の隙間からどんよりしたまなこが覗いた。
「うわっ!お前、プーなのか!?」
居眠り男が慌てて上半身を起こす。
「お久しぶりでございます」
「ってか何なの、お前デカくない?しかもクマなのに背広にネクタイ?ほっぺの傷はどうした?」
「世間に出れば色々ございます」
居眠り男は信じられないとばかりに頭を振る。
「ところで坊っちゃん、この暮らしぶりはいかがなものかと。仕事はなさってますか」
「お、大きなお世話だろ!今からちょっくらモノ運ぶ仕事行ってくる」
「失礼ですが、マイナンバーを見せろと言われましたか」
「あ?ああ」
「…行ってはいけません。犯罪に加担させられます」
「は??いやいやいや。行かねえと家に連絡行っちまうし金も欲しいし」
ジダバタ反論する坊っちゃんから連絡先を聞き出し、坊っちゃんの代わりにキャンセル電話を入れる。ドスをきかせればチンピラなど一発だ。伊達に世間の荒波に揉まれてるわけじゃない。
坊っちゃんはしょんぼりして、テーブルの上のカチコチのホットケーキにポリ容器のハチミツをにゅるんとかけた。ゴミだらけのテーブルをよく見れば、カセットコンロや汚れたボウルや泡立て器、食べかけのイチゴ飴やチョコバナナも並んでいる。
「あなたは相変わらずですね」
「あ?」
「スイーツ作りがお好きならカフェでもやったらどうです?黄熊組がお手伝いしますよ」
「は?キグマぐみ?や◯ザもんに手伝ってもらってもよ、俺がマヌケだから上手くいくはずねえよ。ほら、うちのオヤジが世間に拡散しちまっただろ?俺がハチミツ欲しさに青い風船にぶら下がったり、食いすぎてウサギの穴にハマっちまったり。こんなアホでマヌケなヤツの店に誰が来るかよ」
「…あなたは誤解しています」
「へ?」
「ご存知ないのですか?あなたのアホな行いは、すべてこのプーがやったこととしてお父様は本にお書きになりました。逆に、あなたは賢くて勇敢な男の子として描かれていますよ。世間では、アホなプーのやることなすことが、アホだからこそ愛されてるのです」
「…は?」
「自信を持ってください。アホは正義です。アホは生きるパワーです」
坊っちゃんの前にひざまずき、敬愛のしるしに優しくその手に触れた。そして、あっけに取られた坊っちゃんをリクライニングチェアから引き起こす。
「お、おい、何すんだよ!降ろせよ!」
坊っちゃんはあまりにも華奢で、10年ぶりの抱擁はお姫様抱っこになってしまう。
それはそうと、百町森でカフェを開く前にどこかで修行してもらうのもいいだろう。祭りのテキ屋で一緒に甘いもんでも作ろうか。
ああ。腕の中で暴れまくる坊っちゃんの口元は、あの頃みたいにハチミツだらけじゃないか。
「坊っちゃん、失礼します」
そっとひと舐めした。(約1400字)
や●ザ風のプーと、やさぐれたクリストファー・ロビン。
『くまのプーさん』のゆるい二次創作です。
シロクマ文芸部のこちらのお題に参加します。よろしくお願いします。
サムネ画像は白黒ええよん様からお借りしました。
それではごきげんよう!
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