【脱・機能訓練デイサービスVol.67】3Dプリンタを使った自作補助具ワークショップ
「欲しい道具は、自分たちで作る!」――3Dプリンタを活用した自作補助具づくりが、利用者の創造性と自立支援を広げています。その実践例と運用の工夫を紹介します。
1. 3Dプリンタ導入の目的と準備
なぜ今、デイサービスに3Dプリンタなのか
「3Dプリンタ」と聞くと、製造業や教育現場のツールというイメージが強いかもしれません。しかし近年、福祉・介護の現場でも注目を集めています。その理由は、「一人ひとりに合った、世界でたった一つの補助具」を、低コストで作れるからです。
従来の補助具(自助具)には、次のような課題がありました。
既製品の課題
サイズや形状が合わない
高価(数千円〜数万円)
欲しい機能がない
入手までに時間がかかる
オーダーメイドの課題
さらに高価(数万円〜十数万円)
作成に数週間〜数か月かかる
修理や作り直しが困難
一方、3Dプリンタを使えば、次のようなメリットがあります。
低コスト:材料費は数十円〜数百円
短時間:数時間〜1日で完成
カスタマイズ自由:何度でも作り直せる
当事者参加:利用者自身がデザインに関われる
さらに、3Dプリンタを使った「ものづくり」のプロセスそのものが、利用者の創造性や意欲を引き出し、リハビリテーションの一環にもなります。
3Dプリンタでどんな補助具が作れるのか
実際にデイサービスで作られている補助具の例をいくつか紹介します。
日常生活動作(ADL)支援系
太くて握りやすいスプーン・フォークの柄
ボタンホルダー(ボタンを留めやすくする道具)
ペットボトルオープナー(蓋を開けやすくする)
靴べらの延長グリップ
ドアノブアダプター(握力が弱くても回せる)
リハビリ・訓練系
指のリハビリ用グリップ
可動域訓練用の角度計
バランス訓練用の台
パズル型の認知訓練教材
趣味・創作系
筆やハサミの持ちやすいグリップ
編み物針のホルダー
園芸用のミニスコップ
カードゲーム用のカードホルダー
コミュニケーション支援系
文字盤ボードのスタンド
スマホ・タブレットのホルダー
拡大鏡の台座
これらはほんの一例で、アイデア次第で無限の可能性があります。
導入準備:機材・人材・環境
必要な機材
初めて3Dプリンタを導入する場合、次のような機材・ソフトが必要です。
3Dプリンタ本体
価格帯:3万円〜10万円程度(家庭用・教育用)
おすすめ:操作が簡単で、安全性が高いもの
例:Creality Ender-3、Anycubic Kobra、Flashforge Adventurer など
3D CADソフト(設計用)
無料のもので十分:Tinkercad、Fusion 360(無料版)、Blender
直感的に操作できるTinkercadが初心者向け
パソコン・タブレット
CADソフトが動作するスペック(通常のPCで十分)
フィラメント(材料)
PLA樹脂が扱いやすくおすすめ
価格:1kgで2,000円〜3,000円程度
色を複数用意すると楽しい
必要な人材
デイサービス職員(企画・進行役)
3Dプリンタに詳しい協力者(ボランティア、学生、企業技術者)
作業療法士や理学療法士(補助具の設計アドバイス)
環境整備
作業スペース(3Dプリンタの設置、作業台)
換気(プリント中に若干の臭いが出るため)
安全管理(プリンタのノズルは高温になるので注意)
予算の目安
初期費用:10万円〜15万円程度(プリンタ、PC、フィラメント、工具など) ランニングコスト:月5,000円程度(フィラメント、電気代)
2. 利用者・職員・学生が協働する制作プロセス
ワークショップの基本的な流れ
3Dプリンタを使った補助具づくりは、次のようなステップで進めます。
ステップ1:困りごとの発見と共有
利用者が日常生活で「不便だな」「こんな道具があればいいのに」と感じていることを、みんなで話し合います。
毎朝の洗顔で、蛇口をひねるのが痛い
箸を持つと手が震えて落としてしまう
リモコンのボタンが小さくて押しにくい
編み物が好きだけど、針を持つと手が疲れる
こうした「小さな困りごと」が、補助具づくりのスタート地点です。
ステップ2:アイデア出しとスケッチ
「どんな形にしたら使いやすいか?」を、利用者・職員・ボランティア学生が一緒に考えます。
紙に絵を描いてみる
既存の道具を参考にする
粘土で簡単な模型を作ってみる
ここで大切なのは、「完璧でなくていい」という雰囲気づくり。利用者が「私にはアイデアがない」と遠慮しないよう、「まずは思いついたことを何でも言ってみましょう」と促します。
ステップ3:3D設計
アイデアをもとに、3D CADソフトで設計します。この作業は、主に学生ボランティアや職員が担当しますが、利用者も一緒に画面を見ながら参加することが重要です。
「この部分、もう少し太くしてください」
「ここに滑り止めの溝を入れたらどうでしょう?」
利用者の意見を即座に反映させることで、「自分で作っている」実感が生まれます。
ステップ4:3Dプリント
設計が完了したら、いよいよプリント開始。小さなものなら1〜2時間、大きなものでも半日程度で完成します。
プリント中は、利用者と一緒に見守ります。「だんだん形になっていく」様子を見ることが、期待感とワクワク感を高めます。
ステップ5:試用と改良
完成した補助具を実際に使ってみて、感想を聞きます。
使いやすかった点
改善してほしい点
新たに気づいた課題
改善点があれば、再度設計を修正してプリント。このトライ&エラーのプロセスが、創造的思考を育てます。
ステップ6:共有と展示
完成した補助具と、その製作エピソードを写真やコメントとともに掲示板に展示します。他の利用者の刺激になり、「私も作ってみたい」という意欲が広がります。
協働の役割分担
利用者の役割
困りごとの共有
アイデア出し
試用とフィードバック
他の利用者への紹介・説明
職員の役割
全体のコーディネート
安全管理
利用者の意欲引き出し
記録と評価
学生ボランティアの役割
3D設計の実作業
プリンタ操作
技術的なサポート
新しいアイデアの提案
作業療法士・理学療法士の役割
補助具の機能性アドバイス
人体工学的な視点からの助言
リハビリ効果の評価
この「多世代・多職種協働」こそが、ワークショップの醍醐味です。
3. 実際に作られた補助具と使用感の声
事例①:太くて握りやすいスプーン(80代女性・Aさん)
困りごと
関節リウマチで指の変形があり、細いスプーンが握れない。市販の太柄スプーンは高価で、好きなデザインがない。
作ったもの
既存のスプーンの柄に装着する、太い円筒形のグリップ。内側にスプーンの柄がすっぽり入る構造。
工夫した点
表面に細かい溝をつけて滑り止め
Aさんの好きなピンク色のフィラメントを使用
軽量化のため、内部を空洞にした
使用感
「自分だけのスプーンができて嬉しい。握りやすくて、食事が楽しくなりました。ピンク色なのも気に入っています」
リハビリ効果
食事の自立度が向上
食事時間が短縮(疲労の軽減)
意欲的に他の補助具も作りたいと希望
事例②:ペットボトルオープナー(70代男性・Bさん)
困りごと
脳卒中の後遺症で右手に麻痺があり、ペットボトルの蓋を開けられない。家族に頼むのが申し訳ない。
作ったもの
ペットボトルの蓋にはめて、てこの原理で開けやすくするアダプター。
工夫した点
Bさんの左手(健側)で操作できる形状
複数のペットボトルサイズに対応できる調整機構
カラフルな色で目立つように
使用感
「これなら自分で開けられる!妻に頼まなくていいから、気が楽になった。学生さんが一緒に考えてくれて、若い人と話すのも楽しかった」
波及効果
自信がつき、他の動作にも積極的にチャレンジするように
家族の介護負担が軽減
デイサービスで他の利用者にも紹介し、同じものを複数製作
事例③:カードホルダー(75歳女性・Cさん)
困りごと
パーキンソン病で手が震え、トランプやUNOのカードを持つのが難しい。孫と遊びたいのに諦めていた。
作ったもの
カードを立てて並べられるスタンド型ホルダー。カードを差し込むだけで自立する。
工夫した点
カードの厚みに合わせた溝の幅
軽くて持ち運びやすい
Cさんのリクエストで花柄の装飾を追加
使用感
「孫がうちに来たとき、一緒にUNOができました。『おばあちゃん、すごいね』と言われて、本当に嬉しかった。自分で作ったって言ったら、孫も驚いていました」
家族の声
「母が生き生きとしていて驚きました。『できない』と諦めていたことが、道具一つでできるようになる。そして、その道具を自分で作れる。母の可能性を改めて感じました」
事例④:指リハビリ用グリップ(68歳男性・Dさん)
困りごと
指の可動域が狭く、リハビリが必要だが、既製のリハビリ器具は単調でつまらない。
作ったもの
握力や指の動きに応じて難易度を変えられる、パズル型のグリップ。
工夫した点
レベル1〜5まで、徐々に難しくなる設計
達成感を感じられるよう、クリアしたらシールを貼るシート付き
カラフルで楽しい見た目
使用感
「ゲーム感覚でリハビリができて面白い。レベル3までクリアできたので、次はレベル4を目指しています」
リハビリ効果
自主訓練の頻度が増加(週2回→毎日)
握力が5kg向上
他の利用者とも「どこまでクリアした?」と競い合う
4. テクノロジーが生む「自立支援×創造支援」の新形態
3Dプリンタがもたらす5つの変革
変革①:受け身から主体へ
従来、補助具は「与えられるもの」でした。しかし、自分で考え、作るプロセスに参加することで、利用者は「受け身の患者」から「創造的な主体」に変わります。
変革②:失敗を恐れない文化
3Dプリンタなら、失敗してもすぐ作り直せます。「やってみよう」「ダメだったら直せばいい」という前向きな姿勢が育ちます。
変革③:世代間・職種間の協働
学生と高齢者、職員とボランティア、専門職と素人——。立場の違う人たちが対等に意見を出し合い、一つのものを作り上げる。これが新しいコミュニティを生みます。
変革④:個別性の尊重
「世界でたった一つ、自分だけの道具」という特別感が、愛着と使用意欲を高めます。
変革⑤:デジタルとアナログの融合
最先端のテクノロジー(3Dプリンタ)を使いながら、実際に手で触れ、試し、改良する——。デジタルとアナログの良いとこ取りができます。
認知機能・身体機能への効果
3Dプリンタを使ったものづくりは、リハビリテーションとしても優れています。
認知機能への効果
企画力:どんなものを作るか考える
空間認識:3Dの形をイメージする
問題解決:うまくいかないとき、どう改善するか考える
記憶:作業の手順を覚える
言語:自分の考えを説明する
身体機能への効果
巧緻性:細かい作業(CAD操作、組み立て)
協調運動:目と手の連動
持久力:長時間の作業に集中
社会性への効果
コミュニケーション:他者と協働
役割:教える・教わる関係
達成感・自己肯定感:作品の完成
地域への波及効果
デイサービスでの3Dプリンタ活用は、地域全体に良い影響を及ぼします。
効果①:地域の工業高校・大学との連携
3D設計や製造を学ぶ学生にとって、高齢者の補助具づくりは実践的な学びの場になります。双方向の学びが生まれます。
効果②:地域企業のCSR活動
地元の製造業や3D関連企業が、技術支援や寄付(機材・材料)で協力するケースも増えています。
効果③:補助具のオープンデータ化
デイサービスで作った補助具の設計データをオープンソースとして公開すれば、全国の人が無料でダウンロードして使えます。実際に、補助具の設計データを共有するウェブサイトも登場しています。
効果④:「テクノロジー×福祉」の先進事例
3Dプリンタを活用するデイサービスは、メディアに取り上げられやすく、地域の認知度向上や職員採用にもプラスになります。
運用上の工夫と留意点
工夫①:「失敗OK」の雰囲気づくり
完璧を求めず、試行錯誤を楽しむ文化を大切にします。
工夫②:小さな成功体験の積み重ね
いきなり複雑なものを作るのではなく、簡単なものから始めて達成感を味わいます。
工夫③:展示と共有
作った補助具を展示し、他の利用者や家族、地域住民に見てもらうことで、モチベーションが上がります。
留意点①:安全性の確認
作った補助具が、安全に使えるか、専門職(作業療法士など)がチェックします。
留意点②:著作権・意匠権への配慮
既存製品のコピーは著作権侵害の可能性があるため、オリジナルデザインを心がけます。
留意点③:過度な期待を持たせない
3Dプリンタは万能ではありません。できること・できないことを正しく伝えます。
まとめ:補助具づくりが開く「共創」の未来
3Dプリンタを使った補助具づくりは、単なる道具の製作にとどまりません。それは、高齢者が「支援される側」から「創造する主体」へと変わり、若者や専門職と対等に協働する——「共創」の場を生み出します。
3Dプリンタ活用の3つの意義
個別最適化
一人ひとりに合った、世界でたった一つの補助具創造的リハビリ
脳と体を使い、楽しみながら機能を維持・向上世代を超えた協働
高齢者・学生・職員が一緒に学び、作り、喜びを分かち合う
「脱・機能訓練デイサービス」とは、決められたメニューをこなすのではなく、利用者の可能性を信じ、新しいチャレンジを共に創り出す姿勢です。3Dプリンタは、その理念を実現する強力なツールになります。
「欲しい道具は、自分たちで作る」——。その挑戦が、高齢者の生活を、そして地域の未来を変えていきます。
P.S 脱・機能訓練を目指す方々へ
脱・機能訓練を目指したいけど、何からやって良いか分からない方へ朗報です。
私が所属している療法士活性化委員会では、ここでは伝えきれない方法論をコラムやセミナーという形で随時お伝えしています。ご興味がある方は下のリンクからご覧ください。共に脱・機能訓練を目指しましょう!
◯ 脱・機能訓練を学べるコラムはこちらから👇
(11/8時点でVol.29まで全編無料公開中)
◯脱・機能訓練を学べるセミナーの詳細はこちら👇
(次回2期の日程は未定です。代わりに、現在アーカイブ動画を販売しています。ぜひご覧ください!)
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!