【脱・機能訓練デイサービスVol.149】「何かやりたいことはありますか?」——その質問では、本音は引き出せていない【HOPE面接の質問例5選】
この問いかけをしたとき、利用者さんからどんな返答が返ってきますか?
「別に……特にないですね」 「先生にお任せします」 「もう歳だから、何もできないよ」
こんな言葉が返ってくるたびに、「この方にはHOPEがないのかな」と感じてしまったことはないでしょうか。
でも、私の経験上、HOPEがない人はほとんどいません。
「言葉にできていないだけ」「聞いてもらえると思っていないだけ」「自分の望みを持っていいとわかっていないだけ」——HOPEは、ほぼ必ずそこにある。ただ、聴き方次第で、出てくるかどうかが変わるのです。
前回の記事では、4次元アプローチの基本構造について解説しました。そのフレームの中心に置くのが「HOPE」です。今回は、そのHOPEをどう引き出すか——具体的な質問例を5つ紹介します。
なぜHOPEが引き出せないのか
まず、「なぜうまく聴けないのか」を整理しておきましょう。
問題①:質問が抽象的すぎる
「やりたいことはありますか?」は、実は難易度が高い質問です。
人は、抽象的な問いに対して「抽象的な答え」か「沈黙」で返します。「やりたいこと」と突然言われても、頭の中に具体的なイメージが浮かびにくい。特に、長い療養生活や障害の受容過程にある方にとって、「自分がやりたいこと」を問われることは、時に苦痛にすらなる。
問いが抽象的なほど、HOPEは引き出せません。
問題②:医療者主導の面接になっている
「次の目標は何にしますか?」「リハビリで何を頑張りたいですか?」——これらは、知らず知らずのうちに「リハビリの枠内での答え」を求めています。
利用者さんはそれを感じ取って、「歩けるようになること……ですかね」と答えてくれる。でもその言葉の奥に、「孫の運動会を見に行きたい」という想いが隠れていることがある。
医療者のフレームで聴いていると、利用者さんの本当のHOPEは見えてきません。
HOPE面接の原則:「過去→現在→未来」と「具体化」
HOPEを引き出す面接には、大きな原則が2つあります。
原則①:過去から入る
「これからどうしたいか」を聴く前に、「これまでどう生きてきたか」を聴く。過去の生活・好きだったこと・大切にしていた習慣——そこに、その人のHOPEの種があります。
「昔よくやっていたことは何ですか?」「若い頃、夢中になっていたことは?」——過去の話は、人が最も自然に語れるテーマです。過去を語ることで、「自分らしさ」が再び意識されていく。
原則②:具体化する
「やりたいこと」は、「いつ・誰と・どこで・何をする」という形に落とし込むほど、HOPEは鮮明になります。
「家族と過ごしたい」→「息子家族が月に一度来てくれる。そのとき一緒に鍋料理を作りたい」 「外に出たい」→「毎週木曜日に行っていた駅前のスーパーに、一人で買い物に行きたい」
具体的になるほど、介入の方向性も定まってくるのです。
HOPE面接の質問例5選
では、実践で使える質問を5つ紹介します。
質問① 「昔よくやっていたことは何ですか?」
目的:過去のHOPEの種を掘り起こす
「今やりたいこと」を聴く前に、「かつての自分」を思い出してもらうための問いです。
人が自分らしさを感じる瞬間は、たいてい「昔からやってきたこと」の中にあります。料理、庭仕事、書道、釣り、コーラス、孫の世話——何気ない日常の中に、その人の「生きがい」が詰まっています。
この問いで出てきた「昔のこと」が、そのままHOPEになることも多い。「また庭に出られるようになりたい」「また歌が歌いたい」——それが、リハビリの目標になる瞬間です。
質問② 「今、できたら嬉しいことは何ですか?」
目的:現在の小さな願いを拾う
「やりたいこと」より少しハードルを下げた問いです。「嬉しい」という感情ワードを使うことで、「できるかどうか」ではなく「望んでいるかどうか」を聴いています。
「できたら嬉しいこと」は、「今の生活で少し困っていること・物足りないこと」と裏表です。「トイレに一人で行けたら嬉しいな」「夜中に目が覚めずに眠れたら」「鏡の前でちゃんと整えてから出かけたい」——小さな願いの中に、豊かな生活への道筋があります。
質問③ 「もし1日自由な時間があったら、何をしたいですか?」
目的:制限なしの「本当のやりたいこと」を引き出す
「できる・できない」「現実的かどうか」を一旦脇に置いてもらうための問いです。日常の制約(体の限界、家族への気遣い、経済的な事情)から自由になったとき、人は自分の本音に近づきやすくなります。
「温泉に行きたい」「映画を観に行きたい」「昔住んでいた土地をもう一度見てみたい」——一見"現実離れ"に見える答えでも、そこには本物のHOPEがある。それを聴いた後で、「そのためには何が必要だろう?」と一緒に考えることが、支援の始まりになります。
質問④ 「誰と、何をしたいですか?」
目的:参加・つながりの次元のHOPEを引き出す
「何をしたいか」だけでなく、「誰と」を加えることで、HOPEの輪郭がぐっと鮮明になります。
人間のHOPEは、他者との関係性の中にあることが多い。「息子と話がしたい」「孫に手料理を食べさせたい」「昔の友達ともう一度会いたい」——こうした言葉の中に、その人が「自分らしくいられる関係性」が見えてきます。
4次元アプローチでいう「参加」の視点を、この質問から開いていくことができます。
質問⑤ 「今、一番困っていることは何ですか?」
目的:生活上の課題からHOPEを逆算する
HOPEは、「夢」だけではありません。「困っていることが解消される状態」もまた、HOPEです。
「夜、トイレに間に合わないのが一番つらい」「お風呂に入るのが怖くて、週1回しか入れていない」「膝が痛くて、台所に立てない」——こうした困りごとは、「解消されたらどうなりたいか」という問いに変換することで、HOPEとして再定義できます。
「では、夜のトイレが安心してできるようになったら、どんなことができそうですか?」——困りごとをHOPEの入口にする問い方が、実践ではとても有効です。
デイサービスでの活用:HOPEをプログラムへ反映する
HOPEが聴けたら、次は「それをどう支援に活かすか」です。
プログラム設計への反映
「庭仕事がしたい」というHOPEがあれば、立位保持訓練を「庭での作業姿勢」をイメージした内容に変えられます。「孫に料理を作りたい」なら、手指の巧緻性訓練を「包丁動作・盛り付け動作」に近づけられる。
HOPEは、訓練の「意味」を変えます。同じ運動でも、「なぜやるのか」が明確になったとき、利用者さんの表情は変わります。
スタッフ全員でHOPEを共有する
HOPEは、OT・PTが聴いて「記録に書くだけ」では機能しません。
介護スタッフ、看護師、管理者——関わる全員がHOPEを知っていることで、「Aさんは庭仕事がしたいんだから、今日のレクの花の飾りつけを一緒にやってもらおう」「Bさんは孫に料理を作りたいから、おやつ作りに誘ってみよう」——日常の小さな場面でHOPEが動き始めます。
HOPEは、多職種の「共通言語」になる。それがデイサービスの強みであり、4次元アプローチの真骨頂です。
「聴き方」が支援の質を決める
HOPEを引き出す面接は、テクニックではありません。
「この人の生活を、本当に知りたい」という姿勢が、言葉以上に伝わります。利用者さんは、自分の話が「記録用紙に書き込まれている」と感じれば口を閉ざすし、「本当に聴いてもらえている」と感じれば、思いがけず深い言葉を語ってくれます。
質問の形より先に、聴く姿勢を整えること。それが、HOPE面接の本質だと私は思っています。
「何かやりたいことはありますか?」——この問いかけに「ないです」と返ってきたとき、それはHOPEがないのではなく、まだ聴けていないだけかもしれません。
5つの質問を、ぜひ明日の現場で試してみてください。
まとめ
「やりたいことはありますか?」という抽象的な問いではHOPEは引き出しにくい
HOPE面接の原則は「過去→現在→未来」の流れと「具体化」
実践で使える5つの質問:
「昔よくやっていたことは?」(過去のHOPEを掘り起こす)
「できたら嬉しいことは?」(現在の小さな願いを拾う)
「1日自由ならば何をしたい?」(制限なしの本音を引き出す)
「誰と、何をしたい?」(参加・つながりのHOPEを聴く)
「今、一番困っていることは?」(困りごとをHOPEに変換する)
HOPEは多職種で共有することで、日常のケアに活きる
次回は、**「活動と参加をつなぐ記録法」**を解説します。せっかく聴いたHOPEが記録の中に埋もれてしまわないよう、"次の介入につながる記録"の書き方をお届けします。
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