巴屋 玉屋 越前屋

巴屋、玉屋、越前屋の位置を全体図で把握

 雪旦画「亀戸宰府天満宮」の全体図で巴屋、玉屋、越前屋の位置が確認できます。三枚続きのうちの左二枚です。

斎藤長秋編 雪旦画『江戸名所図会 下巻』一八九六頁  人物往来社
「亀戸宰府天満宮」三枚続きのうち左二枚
  国立国会図書館デジタルコレクションより

 それぞれの料理屋の上に色をつけてわかりやすくしました。青が玉屋、黄が巴屋、赤が小松川村の瀧の奉公先、越前屋です。

巴屋

 国立国会図書館デジタルコレクションで巴屋を検索すると、片田舎から出てきた百姓左衛門が江戸を見物する筋の草双紙に、巴屋の店内と思われる絵があります。

陀々羅大尽色主(他)(一八〇〇年)「見物左衛門:夫も京都是も東都」
『大江戸文庫』十頁 江戸芸術社
国立国会図書館デジタルコレクションより


 絵の上部分に文字があり、次のように書かれています。

此の日ハ天気もよけれバ、本所辺へ往くべしとて、五百羅漢より、梅屋敷、亀戸天神へ参詣しけるに、最早昼飯じぶんなれバ、かの巴屋へ寄りけるに、此の所の名物なれバとて、大蜆の吸物を出しけるに、見物左衛門ハ田舎にて、蜆といふもの喰ったこと無けれバ、富蔵が小便に行きし後にて、かの蜆汁を貝共に喰ひ、大きに歯を痛めける。
見物左衛門 「ヤレヤレ、大きに歯を痛めました」
富蔵 「これハしたり、貝とも (共)に喰ぬものでござる」 

 田舎者の左衛門が亀戸天神参詣後に巴屋へ寄り、名物の蜆汁を貝ごと食べて歯を痛めたという滑稽話です。
 草双紙は江戸時代に流行った絵入りの娯楽本で、草は本格的でないもの、双紙は冊子の意だと言われています。寛文期に赤い表紙の子供向けの絵本として刊行されたのが最初で、だんだんと大人が楽しめるものへと変化していきました。
「見物左衛門」は小松川村で瀧が生まれる四年前の寛政十二年(一八〇〇)に刊行されています。内容を見るに、江戸を知る者からは滑稽話として、田舎者からは江戸のガイド本として読まれていたと思われます。


 巴屋は「江戸名物酒飲手引草」に広告を出していました。

蒼先堂(一八四八年)「江戸名物酒飲手引草」蒼先堂蔵版
国立国会図書館デジタルコレクションより


 さらに巴屋の検索を続けていくと、安政二年の大地震を詳細に記録した「安政乙卯武江地動之記」に行きつきました。亀戸の被害状況について書かれた中に、「料理屋巴屋潰る」とあります。

亀戸天満宮無別状、普門院大破、梅屋敷清光庵潰、料理屋巴屋潰る、畫人豊国家小破

斎藤月岑 (一九一七年) 「安政乙卯武江地動之記」
十三頁 江戸叢書刊行会
国立国会図書館デジタルコレクションより 

 巴屋は安政二年(一八五五年)の大地震で潰れていました。巴屋の蜆汁が、「見物左衛門」が刊行された一八〇〇年時点ですでに江戸の名物となっていた事を考えると、最低でも五十五年以上は続いていた事になります。

 再び雪旦画「亀戸宰府天満宮」を見てみます。三枚続きの右端部分です。右上に文字があるので読んでみます。

斎藤長秋編 雪旦画『江戸名所図会 下巻』一八九六頁 人物往来社 
「亀戸宰府天満宮」三枚続きのうちの右端
国立国会図書館デジタルコレクションより

亀戸宰府天満宮   
当社の門前貨食店多く、各池州を構え鯉魚を畜う。

業平蜆もこの地の名産にして、尤も美味なり

 亀戸天神門前は料理屋が多く、各店生け簀を構え、業平蜆が名産だったと書いてあります。蜆汁が巴屋の名物になったのは、この地の名産である業平蜆を使っていたからかもしれません。

玉屋

 次に玉屋を画像検索したら広重画が出てきました。東京国立博物館所蔵のものです。

歌川広重(江戸後期)「江戸高名会席尽_亀戸裏門_玉屋」東京国立博物館

 裏門というのは亀戸天神の西門のことです。現在の裏門は東にありますが、瀧の時代は西にありました。かなり大きな料亭だったことがわかります。

「江戸買物独案内二巻付一巻 飲食之部」に、越前屋と玉屋が掲載されていました。

中川五郎左衛門(一八二四年)「江戸買物独案内二巻付一巻 飲食之部」中川芳山堂
国立国会図書館デジタルコレクションより

 江戸買物独案内とは大坂の版元、中川芳山堂の中川五郎左衛門が、江戸の店から出稿料をもらい作成したものです。この二店は広告を出せる程儲かっていたと思われます。瀧が越前屋の養女になり、妾奉公に出されていた一八二四年に出版されています。

越前屋

 越前屋は歌川国貞が描いていました。

国貞画(文政前期) 「当時高名会席尽 亀戸 越前屋」
立命館大学


 右上に越前屋の外観が描かれています。不鮮明ですが、店前に松があるのがわかります。国貞が亀戸の五ノ橋付近に住んでいた文政前期(瀧は妾奉公中で不在)に描かれたもののようです。女性はおそらく、当時人気だった芸者をモデルにしたと思われます。


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