作業療法の一環として「お金の稼ぎ方」を教えるのはアリか?ナシか?
精神科作業療法士として現場にいると、時々こんな疑問にぶつかる。
作業療法の一環として
「お金の稼ぎ方」を教えるのはアリなのか?
たとえば、
・フリマアプリで物を売る
・ハンドメイド作品を販売する
・簡単な副業を体験する
・SNSで小さく収益を作る
こうしたことを支援として行うのは、
リハビリなのか?それとも医療の逸脱なのか?
この問いは、実は日本だけではなく、
海外の精神科リハビリテーションでも議論されてきたテーマである。
今回は、日本と海外の事例を整理しながら、この問題を考えてみたい。
まず結論:世界の流れは「アリ寄り」
結論から。
世界の精神科リハビリテーションでは、
「収入につながる活動」は重要なリカバリー要素
と考えられている。
ただし条件がある。
ポイントはこの3つ。
・治療目的であること
・搾取構造にならないこと
・社会参加につながること
この条件を満たすなら、
むしろ積極的に行うべきという考え方が主流になりつつある。
では具体的に見ていこう。
日本の事例①
就労支援(IPSモデル)
日本で最も有名な例は
IPS(Individual Placement and Support)である。
IPSの考え方は非常にシンプル。
「準備が整うまで訓練する」のではなく
まず働く場所に出る
これを
place-then-train
と呼ぶ。
従来のリハビリは
訓練 → 就職
だった。
しかしIPSは逆。
就職 → 支援
である。
つまり
働いてお金を得る経験そのものがリハビリ
という思想だ。
これは精神科作業療法の常識を大きく変えた。
日本の事例②
就労継続支援B型
B型作業所では
・農作業
・パン製造
・軽作業
・ハンドメイド
などの作業が行われる。
ここで生まれた商品は販売され、
利用者には工賃が支払われる。
つまり
作業 → 収益 → 工賃
という構造である。
これは日本では
非常に一般的な作業療法的支援だ。
ただし問題もある。
平均工賃は
月1万〜2万円程度
と非常に低い。
そのため
リハビリなのか
安価労働なのか
という倫理的議論も続いている。
日本の事例③
金銭管理プログラム
精神科リハビリでは
金銭管理訓練
も重要なプログラムとして扱われる。
例えば
・家計簿
・予算管理
・支出計画
など。
これは
お金を扱う能力=生活能力
と考えられているからだ。
つまり
金銭教育はすでに
作業療法の領域に入っている。
海外事例①
ソーシャルエンタープライズ(クラブハウス)
海外の精神科リハビリで有名なのが
クラブハウスモデル
である。
ここでは
・カフェ
・印刷
・農業
・ITサービス
などの事業を運営する。
当事者が参加し、
場合によっては収入を得る。
これは単なる作業ではない。
社会の一員として働く経験
を提供することが目的である。
海外事例②
起業支援プログラム
アメリカやカナダでは
精神障害の当事者に対して
起業支援
が行われるケースもある。
例えば
・小さなビジネス
・オンラインショップ
・クリエイター活動
など。
研究では
自営業や小規模ビジネスが
・自己効力感
・社会参加
・生活満足度
を高める可能性が示されている。
海外事例③
金融リテラシー教育
欧米では
financial capability program
という支援がある。
内容は
・銀行口座の使い方
・クレジット管理
・投資詐欺の防止
・収入計画
など。
これは
精神疾患=経済的弱者
になりやすいという研究背景があるためだ。
では問題点は?
もちろん、
「お金」を扱うと必ず問題が出る。
代表的なものは3つ。
①医療と営利の境界
医療機関が
収益活動をすると
・労働搾取
・不透明な利益
という問題が起きる可能性がある。
これは海外でも大きな議論になっている。
②失敗体験のリスク
お金は
成功体験にもなるが
失敗体験にもなる。
借金
詐欺
炎上
こうした問題に巻き込まれる可能性もある。
③支援者の倫理
最大の問題はここ。
支援者が
・自分のビジネスに利用する
・労働力として使う
こうなると
完全にアウトである。
それでも私は「アリ」だと思う
精神科で長く働いていると
強く感じることがある。
それは
お金は
自己効力感の象徴
だということ。
はじめて
500円を稼いだ患者さんが
涙を流した場面を見たことがある。
その人の言葉はこうだ。
「社会に戻れた気がする」
これは
医療ではなく尊厳の問題なのだと思う。
作業療法として考えるなら
私の答えはこうだ。
お金の稼ぎ方を教えるのはアリ。
ただし条件がある。
それはリカバリーのためであることだ。
つまり、儲けることではなく社会との接点を取り戻すこと。
ここを外さなければ、
お金は
非常に強力な作業になる。
無理矢理まとめてみる
作業療法の本質は
「本人が望むことを本人の力で行えるよう支援すること」
である。
料理でもいい。
園芸でもいい。
そして場合によっては
ビジネスも作業になり得る。
問題は
「お金を扱うこと」ではない。
問題は
どう扱うか
なのだと思う。
あなたはどう思う?
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