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遊藝黒白 第2巻「音符ではなく、音楽を」#3 フランスの奏法が現代のものに変わった話


この本、思いがけず奏法や楽派の話を知ることができ、とても興味深いです。


この巻を読んでいたのは実は2019年です。
この頃、ピアノ界隈ではロシアン・メソッドやらロシアピアニズムという言葉が登場し、色々と動画が出てきたり、書籍が出てきたりしておりました。

偶然にも、私もロシアンピアノスクールのメソッドに基づいたウクライナ出身の先生が作られた教本を使い始めて1年以上経っておりましたので、何やらあちこちから様々な奏法が聞こえてきており、流派のようなものが存在するのかと思っておりました。

そのような時にこの巻を読み、興味深いことが書かれておりましたので、ちょっとだけフランスの話を。


例の50年以上前に誰も使わなくなったというマルグリット・ロンやデカーヴ等の奏法。ハイフィンガー奏法と言われるもの。

フランスではちょうどベロフ、ロジェ、ルヴィエ、ジャン=フィリップ・コラール等の年代がその過渡期だったようで、学生の頃に奏法を直したり、両方を上手く取り入れたりしたようです。

彼らは1950年前後に生まれています。9~16歳でパリコンセルヴァトワールに入学しています。
その頃にロン一派の奏法では軽く速く弾けるが音色に乏しく乾いた音しか出せない。その奏法は好きではなかったとロジェ以外は言っています。(ロジェはロンのテクニックや演奏スタイルには全く興味がなかったと。楽曲の解釈や作曲家について教えてほしかったと。)

ロジェの場合はロン一派の奏法ではありませんが、ロンがテクニックについて教えることはなかったのだそうです。(ロンは、独学で弾いていた9歳のフランソワに自分の奏法を押し付けることは全くしなかったのだそうです。不世出の天才。絶対に変えることはしてはいけないと言って。)


サンカンという16歳からピアノを始めたピアニスト・作曲家がいて、彼は人間の体の筋肉の構造をよく研究していて、どう使ったらどんな音が出せるのか熟知していたそうです。ロシアの奏法もよく知っていたそうです。

ジャン=フィリップ・コラールが、難しかったことは新しい奏法を覚えることではなく古い奏法を忘れることだったと言っています。
原田英代さんも全て忘れて学び直したと本に書かれています。

コラールの話で笑ってしまったのが、その頃サンカンのような奏法で教える教師はいなかったらしく、学院内の教師たちが、
「サンカンの頭は狂ってる!あんな怪しい方法で教えている教師の所には絶対に行ってはいけない!行ったら頭がおかしくなる!」
と言っていたそうで・・

私は2017年にロシアンピアノスクールのメソッドで重力奏法を教え始めたところ、「こんな教え方はおかしい」とピアノ経験者の保護者の方が多くいる地域でことごとく入会を断られました・・

頭がおかしいと思われてたのかな・・


コラールは17歳でサンカンの所に行ったそうですが、サンカンに「今のテクニックをそのまま維持しても良いですが、もしあなたが学びたいと思うなら私は違う奏法を教えることができます」と言われ新しい世界を開いてくれたと言っています。

これらの話をベロフが上手くまとめています。

もう絶対にこの本はピアノの先生方に読んでいただきたい!!

フランスでは今70代のピアニストたちが奏法の過渡期にあって古い奏法を捨てたわけです。
ベロフらが10代の時に変わったということは60年位前には現代の奏法に変わっていったということです。

日本では過去の奏法はまだ現役です・・

ベロフが古い奏法はすでに歴史になっていて誰も使っていない。私たちはピアニストになりたいのであって「フランスのピアニスト」になりたいのではないと言っています。
限られたテクニックと限られた曲に満足して自己陶酔に陥っていても意味はないと言っています。

コラールはロン等は奏法を変えようとはしなかった。なぜなら自分たちの演奏に誇りを持っていたことと、フランスの聴衆がその速くて軽い演奏を好んでいたから、と。


余談ですが、昨年過去のプログラムを整理しておりましたら、海外で少しだけレッスンを受けた先生のコンサートのものが出てきました。

こんな曲を演奏されていたのかと懐かしく見ておりましたら、プロフィールの所に「パリコンセルヴァトワールにて、ピエール・サンカン教授の指導を受け・・」とあり、驚きました。

あのサンカンのお弟子さんとは・・

最初に見ていただいたモーツァルトで、内田光子さん以来の衝撃を受けました。

ベルベットのようなタッチで信じられないほど柔らかくふわりとした音。
横で弾いていらっしゃるのに、音がサラウンドで後ろからも聞こえてきたりして、どこかにスピーカーでもついているのかと思わず振り返ってしまいました。

一体どう弾いたらあんなに音があちこちから降り注ぐように、しかも柔らかに舞い降りるのかと不思議でした。

もう私は弾かなくてよいから、ずっと聴いていたい、という演奏でした。


内田光子さんは学生の頃に、音楽番組のスタジオでの公開録画で初めて聴きました。40年以上前です。

全く存じ上げないピアニストでした。
しかし、その音を聴いた時に、すぐそばで弾いていらっしゃるのに打鍵の音ひとつせず、本当にその場で弾いていらっしゃるのかと思うほど。ピアノからそのような音が出るのかと、初めて聞く音でした。

当時は、ガンガン弾くのが上手い人という風潮があり、全くそうではないのに私には忘れられない演奏になりました。

ちょうどその頃から、モーツァルトの演奏で頭角を現し国際的な名声を得られていったようです。

その後、内田さんの生の演奏を聴いたのは、先ほどの先生のレッスンを受けに行った時に訪れた音楽祭でした。


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