クリームソーダ越しの景色【3つのお題に空想のひらめきを】
お題・昭和ノスタルジーに挑戦しました。
2,500字あります(;´・ω・)
お時間ある時に読んでいただけると嬉しいです!
よろしくお願いします。
🎈お題①:「カセットテープの恋」
🐾お題②:「夕暮れの赤電話」
⏳お題③:「ネオンの向こうの純喫茶」
『はい、今日も始まりました〜
"ケンちゃんのしゃべらNight"〜!!
しゃべらNightと言ってますが、朝聞いても、昼聞いてもええですよ〜』
こよりは、カセットから流れる聞き馴染みのある声に耳を傾けていた。
小さな村育ちのこよりは、高校を卒業し、美術系の学校に進学した。
大きな街の中にある学校は、こよりの家からは通いづらかったため、一人暮らしをすることになったのだ。
カセットテープの声の主は、幼馴染のケンちゃんで、時々、ラジオ風のおしゃべりを録音したものを送ってくる。
夜、布団に入って、ふとした寂しさが込み上げた時、"ケンちゃんのしゃべらNight"を聞く。
しょうもなくて、アホらしい内容だけど、こよりをひどく安心させてくれるのだった。
ーーある日の夕暮れ時。
学校帰りに街角にある赤電話が目に入った。
(……あ、お米無くなりそうやから、実家に電話しようかな…。)
こよりは財布から小銭を取り出して、ダイヤルを回す。
何度かコールしたのちに
『もしもし』
と、姉のさつきの声が聞こえた。
「もしもし、お姉ちゃん!
こよりやで!
あんな、お米が少なくなってきたから…」
と、言いかけたところに、さつきの電話口の後ろから
『さつき〜
このたい焼き、食うてもええ〜?』
と、ケンちゃんの声が聞こえた。
『ええけど、今、電話中!!
こよりからやで!
しゃべる??』
『おお、こよりか!
しゃべる、しゃべる!!
こより〜元気にしとるんか〜??
オレがパーソナリティやってるラジオ、ちゃんと聞いとるんか〜??
感想の手紙、送ってくれてもええんやで〜!』
と、カセットテープから聞こえる聞き馴染みのある声でまくし立てる。
「元気、元気!!
ほんで聞いてるって!!
小銭、あんまりないからお姉ちゃんに用件伝えて!!
お米送ってー!
あと、手紙は気ぃ向いたら書くわ!」
『気ぃ向いたら書くて……
あんな、あれは聞き手のリアクションを取り上げながらやり取りしていくのが、おもしろ……』
追加の小銭を入れる前に、電話が切れてしまった。
きっと受話器を持ったまま"なんで切れんねん!小銭用意しとけ!"と文句言ってるケンちゃんを想像して、こよりは思わず笑いが込み上げてくる。
それと同時に、1人で住んでるあの部屋に帰る気分にはなれず、なんとなくブラブラとネオンの街の中を歩いていた。
すると、キラキラと光るネオンの中に、トンネルのような薄暗い地下階段があり、その入り口には『喫茶店まにまに』と書かれていた。
こよりは吸い込まれるように、地下階段を降りる。
木造の細くて急な階段はギシギシと音を立てる。
ステンドグラスのドアを開けると、カランと呼び鈴が鳴り、コーヒーの香りがふわりと鼻をくすぐった。
カウンターに立っているマスターが「いらっしゃいませ。お好きな席どうぞ。」と言う。
こよりは少し会釈して、端っこの2人掛けのテーブル席に座った。
メニューを見ると、クリームソーダがあったので、それを注文する。
店内の壁にはいろんな写真が飾られている。
そのうちの1つに山に沈む夕陽の写真があり、こよりは実家にいる頃によく見た景色を思い出す。
その隣にはケンちゃんがいつもいた気がする。
堰を切ったかのように、実家での思い出が次々と蘇り、胸の内側がギュッと締め付けられた。
(……帰りたい…。)
そう思った瞬間
「お待たせしました。」
ことり、とクリームソーダが目の前に置かれた。
小さな気泡を纏った緑色のソーダの上にはアイスと真っ赤なさくらんぼ。
こよりはクリームソーダを持ち上げて、ソーダ越しに店内を眺める。
喫茶店が緑色の海に沈んでるように見えた。
「…何してるん?
アイス、とけるで。」
ふいに穏やかな声が落ちてきて、驚くこより。
声をかけた男性は頭をかきながら
「ごめん、ごめん!
驚かすつもりはなかってん。
えらいクリームソーダ眺めてんなぁ…って思ってつい声かけてもうたわ。
そない、クリームソーダ珍しいん?」
と、優しい笑顔で言われたので、こよりは少し頬を赤らめながら言う。
「……クリームソーダ越しの景色見ててん…。
ほら、こうやって見ると……景色違って見えるやろ?
癖やねん…。」
男性はクリームソーダを覗き込んで感心したように言う。
「ほんまやな!
喫茶店がクリームソーダの中に入ってもうたように見えるやん!
おもろ〜!!
……ちょい写真撮ってもええ?」
一眼レフのカメラを出してニコリと笑う。
こよりは小さく頷くと、男性は何枚かシャッターを切る。
満足そうにしてから、ハッとこよりの方を向いて
「わぁ、アイスほんまにどんどん溶けてもうてるから、はよ飲み!!」
と促した。
こよりはクリームソーダを飲みながら
「……写真家さんですか?」
と聞くと
「いやいや、そんな名乗れるほどのもんちゃうけど…写真家目指してんねん。
あ、名前言うてなかったな。
たびとって言います。
ここの喫茶店のマスター、写真が趣味で、時々見てもらってんねん。
気に入ってもらえたら、店内に飾ってもらえるし。
あ、あの夕暮れの写真、オレが撮ったやつやねん。
ええやろ?」
「えっ!
そうなんや!
私、飾られてる写真の中で、1番ええなって思ったんよ!」
「ほんま!?
めっちゃ嬉しいわ〜!!
マスター、聞いた!?
オレの写真が1番やって!!」
マスターは黙ってこくりと頷く。
「良かったら、他の写真も見てくれへん?
感想聞かせてや!
……って、オレ浮かれすぎやわ!
嫌やったらちゃんと言うてな?」
こよりは首を横に振り
「嫌ちゃうよ!
見せて、見せて。
あ、私、こよりって言います。
この近くの美術学校通ってて……陶芸コースやねんけど、きれいな景色みたいな色の器、作れるようになりたいねん。
だから、写真、見せて欲しいです。」
たびとは嬉しそうに向かいの席に座り、リュックから写真を取り出した。
たびとの写真を1枚1枚眺めていくうちに、こよりの胸の痛みは徐々に和らいでいった。
一人暮らしをして初めて「この街に来て良かった…」と思えた瞬間だった。
おしまい。
