内緒だからな3【せりふ三題噺】
【お題】
■セリフ
「内緒だからな」
■三題
・第二ボタン
・たい焼き
・駐輪場
こちらのお題に参加させてもらいました。
思わぬ3部作になりましたが、1つ1つでも読めるはず…。
ケンちゃんとさつき、気持ち良く目を覚まし、時計を見ると、家を出ならければならない時刻の15分前だった。
2人は飛び起きて、ドタバタと仕事に行く準備をする。
ケンちゃんはシャツの第二ボタンまで開け放したまま、机の上に置いてあった、何か食べ物らしきものが入った紙袋を掴んだ。
「ほな、行ってくるわ!!」
玄関を飛び出して、自転車に飛び乗り、駅に向かう。
いつも乗る電車にギリギリ滑り込み、安堵のため息をついてふと手元の袋を見ると、それはさつきが楽しみにしていたたい焼きの袋だった。
(………すまん、さつき…
帰りに新しいの買うて帰るからな……)
心の中で深く詫びながら、ペロリと平らげた。
ーーその日の帰り道のこと。
ケンちゃんはたい焼きを買って、駐輪場で自分の自転車に乗ろうとしたが、自転車の鍵がないことに気づいた。
バッグの底も、ポケットをひっくり返してみたが、どうしても見当たらない。
途方に暮れていた時に、自転車屋『サイクル佐々木』の親父が通りかかり、手持ちの工具で鮮やかに解錠してくれた。
作業代を聞くも親父は「いらんわ」と受け取らない。
「ほな代わりに…」と、お土産に買っていたたい焼きを差し出そうとしたが、いかつい顔の親父が甘いものを頬張る姿がどうにも想像できず、「……いや、親父は食べへんか」と手を引っ込めた。
すると、佐々木の親父は、少し不服そうな顔をして詰め寄り
「ケン……お前もそう思うか…??
オレ、甘いもん食わんように見えるか?」
と聞いてきた。
そして周囲をキョロキョロと見回し、声をひそめて告白した。
「ほんまは、ホテルとかのスイーツビュッフェ行って、思う存分食べてみたいんや…。
でも、この面構えやろ?
気恥ずかしくて、行かれへんねん。
……ええか、この話、内緒だからな。」
親父はそう言い捨てると、ケンちゃんが持ってるたい焼きを1つ奪い取り、幸せそうな顔で食べて帰っていった。
ケンちゃんはポカンとして、その後ろ姿を見送り、帰宅するなりさつきに報告した。
さつきも「へぇ〜、意外やなぁ…」と言いつつも、ふと思いだしたように
「スイーツ好きなら、今度、公民館でやる、料理学校の生徒さんが作るオリジナルスイーツの評価会に誘ってみたらどうやろ?
あれ、女の人ばっかりやから、『男性の意見も欲しい』って言うてたし、親父さんにぴったりやん。」
と、提案した。
ケンちゃん「それ、めっちゃええやん!!」と身を乗り出して賛同し
「ほな、さつき、親父のこと誘ったってな!」
とさつきの肩をポンと叩く。
しかし、さつきは怪訝な顔をして言い放つ。
「何言うてんの。
私が誘うたら、ケンちゃんが私に喋ったことバレるで。
内緒なんやろ?
ケンちゃんが誘わなあかんやん。」
ケンちゃんは頭を抱えて項垂れ
「そやった…親父……内緒って言うてたわ…」
と言って自分の口の軽さを反省した。
さつきはその様子を見て少し笑い、ケンちゃんが買ってきたたい焼きを半分にわけて、ケンちゃんに渡した。
ーー数日後のスイーツ評価会の日。
ケンちゃんはうまいこと親父を誘いだし、親父は最初は戸惑いながらも、「若者の頼みなら仕方ない」と口元を緩ませて、並んでいるスイーツを堪能した。
親父の的確で愛のあるアドバイスは生徒たちの心を鷲掴みにしたが、隣のケンちゃんは「うまい・甘い・これみんな好きやろ、知らんけど」という雑な感想しか言えず、会場を微妙な空気にするのだった。
おしまい。
