ビー玉越しの世界【第47回3つのお題に空想のひらめきを】
🎈お題①:「秘密基地の約束」
🐾お題②:「ビー玉の世界」
⏳お題③:「帰りたくない夕方」
昭和ノスタルジーにも挑戦しました!
2000字弱ありますので、お時間ある時にお読み頂ければ幸いです。
よろしくお願いします🙇
ケンちゃんの家にこよりが来て、器をことりと机の上に置いた。
「ケンちゃん、約束のもの、ようやく完成したんよ。
……どうかな…?
あの時のお空の色、閉じ込められてるやろ?」
陶芸家のこよりが作った器は、浅いお皿の真ん中に、藍色と橙色が溶け合ったガラスが流し込まれていた。
ケンちゃんは器を手に取り、光にかざして眺めながら静かに答える。
「……ほんまや…。
あの時の…空の色やな…。」
--ケンちゃんとこよりは幼馴染だ。
小学生だった2人は、山の上にある神社の片隅にある古ぼけた納屋の中に、お気に入りのおもちゃを持ち込んで、秘密基地にしていた。
こよりが特に気に入っていた遊びはビー玉で、透明なビー玉越しにあちこち景色を見ることだった。
ある日の夕方、2人はいつものように秘密基地で遊び、ケンちゃんがそろそろ帰ろうか、とこよりに声をかけるが、こよりは頑なに動かない。
「日が暮れたら、暗くなるし、みんな心配するで?
また明日、遊んだらええやんか。
ほら、手ぇ繋いだるから帰ろ?」
「いやや!!
どうしてもビー玉越しに見たい景色あんねん。」
こよりは、夕焼けのその先を見たい、と言い出した。
ケンちゃんは、ちょっとため息をついて、こよりの隣に座り込む。
「怒られる時は、お前が率先して怒られろよ!
ったく…。」
2人はそのまま、空をぼんやりと眺めた。
こよりがポツリと言う。
「…今日は、空気がきれいやねん…。
山の緑がはっきり見えるやろ?
だから……今日の空は、いつもより、ずっときれいやねん…。」
太陽が刻一刻と沈んで、空は橙色からどんどん赤くなり、濃い藍色へと変わっていく。
こよりとケンちゃんは、その景色をビー玉越しに眺める。
「ビー玉の中に、お空が入ってるみたいや…。」
嬉しそうに言うこよりを見て、ケンちゃんもビー玉の中にうつる夕焼け空を見ながら「ほんまやな…」と小さく呟いた。
太陽が完全に沈んであたりが暗くなった時、こよりは満足したように立ち上がってケンちゃんに言った。
「ケンちゃん、ありがとう!
私な、いつかこの景色を形にするからな。
いつになるかわからへんけど、待っててな。
約束やで!」
少し驚きつつもケンちゃんは、ニカっと笑って言う。
「おう!
思ってた以上にええ景色やったし、うまいこと形にしてくれや。
待ってるわ!」
そして、2人は暗い夜道を手を繋いで帰り、案の定、親にはこっぴどく叱られた。
--ケンちゃんは、器を静かに机の上に置き、少し笑いながらこよりに近づいて言う。
「そういや、あん時よ〜。
めっちゃ怒る親の前に、俺を突き出して、お前、後ろに隠れてたやろ!
めっちゃ思い出したわ!」
こよりは、とぼけたように目を泳がせて
「……そやったっけ〜??
ケンちゃんが率先して怒られてくれたんちゃうかった??」
と、苦笑いする。
2人は顔を合わせて笑い合う。
笑いが落ち着いた頃に、ケンちゃんはこよりをまっすぐ見つめて言う。
「ほんまに形にできるとは思わへんかったわ…。
…こよりは、すごいな…。
大事に使わせてもらうわ。
ありがとう。」
こよりは少し照れくさそうにしながら言う。
「……多分、あのビー玉越しの世界を見ていなかったら……ものづくりの仕事してなかったと思うねん…。
こちらこそ…あの時、一緒にいてくれてありがとう…。」
2人の間に、あの頃の木々のざわめきや、からりと乾いた空気と少しひんやりした空気が蘇る。
そんな懐かしい香りが漂い始めた時、
「ただいま〜。
あれ?
こより?
どないしたん?
新作でもできた?」
こよりの姉・ケンちゃんの妻のさつきが帰宅した。
こよりはハッとして、すぐにさつきに笑顔を向ける。
「さつき姉さん、おかえり!
そやねん、新作できて持ってきたんよ。
ずっと作りたかったの、できてん!
見てみて!」
「わぁ!!
めっちゃきれいな色……。
使うのもったいないわぁ…。
飾ろうかしら!」
「何言うてんの!
私の作る器は使ってなんぼやで!
いっぱい使ってや!」
「…ほな、遠慮なく…。
あ、こより。
夕飯食べて帰る?
せっかくなら、この器使おうかな?」
「あ〜……今日は、彼と最近オープンしたイタリアンのお店に行く約束してんねん。」
「たびとくんと?
ほんま仲ええなぁ!」
「うん。
だから、夕飯はまたの機会にね。
ほな、お邪魔しました〜!」
こよりは、軽やかな足取りで帰っていく。
ケンちゃんはその後ろ姿を見送って、器を再び手に取る。
指先に伝わる陶器の温もりは、あの日繋いだ手の温もりとは違うけれど。
今のケンちゃんにとっては、これが一番落ち着く、今の温度だった。
約束を果たした器は、あの頃の夕焼けを閉じ込めたまま、ケンちゃんの大切な思い出の一つになった。
おしまい。
